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開催してほしい展覧会(20世紀前半篇)

AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争(1908)

次のような面白い本が刊行されています。

 

AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争

庭田杏珠×渡邉英徳(「記憶の解凍」プロジェクト)

光文社新書

2020/7/15

1650円(税込)

 

そもそも、「昔の写真」ということで刊行される本というと、たいてい、江戸時代末から明治にかけての写真か、戦後昭和30年代・40年代の写真を扱う本ばかりで、その間の大正・昭和戦前期(20世紀前半)の写真が対象になるということがまれであったりします。

そんな中で、この本の対象が、昭和戦前期(戦後まもなくまでが少し入っていますが)だというのが、まず特徴です。

 

次に、これが、この本の最大の特徴ですが、もとの写真は時代からいってほとんどモノクロ写真ですが、これをカラー化して掲載しているいう点。一部は、オリジナル写真とともに掲載している場合もありますが、かなりはカラー化した写真のみの掲載のようです。

 

最後に、ほとんどが一般のアマチュアによる日常生活の写真であるという点が第3の特徴でしょう。一部ニュースの写真と考えられるものも含まれていますが、たいていが街角で普通の市民が撮影した写真のようです。そして、それからすれば当然ですが、必ずしも撮影者が誰かがわからない(または撮影者を明記していない)作品がほとんどを占めているようです。撮影者の記載ではなく、誰から提供された写真なのかが記載されていたりします。以前少し書きました、要するにアノニマスの写真ですね。すなわち、ニュース性を持った写真や有名な人・物・事を撮影した作品も含んではいるもののそれに限られない極めて日常的な写真が多く含まれる、にもかかわらず撮影された対象に関心の目が向けられる写真ということになります。

 

さて、第2の点について少し書いてみます。個人的には、必ずしもモノクロ写真のカラー化に関心があるわけではなく、それに賛同するものではありません。モノクロ写真にはモノクロ写真の良さがあり、それをわざわざカラーにする必要はどこにあるのだろうかという素朴な疑問を持っています。場合によっては、撮影者の撮影意図を否定しかねません。当方と同様にそう反発を感じる方も多いでしょう。特に、写真史の中にすでに位置付けられているような写真作品についてであれば、皆さんにもご理解いただけると思います。

しかし、

カラー化された写真を実際見てみると、その力に驚かされます。なまなましく、写真に映されたものが立ち上がって来るのです。決して見たことはないはずの風景や事物が。人間というものは不思議なものです。

おそらく、カラー写真とは何かという問題を突きつけていると思います。写されたものと記憶や体験、その関係が、カラー化によってどう変わって来るのか、そこを考えねばならないのではないでしょうか。別な言い方をすると、「見ること」と「カラー・モノクロの違い」との関係です。単純に、「リアリティ」という一言で片づけられないものがあると考えています。個人的には、何か心を揺さぶられる感じがします。見たことがないはずの場面であるにもかかわらずです。人間の「印象」「感受性」とは何なのか、恐ろしく思います。

皆さんにも、この感覚をぜひ体験していただきたいと強く思います。

(なお、実際に体験したことはありませんが、テレビがカラー化されたときにも、同じような感覚があったのかもしれません。)

 

また、すでに頻出しているありふれた問題ですが、オリジナルとは何なのか、という問題も改めて惹起されるでしょう。権利者が誰なのか、という武骨な問題も当然ながら、むしろ、無限のオリジナルがありうる(しかも、質にこだわらなければ、誰でも簡単に、しかもきわめて大量に制作できる)ということになって、これは「美術」の観点からはどういう把握をすればいいのか、という問題のほうがかえって重要なのではないかと思います。今のところ、当方はどう考えたらいいのか、さっぱりわかりません。

 

なお、カラー化ですが、いわゆる「プロの写真」については、著作権(著作者人格権?)の問題があって、ご本人かご遺族のご了解がなければ、発表することは無理でしょうね。残念なようなほっとするような感じです。ただ、アマチュアだからご本人かご遺族のご了解が一切不要だということはないでしょう。プロアマかかわらず、著作権は発生しますので。今回は、どういう処理をしているのか、説明が本書の中にあるのかもしれません。

 

最後に、新書に期待するのは酷でしょうが、必ず、もとのモノクロ写真とカラー写真を対比させていただきたかった。やはり、オリジナルのモノクロ作品を見て、いちいち対比したかった、というのがあるからです。

 

いずれにしましても、単純に孤立した成果というわけではなく、きわめていろいろな問題が付随して出てくる問題作といえるでしょう。今後の様々な議論とともに、続篇に期待します。


 

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Akihoshi Yokoran
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