No.1865、No.1881、No.1931でご紹介した、名古屋市美術館の企画『「写真の都」物語』ですが、刊行された書籍を見ていると、図版掲載写真家名以外にもいろいろと参考になる基本的情報が掲載されていますので、以下抜粋します。
1.写真クラブ名、雑誌・同人誌名、写真家名、雑誌記事など
各章の解説(といっても4ページずつだけですが)にも写真クラブ名、雑誌・同人誌名、写真家名などが記載されていますので、以下、2章と3章に限って、掲載いたします。人名だけではなく、参考情報等も箇条書き風に付しています。
II モダン都市の位相─「新興写真」の台頭と実験
独立写真研究会(1931年10月に創設、機関誌『独立』全4号(1932年4月まで)が確認されている)
清水賢太郎、富田八郎、小此木光也の3名で創設。創立時の会員は16名(3名の他に、海部誠也(1899-1983)、三國庄次郎、山本勘助(のちの、山本悍右、1914-87、1915-1987?))。
愛友写真倶楽部の第二世代(海部誠也、三國庄次郎、紅村清彦)
写真雑誌『カメラマン』(1936年10月創刊)
成田春陽、並木圭夫、永田二龍(1885-1968)、紅村清彦(1899-1969?)の4人を同人として創刊
1937年11月には、三國庄次郎、高田皆義、小此木光也、佐溝勢光が同人に加わり、以降永田二龍が主幹を務める
創刊号「モンタージュについて」、創刊2号「フィルター、レンズフードについて」(以上2回、「特輯・小石清氏は語る」)、花和銀吾も寄稿。花和は1937年4月には来名し、曙写真倶楽部の月例会に参加
1937年10月:紅村清彦『スナップ写真の写し方』(アルス)
坂田稔(1902-1974):1934年12月:なごや・ふぉと・ぐるっぺ結成、2年足らずの間に会員45名
曙写真倶楽部:1936年結成、発起人:紅村清彦、小足良之助、佐溝勢光。他に、稲垣泰三、近藤龍夫、高橋善一、木村秀利、小島祐三らが在籍
III シュルレアリスムか、アブストラクトか―「前衛写真」の興隆と分裂
坂田稔:1941年3月に「報道写真へ転出」
坂田稔「主観を基礎とする私の写真技法」(『カメラアート』1937年3月号)
坂田稔:「フオトアブストラクシオンとフオトシユルレアリズム」『写真月報』4回連載
坂田稔「"超現実主義写真"と"抽象造影"の具体的な解説」(『写真サロン』1939年5月から2回連載)
『フォトタイムス』「前衛写真座談会」を受けて、
『カメラマン』No.29(1939年2月)「前衛写真再検討座談会」(編集部から永田二龍、高田皆義。他、下郷羊雄(1907-81)、山中散生(1905-77)、坂田稔)
1939年2月:「ナゴヤアバンガルドクラブ」(1937年11月17日発足)から「ナゴヤ・フォトアヴァンガルド」を結成(山本悍右も参加)
1939年11月に解散
1940年7月:坂田稔「新しき草履」(『カメラアート』)
『カメラマン』No.50(1940年11月1日)が終刊号(主筆・永田二龍が県警特高の検閲係から出頭を命じられる)
曙写真倶楽部:第五回曙展(5周年記念事業)1941年?
下郷羊雄1940年3月『メセム属』→1941年3月に画家として「再出発」するために京都に転出
坂田稔『造形写真』(1941年1月)
→写真雑誌『報道写真』に「報道写真への転出のために」
2.第4章の目次、掲載されている作品の写真家
戦前と戦後とつながっている、と常々言っているくせに、No.1931では、この本の戦後の部分を完全にを切り離してしまいました。戦前とつながっている第4章についても目次と写真家を掲載します。写真家については、いずれも、戦前でおなじみの名前ばかりですが。
IV 客観と主観の交錯─戦後のリアリズムと主観主義写真の対抗
シュルレアリスムの復活─〈VIVI 社〉/主観主義写真─ モチーフを作り上げる/リアリズムの台頭
後藤敬一郎
山本悍右
高田皆義
服部義文
田島二男
臼井薫
なお、VIVI社は、高田皆義、山本悍右、服部義文、後藤敬一郎が1947年に結成。
以上です。
なお、上記の雑誌記事のうち「フオトアブストラクシオンとフオトシユルレアリズム」については、次の書籍に再録されているので読むことができます。(ただ、この本自体が特殊な本なので、限られた公立図書館でしか見つけられないようです。)
コレクション・日本シュールレアリスム(和田博文/監修、本の友社)
・第3巻 シュールレアリスムの写真と批評(竹葉 丈/編、2001年12月)
(なお、本展覧会カタログには「4回連載」と記載されているのですが、この再録では(一)~(三)と、いかにも3回分のようなので、どちらかが間違っているのかどうかなど、確認が必要です。)
しかし、この再録本に再録されているのは、上記のいくつかの記事のうちこの記事だけです。これ以外の記事も読んでみたいのですが、例えば、雑誌「カメラマン」は、どこの(公立)図書館に行けば見つかるのでしょうか? 実際に探してみなければわかりませんが、おそらく国立国会図書館とか東京都写真美術館とか、限られた場所にしかないでしょう。名古屋市美術館には所蔵されているのかもしれませんが、一般の利用者は見ることができないかもしれません。
こういうケースがあるからこそ、雑誌や美術書の電子化を一層進めていただき、実際に目にすることが難しい貴重な資料こそどこからでも見られることができるようにしていただきたいところです。