先に、「瀧口修造と前衛写真(2221)」で書きました「瀧口修造と前衛写真」への不満の第2点は以下のとおりでした。
・関西(浪華写真倶楽部、丹平写真倶楽部、芦屋カメラクラブ、アヴァンギャルド造影集団など)との個別具体的な接点に言及がない。フォトタイムスの2つの座談会(要するに、議論がかみ合っていないこと)の紹介のみに終わってしまっている。特に、瀧口の日本の写真に対する発言が非常に少ないことが気になります。
以上ですが、以下詳細です。
瀧口は、海外の写真家については、いろいろと評論があります。初期の評論で、マン・レイ(1931年)、アジェ(1934年)をとりあげているほか、その後も、モホリ=ナギ、ボーバラ・モーガン、FSAなどについても書いています。
しかし、日本の写真家に対する言及が非常に少ない、あまりに少ない。瀧口の評論をすべて読んだわけでもありませんが、日本の写真作品について言及しているのは、本書でも紹介されている、雑誌「フォトタイムス」での2つの座談会(1938年と1940年)のみといってもいいくらいではないでしょうか?
例えば、
・中山岩太や芦屋カメラクラブ(1930年結成)
・写真集『カメラ・眼×鉄・構成』(堀野正雄・板垣鷹穂)(1932年)
・写真集『初夏神経』(小石清)(1933年)
・『飛行官能』(恩地孝四郎)(1934年)(『博物志』は1942年)
・写真集『眠りの理由』(瑛九)(1936年)
などについて、瀧口がどのように受け止めていたのか、どのように評価ししていたのかがさっぱりわかりません。
(なお、「前衛写真協会」の結成は、1938年です。)
しかし、ここでは、このような個別の作家や作品ではなく、大きな次の2つの項目について瀧口が言及していないことを考えてみたいと思います。
・独逸国際移動写真展(1931年)
・雑誌『光畫(光画)』(1932年~1933年)
前者の「独逸国際移動写真展」は、非常に重要な写真展であって、飯沢耕太郎さんの本によると、堀野正雄が次のように触れています。
「殊に、新興写真を単に版画の上に於てのみ観賞すること以外に、夫に接する機会を恵まれなかつた我々にとつては、此展覧会は何を差しおいても繰返し充分会得の行くまで観ることが必要であると同時に、今後此の展覧会を観ずして新興写真を論及する者があるとすれば、相応の反省を促し度いと私は考へる。」(フォトタイムス1931年8月「新らしい写真家」)(飯沢耕太郎の「写真に帰れ 『光画』の時代」(平凡社、1988年)の61ページ)
当初、瀧口の活動の時期からして、この展覧会は活動開始の前だったのかとも思いましたが、あにはからんや、瀧口の最初の写真に関する評論「マン・レイ」は、奇しくも、上記堀野の文章と同じ号のフォトタイムス1931年8月号に掲載されています。とすると、すでに(写真)評論家として東京で活動を始めていた瀧口がこの展覧会を知らなかったはずはありません。この展覧会は、マン・レイの作品もモホリ=ナギの作品も含まれていて、さらには、アジェの作品も含まれていた可能性がありますから、瀧口がこの展覧会に関心を持たないはずはなく、プロとして行かなかったとは考えにくいところです。
(ただし、出品作家については、この展覧会の作品目録による確認はできていません。故・金子隆一氏が、この目録を所有しておられたということなので、東京都写真美術館におけるネットでの公開が待ち望まれます。)
とすると、瀧口がこの展覧会について何も書いていないのは奇妙に思えます。
次に、雑誌『光画』についてですが、これについても、瀧口による言及がないようです。
木村伊兵衛の作品や伊奈信男の評論については、瀧口の考えとも共鳴する部分があったのではないかと思いますし、伊奈信夫とも接点はあったのではないかと思うのですが、この点についての手掛かりはありません。野島康三というパトロン的活動についても、評価は明らかではありません。素人としての写真へのかかわり方ということで、低い評価だったのかもしれませんが。
ただ、この雑誌は、当時有名な雑誌だったかというとそうでもなかったようですので、写真評論家として、そのアンテナの低さはいかがなものかとは思うものの、瀧口がこの雑誌を知らなかったという可能性は否定できません。
情報も資料もないので、これ以上書くこともままならないのですが、いずれにしても、瀧口が当時、フォトタイムス上で多くの評論を発表していたにもかかわらず、それ以上に、日本の写真家や日本での写真動向といろいろとかかわっていたという状況が見えてきません。「前衛写真協会」の活動も含め、何となく孤立感があります。
このあたりを、伊勢さんには突っ込んで書いていただきたいものです。資料が発見できなければ、推測しかできませんので、書くことも難しいのかもしれませんが、そこは専門家の力量で公になっていないような資料の掘り起こしなどをお願いしたいところです。