愛知県美術館の安井仲治展開催まで2週間を切りましたが、まだ出品作品リストなどは公開されておりません。
https://www-art.aac.pref.aichi.jp/exhibition/000409.html
ただ担当の学芸員のかたはわかりました。
中村史子さんです。
https://www.aac.pref.aichi.jp/aac/aac117/contents/202309/index06.html
更なる情報に期待します。
少し前、No.2059で「都道府県ごとの「郷土の」写真家(20世紀前半)」についての写真展への期待を寄せました。
しかし、そんなことを書いたくせに、正直申し上げると、日本各地方での昭和戦前期の写真展については、やや絶望的に思っています。
というのも、東京都写真美術館が第一次開館した1990年を1つの節目と考えるならば、それから30年余が経っているわけですが、それでも何もないということは、今後も期待できないのではないかと思っているからです。
例えば、北海道を例にとりましょう。昭和戦前期(20世紀前半)の北海道の新興写真・前衛写真の作家は誰なのか?
北海道の写真というと、木津幸吉(1830~1895。1869年には東京浅草に写真館を開業)、田本研造(1832~1912)、武林盛一(1842~1908。1885年には東京に写真館を開業)などの19世紀の写真家が非常に有名で、その後は、掛川源一郎(1913~2007)まで飛んでしまうようです。掛川は、戦前から写真家として活動していたようですが、主たる活動は1950年代以降です。
ようするに、20世紀前半部分はすっぽりと抜け落ちてしまっています。では、その期間に、北海道には写真家はいなかったのでしょうか? あの広い北海道で、そんなことがあるはずがありません。19世紀に続いて、写真館・写真スタジオはたくさんあったでしょうし、プロの写真家では、新聞社や出版社にも多くおられたでしょう。さらに、20世紀前半の新興写真・前衛写真の担い手の多くがアマチュア写真家だったことを考えれば、アマチュア写真家でもいいわけで、それであれば、写真館などのプロの写真家の何倍も、もしかしたら何十倍もいたかもしれません。
では、それらを系統だてて、網羅的に整理したような資料はあるでしょうか? 当方は寡聞にして知りません。
さて、このように、情報が入手できない場合には、その先はどうしたらいいでしょうか?素人としては、どこに質問していいかもわかりません。やみくもに、北海道の中にある、美術館、博物館、資料館、図書館などに個別に連絡をとっていたらきりがありません。ちなみに、図書館に問い合わせたりすると、「どの写真家について調べているのですか?」と写真家の名前を逆に質問されたりすることがあります、そうではなくて、そもそもどんな写真家がいるのか名前を知りたいから問い合わせているのですが、しかし、具体的な名前もないと、図書館などでさえ「検索」が難しくてできないのでしょう。当方も大変苦労していますので、よくわかります。
また、その都道府県や一地方の1人や2人の写真家の名前がわかっても(何もないよりはましですが、それでも)、あまり役には立ちません。望ましいのは、北海道各地の写真館やアマチュア写真家(アマチュア写真倶楽部)が、いつどのように開業・結成されて、どういう発展をし、どういう弟子や新しい仲間を迎えて、次の世代に(さらに戦後まで)引き継がれていったのか、というような大きな流れが理解できる、系統的、網羅的(全道的)な情報です。
以上、北海道には申し訳ないのですが、例として取り上げさせてもらいました。しかし、この惨状は、ひとり、北海道だけの状況ではありません。沖縄の情報はない、九州はソシエテ・イルフだけ、中国・四国も情報がない(広島・岡山に限って考えても、新興写真・前衛写真の動きがまったくなかったはずがありません)、北陸も石川県にやや情報があるものの、富山・福井の情報はない、長野もない。関東でも、東京に情報が集中していて、その周りの各県については情報がありません。あの横浜のある神奈川県ですら、20世紀前半において神奈川県で主として活躍した写真家を30人挙げてください、という質問に回答できる人は誰もいないでしょう。(もし、おられるなら、どなたなのか教えていただきたいところです、ご連絡差し上げて、教えを乞います。)
困るのは、京都についてさえも情報がないのです。例えば、小林祐史らのKPS(キヨウト・ホト・ソサエテ)についてすら、MEMでの企画と資料しか存在しないのではないでしょうか?
