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開催してほしい展覧会(20世紀前半篇)

木村専一展(1896)

No. 1893No.1894の続きですが、「木村専一展」をぜひ開催していただきたい。

「新興写真展」の続篇の1つのアイデアです。

 

書籍「『光画』と新興写真」に掲載されている、木村専一の経歴は以下のとおりです。

 

木村専一 きむら・せんいち 一九〇〇-一九三八

 徳島県に生まれる。森芳太郎に師事し、写真乃友社に入社。『写

真の友』、『写真文化』の編集者となるが、オリエンタル工業(現サ

イバーグラフィックス)に移り、宣伝部長となる。同社から『フォト

タイムス』が創刊されると主幹に就任。一九三〇年に新興写真研究

会を組織し、機関誌『新興写真研究』を発刊。三一年に欧米視察旅

行に行き、多くの写真家や写真関係者と交遊した。その際に手に

入れた写真を日本に持ち帰り、『フォトタイムス』誌上で紹介する。

帰国後に同社を退社、武蔵野写真学校を設立し、写真教育に従事し

た。

 

これだけ見ても、わからないことが多すぎます。

 

・「森芳太郎に師事」とは、どいう経緯で、何をしていたのか、成果は何か

・「写真乃友社」時代の活動は?

・「オリエンタル写真工業」に移った経緯は? 20代という若さにして急に宣伝部長とは相当な期待だが、その背景は?

・『フォトタイムス』創刊から新興写真研究会結成への経緯は? オリエンタル写真工業の意図は? 経営者に理解があったということか?

・「欧米視察旅行」の詳細は? 交遊したという現地の「多くの写真家や写真関係者」とは誰?

・「武蔵野写真学校」とは? 設立の経緯・理念、共同設立者、講師は誰、学生は誰、何をどう教えていた、1934年の設立後4年ほどで木村専一ご本人は没してしまうので、その後はどうなったのか?

 

木村専一で、本が1冊書けますよね。

 

木村専一を超えてより広く考えると、「新興写真」の動きが、ごく短期間でなくなってしまった理由も明らかではありません。

 

「新興写真」が短命に終わり、結局、ほとんど東京と大阪の一部に限定された動き、しかも参加者も極めて偏っており、「新興写真研究会」と「光画」のメンバー同士も接点があまりない(ほとんどメンバーの重複がない。会員リストを見ると、せいぜい、飯田幸次郎と花和銀吾のみ)、重要な小石清や金丸重嶺もこれら2つの動きからはなぜか距離を置いていることなどを考えると、実は、当時、新興写真という呼び方は盛んにされたのかもしれないけれども、到底、日本写真界全体の動きだったとは言えず、「運動」としてはほとんど成立していなかったといっても過言ではないのではないでしょうか? しかし、そうだとしては、その理由は何か? その弱さは何か? 木村専一も、早々と「新興写真研究会」や「フォトタイムス」から手を引いてしまったのは、何故なのか?

新興写真は、その後、報道写真とシュルレアリスム系の前衛写真に分裂していったわけですが、シュルレアリスムと新興写真との関係も不明です。そもそも、「Film und Foto」ひいては「独逸国際移動写真展」が新興写真を非常に幅広くとらえていたので、バウハウス的な写真も、シュルレアリスム的な写真(特にフランス)も、両方がごちゃごちゃに含まれていたようです。(その確認のためにも、「独逸国際移動写真展」の出品作品リストの早期公開が望まれます) その理由は何だったのでしょうか? また、「前衛写真協会」の瀧口修造などのメンバーは、シュルレアリスムの観点から、座談会などで関西系の写真家たちとその前衛的な作品を「形式を重視しすぎだ」等と批判している向きがありますが、そもそも、新興写真はシュルレアリスムだけだったわけではなく、いわゆる「広告写真」なども含まれていることから考えても、関西系の写真家からすれば、おそらくシュルレアリスムのみを標榜していたわけではないので、このような批判には大きな違和感があったのではないでしょうか? 他方、瀧口らシュルレアリスム信奉者からすると、前衛的な写真家たち(の一部)による、シュルレアリスムを道具、と言って悪ければ、単なる表現の一手段として用いる姿勢が許せなかったのかもしれません。

 

いずれの疑問も「『光画』と新興写真」展では、充分には明らかになっていません。これは、同展を非難しているわけではなく、同展が開催されたからこそ、このような疑問点の数々が浮かび上がってきたのです。閉じていないという意味でも、この企画には大変大きな価値があったわけです。

例えば、木村専一を深く掘り下げることで、藤村里美さんの論文「新興写真とはなんだったのか」の続篇も当然に可能となるでしょう。

つづきはどうなるのか、強く期待して、楽しみに待っております。

 

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Akihoshi Yokoran
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