少し前、No.2059で「都道府県ごとの「郷土の」写真家(20世紀前半)」についての写真展への期待を寄せました。
しかし、そんなことを書いたくせに、正直申し上げると、日本各地方での昭和戦前期の写真展については、やや絶望的に思っています。
というのも、東京都写真美術館が第一次開館した1990年を1つの節目と考えるならば、それから30年余が経っているわけですが、それでも何もないということは、今後も期待できないのではないかと思っているからです。
例えば、北海道を例にとりましょう。昭和戦前期(20世紀前半)の北海道の新興写真・前衛写真の作家は誰なのか?
北海道の写真というと、木津幸吉(1830~1895。1869年には東京浅草に写真館を開業)、田本研造(1832~1912)、武林盛一(1842~1908。1885年には東京に写真館を開業)などの19世紀の写真家が非常に有名で、その後は、掛川源一郎(1913~2007)まで飛んでしまうようです。掛川は、戦前から写真家として活動していたようですが、主たる活動は1950年代以降です。
ようするに、20世紀前半部分はすっぽりと抜け落ちてしまっています。では、その期間に、北海道には写真家はいなかったのでしょうか? あの広い北海道で、そんなことがあるはずがありません。19世紀に続いて、写真館・写真スタジオはたくさんあったでしょうし、プロの写真家では、新聞社や出版社にも多くおられたでしょう。さらに、20世紀前半の新興写真・前衛写真の担い手の多くがアマチュア写真家だったことを考えれば、アマチュア写真家でもいいわけで、それであれば、写真館などのプロの写真家の何倍も、もしかしたら何十倍もいたかもしれません。
では、それらを系統だてて、網羅的に整理したような資料はあるでしょうか? 当方は寡聞にして知りません。
さて、このように、情報が入手できない場合には、その先はどうしたらいいでしょうか?素人としては、どこに質問していいかもわかりません。やみくもに、北海道の中にある、美術館、博物館、資料館、図書館などに個別に連絡をとっていたらきりがありません。ちなみに、図書館に問い合わせたりすると、「どの写真家について調べているのですか?」と写真家の名前を逆に質問されたりすることがあります、そうではなくて、そもそもどんな写真家がいるのか名前を知りたいから問い合わせているのですが、しかし、具体的な名前もないと、図書館などでさえ「検索」が難しくてできないのでしょう。当方も大変苦労していますので、よくわかります。
また、その都道府県や一地方の1人や2人の写真家の名前がわかっても(何もないよりはましですが、それでも)、あまり役には立ちません。望ましいのは、北海道各地の写真館やアマチュア写真家(アマチュア写真倶楽部)が、いつどのように開業・結成されて、どういう発展をし、どういう弟子や新しい仲間を迎えて、次の世代に(さらに戦後まで)引き継がれていったのか、というような大きな流れが理解できる、系統的、網羅的(全道的)な情報です。
以上、北海道には申し訳ないのですが、例として取り上げさせてもらいました。しかし、この惨状は、ひとり、北海道だけの状況ではありません。沖縄の情報はない、九州はソシエテ・イルフだけ、中国・四国も情報がない(広島・岡山に限って考えても、新興写真・前衛写真の動きがまったくなかったはずがありません)、北陸も石川県にやや情報があるものの、富山・福井の情報はない、長野もない。関東でも、東京に情報が集中していて、その周りの各県については情報がありません。あの横浜のある神奈川県ですら、20世紀前半において神奈川県で主として活躍した写真家を30人挙げてください、という質問に回答できる人は誰もいないでしょう。(もし、おられるなら、どなたなのか教えていただきたいところです、ご連絡差し上げて、教えを乞います。)
困るのは、京都についてさえも情報がないのです。例えば、小林祐史らのKPS(キヨウト・ホト・ソサエテ)についてすら、MEMでの企画と資料しか存在しないのではないでしょうか?
https://mem-inc.stores.jp/items/62da0ce2d19123652687f2e7
このような状態、やはり今後も改善される可能性がないのではないかと、絶望的な気持ちになってしまっています。
素人の立場からは、このような状況に対して、何をすればいいのでしょうか? 何か役に立つことはないのでしょうか? 単に待っているしかない、というような単純な考えは捨てて、何かできることはないか、しぶとく考えていきたいと思います。