https://mem-inc.stores.jp/items/62da0ce2d19123652687f2e7
このような状態、やはり今後も改善される可能性がないのではないかと、絶望的な気持ちになってしまっています。
素人の立場からは、このような状況に対して、何をすればいいのでしょうか? 何か役に立つことはないのでしょうか? 単に待っているしかない、というような単純な考えは捨てて、何かできることはないか、しぶとく考えていきたいと思います。
対象が戦後であり、しかも、もう、ちょうど1年前なので、情報が遅くて申し訳ありませんが、次の本が刊行されています。
戦後日本の抽象美術―具体・前衛書・アンフォルメル
尾﨑 信一郎
思文閣出版
2022/09発売
価格 ¥8,250(本体¥7,500)
目次(一部情報なし)だけ記載しておきます。
目次
第1部 具体とアンフォルメル(具体 絵画へいたるアクション;具体と山村コレクション;アクションの発見一具体、ポロック、カプロー ほか)
第2部 書と抽象絵画(森田子龍と前衛書;書と抽象絵画―1950年代の二つの実践;書とミニマル・アート ほか)
第3部 戦後美術を読み直す(1950年代のキュビスム;アメリカの影;身体と場―日本の戦後美術におけるアクション ほか)
展覧会カタログに寄稿した論文を中心とした論文集。ぜひ、実物を手に取って見てみたいものです。
まだ展覧会は新潟市美術館で会期中。
他方、展覧会カタログはもうとっくに書店に並んでおりますが、このスレッドの観点からも、戦前の部分に見るべきものがあります。
ただ、やはり、物足りない。
瀧口修造に関する戦前の写真関係だけで(本書で言えば、第1章がカバーする範囲だけで)、この1冊くらいの量は必須です。
そういう展覧会企画、または書籍を強く希望します。
(瀧口修造の活動を考えれば、量・質ともそれ以上ではないかと思いますが、いきなりは、そのような企画・書籍は無理でしょう。)
今回の本の目次だけ以下に掲載しておきます。
目次
第1章 1930‐40年代 瀧口修造と阿部展也 前衛写真の台頭と衰退(はじまりのアジェ;阿部展也、美術作品を撮る;『フォトタイムス』における阿部展也の写真表現;「前衛写真協会」誕生とその時代、その周辺―「前衛写真座談会」をきっかけに)
第2章 1950‐70年代 大辻清司 前衛写真の復活と転調(大辻清司、阿部展也の演出を撮る;大辻清司の存在論のありか―「APN」前後の動向を手がかりとして;『文房四宝』―モノとスナップのはざまで;私(わたくし)の解体―「なんでもない写真」)
第3章 1960‐80年代 牛腸茂雄 前衛写真のゆくえ(桑沢デザイン研究所にて;日常を撮ること;『SELF AND OTHERS』(1977)
紙上に浮かび上がるかたち 牛腸茂雄と瀧口修造
『見慣れた街の中で』(1981))
先に、兵庫県立美術館で開催されるとご紹介した「安井仲治展」ですが、なんと、それに先んじて、愛知県美術館で開催されます。
生誕120年 安井仲治
[会期]2023年10月6日(金)~11月27日(月)
[会場]愛知県美術館(愛知芸術文化センター10階)
[主催等]
[主催]愛知県美術館、日本経済新聞社、テレビ愛知、共同通信社
[協力]銀遊堂、PGI、株式会社アフロ
[助成]公益財団法人ポーラ美術振興財団
https://www-art.aac.pref.aichi.jp/exhibition/000409.html
展示作品リストが早く公開されることを期待いたします。
しかし、名古屋市美術館(竹葉丈氏、笠木日南子氏)ではなく、愛知県美術館というのは、どういうことなのでしょうか? 担当の学芸員のお名前もわかりませんが、愛知県美術館でも写真ご担当の新しいかたが育っているということでしょう。今後の写真展企画にも期待いたします。
最後に、本展、関東にも巡回するのでしょうか? 何といっても安井仲治ですから、ぜひ巡回していただきた。関東以外もお願いしたい。来たから、北海道、東北、北陸、中国、四国、九州と全国「行脚」くらい、お願いしたいところです。