忍者ブログ

開催してほしい展覧会(20世紀前半篇)

ミュージアムショップについて(1975)

次の本が刊行されています。

 

ミュージアムグッズのチカラ

大澤 夏美

国書刊行会

2021.7

 

近年ミュージアムグッズはかなり注目されており、従来からミュージアムグッズに関する本は刊行されていましたが、それらは、本当に、おみやげとしてのミュージアムグッズを紹介するという感じの本ばかりでした。

今回のこの本は、より思想的な部分にも踏み入っており、単なる「グッズの紹介本」ではなく、開発の部分の紹介であったり、ミュージアムショップやミュージアムグッズが「おまけ」のようなものではなく、博物館・美術館の重要な一部であるという立場からの紹介に重点が置かれています。愛好家であるとともに研究者でもある、この著者ならではの本と言えるでしょう。

 

そのような方向は、もろ手を挙げて賛成いたします。個人的にも、ミュージアムショップやミュージアムグッズは必須のものであると確信しております。

(個人的には、もっと広げて、すでに多く存在するスポーツのチームグッズに加え、大学グッズ、企業グッズも必須なのではないかと思いますが、ここではこれ以上この点については立ち入りません。)

ただ、本としては、割とページも少なく、その結果紹介されているミュージアムグッズも限られていますので、ぜひとも、続篇の刊行を期待したいと思います。とともに、ミュージアムショップやミュージアムグッズはどうあるべきか、また、まだオリジナルグッズの制作に踏み出せないでいる多くの博物館や美術館のために、どういう開発の可能性があるのかのヒントなど、より突っ込んだ内容また専門家向けの実用的な内容の書籍の刊行も期待したいところです。

 

ただ、当方が、この著者と少し立場が違うとしたら、ボールペンでしょうか?

と書いても、何のことかさっぱりお分かりにならないと思いますので、お分かりいただけるように書きますと、ミュージアムグッズとしての「オリジナル・ボールペン」ですが、これほどありふれて、どの博物館・美術館でも制作でき、じっさいにどこにでもあるものもないのではないでしょうか? それでは、このようなボールペンは、くだらない不要な物でしょうか? この著者はそんな言葉はお使いにならないでしょうから、もう少しやわらげて書きますと、博物館・美術館の個性と結びつきにくく、工夫と智慧、さらに書けば独創性(オリジナリティ)が必要とされるミュージアムグッズとしては望ましくない物でしょうか?

個人的には、実は、ボールペンであっても、十分に個性が出せると思っています。個性とはいっても、書きにくくなるくらい極めて奇妙な形のボールペンであったり、工芸的・細工的に高度なボールペンであったり(特別な素材を用いたり、一部が液体の中で動くようなおもちゃのような物であったり)する必要は必ずしもありません。もちろん、そうであってもいいのですが、その特別な点(個性)が、その博物館・美術館と結びつかなければ、意味はないでしょう。

 

当方のイメージは極めて簡単で、手抜きとすらいえるでしょう。例えば、その美術館に古賀春江の「海」が所蔵されているのであれば、その一部をボールペンの軸にプリントすれば、いいのです。実際そのようなボールペンが、東京国立近代美術館では販売されています。

そんな安易な、とお思いになる方も多いのではないかと思いますが、しかし、実際、そのようなボールペンはその博物館・美術館でないと制作されないはずですので、オリジナリティという意味では極めて決定的だと考えます。そして、そういうものが安価でもあるので(ボールペンとしてはそんなに安価でもないかもしれませんが、美術・工芸的なミュージアムグッズに比べれば、間違いなく安価です)、案外当方のように欲しい人間がいたりすると思います。もちろん、その博物館・美術館の名称やロゴさえ入っていれば、オリジナリティはあるということにはなってしまうのでしょうが、さすがにそれでは工夫が足りないと思います。せめて所蔵品(の一部)を含めていただきたいと思います。

ただ、一度制作してしまうと売らねばなりません。ボールペンというものの最小ロットが何本であるのかは知りませんが、仮に1000本製作してしまったら、いったい売り切れるまでに何年かかるのでしょうか? 同じお客さんが2本も3本も買ってくれるとも思えませんし、リピーターとして2回目以降に訪れたときには買ってもらえない可能性が高いでしょう。その意味では、別に制作会社の営業ではないのですが、多少割高になっても少なめに制作する、そして、できれば、毎年新しいものを制作する、というくらいが、面白く、またリピーター対策(?)にもなっていいのではないかと思っています。最近であれば、そういうオリジナルグッズ制作の需要も増えていると思いますので、少数のものを、ひどく高額な費用ではなく、しかも出来上がりは安物のようにはならないという、わがままな希望も、あながち不可能ではないのではないか、と楽観的に思っています。

 

以上は、ボールペンに限られた話ではなく、シャープペンでも鉛筆でもキーホルダー(キーチェイン)でもピンバッジでもメモ帳でもノートでもその他これらに類するものでも同じことがいえると思います。

ポイントは、簡単にどの美術館・博物館でも制作でき、比較的安価で販売できるけれども、所蔵品を活用することで最低限のオリジナリティがある、という点です。

 

なお、ここで申し上げたいのは、こういうありふれたものさえあればいいんだということではなく(しかも、ありふれたものばかりたくさんの種類を取りそろえるべきだとか、取り揃えればそれですむのだということではなく)、より一層工夫されたミュージアムグッズは日々案出していただきたいと思う一方で、そういうものは高価になりがちで、かつ好みも分れるでしょうから、安価で入手しやすい、こういうありふれたものも同時にあってほしいという、きわめて個人的な私の願いです。

「あの美術館でボールペンでも販売していたら購入したのに」と何度残念に思ったことでしょうか。このような小さな意見が美術館や博物館のかたにもご参考になれば幸いです。

なお、当方が制作側であれば、例えボールペンでも、そのままでは満足せず、絶対「ひと工夫」したいと思いますけれどね。

 

最後に、ミュージアムグッズでも、オリジナルボールペンなど「ありふれた」ものばかりを集めた紹介本、実はほしかったりするのですが、どなたかおつくりになりませんか?

そういう本をもしも見ることができれば、「ありふれた」と思われがちなものたちが、本当は「ありふれていない」と気づくことができるかもしれません。

拍手[0回]

PR

コメント

プロフィール

HN:
Akihoshi Yokoran
性別:
非公開

P R