5年以上昔の本ですが、先日ポスターの本のご紹介をしましたので、その関係であえてご紹介します。
プロパガンダ・ポスターにみる日本の戦争
135枚が映し出す真実
田島奈津子・編著
勉誠出版
2016年
第二次世界大戦時の日本政府主導のプロパガンダ・ポスターが、終戦時の政府の焼却命令に反して、長野県の会地村(現・阿智村)という村の当時の村長が個人的に保管していたことが発見され、やがて遺族が村に寄贈するとともに、テレビ信州のニュースで報道され、とうとうこの本にまとまったという経緯があるものです。
編著者の田島さんというかたは青梅市立美術館学芸員ということですが、出版社からもうかがえるように、この本は「美術書」というよりは「歴史書」といえるでしょう。ただ、制作者の個人名が可能な限り記載されているようなので、ポスターをその内容だけでとらえるのではなく、デザインの観点からも見る姿勢が見られ、大変うれしいことです。
この本はそういう意味でも優れたものであり、もっと広く世の中に紹介されるべき書籍だと思います。しかし、その内容についてではなく、この本から受ける印象は、個人的には実は極めて絶望的なものでした。おおむね、次の2点に整理できます。
まず、そもそも、ポスターというメディアが、量的に、ほとんど無限のものを対象にせねばならないのではないかという点です。この本に掲載されているポスターは、1937年~1945年に制作されたものですが(正確には、その期間に会地村に送付されたということでしょう)、わずか9年間で、しかも、プロパガンダという非常に限られた分野で、135枚も存在することになります。しかも、それが、この時点までで、ほとんど世の中には紹介されていなかったということなのです。この期間(例えば、明治以降、このスレに対象20世紀前半ということで、1945年までということであっても)と範囲をより一般に拡大した場合、いったいどれくらいのポスターが日本にあったことになるのでしょうか? それをどうやってまとめていけということなのでしょうか?
そして2点目として、そのようなポスターが、いったいどの程度残っているのか、そして発見されているのかということを考えると、暗澹たる気持ちになります。これは、ポスター一般が破棄されずに保存されている可能性が非常に低いということと関係します。今回のように、戦前のポスターがまとまって比較的良い状態で保管されていたということが、偶然であり、まさに奇跡なんだと思います。ポスターというものは実際そういうものなんだと思います。
いやいや、以上のようなことは、むしろ、ポスターに関しては、今後もいろいろな発見が起こり得て、その結果、研究を様々に拡大していくことのできる可能性が高い、ということを意味しており、ポスター研究というのは、希望に満ちた分野なんだというとらえ方もあるのかもしれません。さらに、こう考えればいいともいえます、すなわち、「ポスター全体」などという荒唐無稽なことをはじめから考える必要はなく、見つかったもの、そこにあるものをそれぞれ点としてとらえていけばいい、それがやがてつながり線や面になることがあるかもしれないが、それは幸運なことであり、そしてその限りで構わない、はじめから線でも面でもないからと、線や面になる可能性がないからと絶望する必要はないのだと。しかし、当方としてはその考え方には直ちには与しません。悲観的と言われてしまえば、それまでなのですが。