少し前ですが、次の本が刊行されています。
世界を変えた100のポスター
上:1651-1936年 下:1939-2019年
コリン・ソルター[著]〈Colin Salter〉/角 敦子[訳](すみ・あつこ)
原書房(2021/12/20)
価格 各¥2,640(本体¥2,400)
重要なポスターを100枚取り上げて解説するという本。類書が多く出されていてあまりアイデアとしては目新しくないという気もしますが、この本は、ポスターを紹介する「美術書」というよりは、ポスターを使って、当時の社会や世相を紹介するという「人文科学書」(歴史書)の色彩が非常に強いと思います。サイズも大型の本ではなく、通常の単行本のような作りをしています。
それはそれとして面白いのですが、そのせいもあり、ポスターそのものに関する書誌情報(作者、制作年、サイズなど)が、一律、定型的に記載されていないきらいがある点が、残念です。何度も書いていますように「作家性」にこだわる当方としては、その点についてもっと言及できなかったものかと残念に思います。もちろん、ポスターなど、古ければ古いほど、作者が不明なものが当たり前なのですが。
そして、1点個人的に興味深い点は、開始時点を1651年に置いている点です。ポスターに関する美術書でここまでさかのぼっている例はないのではないでしょうか? もちろん、それだけ古ければ、絵・図が含まれておらず、文字だけのポスターなのですが。
この本を見て強く思うのは、ポスターに関する網羅的なガイドというものが存在しないなということです。
ポスターは、今でもそうですが、建物の外や建物内部の壁・掲示板等に貼られ、対象のイベントの期間が終わればはがされて捨てられるか、途中で雨風にさらされて、破けたり、どこかへ飛んでいってしまったりするか、そんな運命が待ち受けているメディアです。ところが、ある時点から(一体いつでしょうか?)ポスターにも美術的価値、保存しておく価値が生じて、特に古いポスターなど、残っているケースがそもそもまれでしょうから(さらに、きれいな状態で保存されていることなど、ほとんどないかもしれません)、血眼になって探さないと見つからない(探しても見つからない)、という極端な状況になっていると思います。