次の本が最近刊行されました。
写真集を編む。
別冊太陽編集部 編
別冊太陽 スペシャル
出版年月 2021/04
ISBN 9784582946055
判型・ページ数 A4変 120ページ
定価1,540円(本体1,400円+税)
https://www.heibonsha.co.jp/book/b561084.html
末尾に掲げた目次を見ていただけると、それだけでお分かりのとおり、とても面白い、充実した内容です。特に、『巴里とセーヌ(巴里とセイヌ)』についてのページも(かなり物足りないですが)、うれしい内容です。
しかし、ここではあえて苦言を書かせていただきます。
問題は、「日本の名作写真集100選」です。企画としては、いいのですが、なんと、たった1ページに5冊の割合で掲載されているのです。「別冊太陽」は「太陽」と同様にA4と大きめのサイズではありますが、それでも、1ページに5冊はひどい、ひどすぎる。
写真集を紹介するのであれば、やはり実物の表紙写真と掲載写真何点か(要するに写真集のページ何ページか)を、それなりの大きさで複製し、紹介していただかないと、文章だけでは十分に伝わりません。そうすると、見開きで1冊が理想、少なくとも、1冊に1ページは割いていただきたいところ。ところが、この本で掲載されている写真図版は、とても小さく、正直虫眼鏡で見ないと見えません。要するに、図版を掲載している意味は、それを見るためではなく、とりあえず「掲載することそのものに意味がある」という自己目的化しています。
今でも、写真史の観点からは必携の「世界の写真家101」ですが、あの本は文章はしっかりと量も多く大変有用であるのだけれど、最大の欠点は写真図版が小さいこと(しかもその写真家の作品ではなく、作家本人の写真が掲載されている)。この欠点を改善して、「日本の写真家101」は制作されているはずなのですが。
そう考えると、この別冊太陽、厚さがひどく薄いですよね。もともと、「別冊太陽」は普通こんなに薄くはなかった。手許に他の「別冊太陽」の実物がないから正確にはわかりませんが、倍くらいの厚さはありました。タイトルに「スペシャル」とついていますが、単にページが少ないという言い訳の意味なのでしょうか?
かつて、「太陽」(別冊ではなく)で特集された、「ファッション写真」「ヌード写真」でも、1点1ページは死守されていたはず。
海外の例ですが、Taschenの『Photographers A-Z』も、1人(1冊)1ページ(または2ページ)です。次の投稿をご参照ください。(申し訳ありませんが、掲載写真家一覧はご紹介できていないみたいですね)
988 Re: Photographers A-Z aki*o*hi*yokora* 2011/ 6/ 5 22:34
981 Photographers A-Z aki*o*hi*yokora* 2011/ 5/ 1 19:33
1冊1ページ、今回の特集でも死守していただきたかった。
もう1点、この100冊のうち、戦前の写真集は、次の5冊にすぎません。
福原信三『巴里とセーヌ』(1922)
堀野正雄『カメラ・眼×鉄・構成』(1932)
小石清『初夏神経』(1933)
岡田紅陽『富士山』(1940)
安井仲治『安井仲治写真作品集』(1942)
かつて、国書刊行会から、『日本写真史の至宝』(全5巻・別巻1)が刊行されましたが、その5冊のうち4冊と同じですね。(残り1冊は木村伊兵衛「Japan through Leica」)
今回追加されているのは、岡田紅陽のみ。『日本写真史の至宝』の刊行から15年くらいたっているわけですが、その後、全然発掘が進んでいないということでしょうか?
というか、戦前期について取り上げられているものがたった5冊(しかも、全1ページ)ということがそもそも問題です。50冊とは言いませんが、最低でも20冊くらいは、取り上げてほしい。そんなに存在しないとは言わせません。少なくとも「メセム属」もありますし、戦時下での写真集もいろいろとあります。それ以外にも探してください。間違いなくあるはずです。そして、そこに、戦後に向けての「写真集の発展・変容」という問題が見つけられることでしょう。発掘、研究の余地はいくらでもあるはずなのですが、最近、およそ進んでいる気配がありません。皆さん、もうすっかりあきらめてしまったのでしょうか?
なお、『日本写真史の至宝』に関する過去の投稿は、以下のとおりです。
635 |
『日本写真史の至宝』の現在 |
Akihoshi_Yokoran |
2006/10/ 1 11:27 |
519 |
再び、『日本写真史の至宝』 |
Akihoshi_Yokoran |
2005/ 4/10 18:00 |
415 |
日本写真史の至宝(復刻) |
Akihoshi_Yokoran |
2003/12/22 22:51 |
(後ろの2つは、現時点ではPDFをアップできていないので、見ることができず、申し訳ありませんが)
それから、戦後の部分については、当方の知識の問題もあり、直ちには立ち入ることができませんが、次の『日本写真集史』の2番煎じのような気がします。(ただし、もちろん1980年代後半以降の新しい写真集は追加されています。)
日本写真集史1956-1986
金子隆一、アイヴァン・ヴァルタニアン(IvanVartanian)
編集・翻訳和田京子、レスリー・A.・マーティン(LesleyA. Martin)
企画・監修有限会社ゴリーガブックス
赤々舎
2009
3800円
その量的(質的?)な比較をすると、『日本写真集史』は玄人向け、「日本の名作写真集100選」は素人向けという意味なんでしょうか?
なお、『日本写真集史』についての過去の投稿は、次の1件です。
878 日本写真集史 Akihoshi_Yokoran 2009/11/22 21:45
ということで、結論としては、日本戦前期に絞った続篇を期待したいと思います。