世の中、特に新刊書について、電子書籍がどんどんと増えているのではないかと思いますが、こと美術書に関しては、なぜか、非常に限定的だと感じています。もっと、などという生ぬるい感度ではなく、むしろ著しいスピードにより電子化を進めていただきたいところです。
例えば、美術書の花形である、美術全集の電子化はどうでしょうか? 個人で美術全集を購入する人は今や(かつても)まれだと思います。費用的にも無理がありますが、置いておくスペース的にも無理があります。しかし、もしも電子化されていたら、全巻ということはそもそも無理だとしても、最も欲しいと思う個別の巻(数巻だけ)を購入するということは十分ありえます。
そもそも、美術全集というものが最近はほとんどなくなってきているわけですが、今、念頭に置いているのは、現在最新で、もしかすると最後の美術全集になるのではないかという話もある、小学館の次の全集です。
・世界美術大全集 西洋編
・世界美術大全集 東洋編
・日本美術全集
それ以外にも、美術書にはサイズも大きく重い本がたくさんあります。図版を掲載することが多いという美術書の性質上、大型の本が望まれて、実際にもそういう本が多いということでしょうか。例えば、この場でもご紹介したことのある次のような本ですが、これらが電子化されれば、もっと入手しやすくなる(すなわち購入する人も増える)のではないでしょうか? もしかすると、紙の本よりも価格が安くなるかもしれません(印刷、製本、物流などの費用が不要なため)。
・図鑑1900年以後の芸術 Art since 1900/ハル・フォスター他/東京書籍/2019(No1826, 1842)
・世界の美術家/アンドリュー・グレアム=ディクソン/ポプラ社/2018(No.1753)
・世界美術家大全/ロバート・カミング/日東書院/2015(No.1396, 1397, 1398, 1471-1482)
・世界アート鑑賞図鑑/スティーヴン・ファージング/東京書籍/2015 (No.1233, 1240-1244)
・死ぬまでに観ておきたい世界の絵画1001/スティーヴン・ファージング/実業之日本社/2013(No.1098)
・世界の美術/アンドリュー・グレアム=ディクソン/河出書房新社/2009(コンパクト版2017)(No.868)
ぐっと刊行時期が離れて
・現代美術の歴史/H.H.アーナスン/美術出版社/1995(古すぎてご紹介したことはありません)
・ちなみにサイズの小さい本ですが、「20世紀の美術家500/木下哲夫・訳/美術出版社/2000」という本もあります。
(Amazonと紀伊國屋だけですが、調べたところ、以上すべてについて、電子書籍が全くありませんでした。さらに上でご紹介した、小学館の世界美術大全集、日本美術全集も電子版が存在しない状態です。)
なお、話は全く違いますが、これらの本がすべて訳書なのは、日本人の専門家の怠慢(自分たちでは制作しない、ただし、日本語版の監修という役割はあり)を意味しているのでしょうか? このことは、以前にも書いたような気がします。
さらに、美術雑誌の電子化はどうでしょうか? 例えば、美術手帖(最近はWeb版があるようですが、刊行している雑誌の内容全体が掲載されているなどということはないと思いますが?)、みづゑなど。もちろん新しい号だけではなく、古い号まで(「みづゑ」などは現在刊行されていません)。「古い号まで」ということになると、入手・購入という観点よりも、ほとんど図書館的な観点になりますが、デジタル化することで、図書館による(古い号も含めた)新たな所蔵(紙の雑誌の場合には発生しうる、破損、紛失、除架等によるバックナンバー閲覧が不可能になることも防止できる)も可能になるのではないかと思います。
とにかく、技術的に電子化がいくらでも可能な時代にあって、日本の美術書のこのような非常に遅れた状況は、なぜ生じているのでしょうか? 障害や課題は何なのでしょうか? 議論は土俵に上がっているのでしょうか? 全然見えてきません。
最後に、現在、図書館での電子書籍の取り扱いは現在どうなっているのでしょうか?
いろいろと思いつく問題点がありますが、この点は、また後日書いてみたいと思います。