少し前の書籍、そして、そこで対象となっているのはそれよりもさらに少し前の企画ですが、次の本をご紹介します。
藤井光〈日本の戦争美術 1946〉展を再演する: 美大じゃない大学で美術展をつくる vol.1
小森真樹 (編著), 藤井光 (著), 星野太 (著), 香川檀 (著)
アートダイバー
2025年3月5日
1980円(1800円)
さて、この本が対象にするのは、次のような企画たちです。
まず、1946年、GHQによって開催された「日本の戦争美術」展
それを再現した、藤井光による、2022年の東京都現代美術館での〈日本の戦争美術〉展
そして、それを基にした、2023年のウェブ上のバーチャル展覧会
さらに、それらを基にした、小森真樹の企画で、 2024年3月に武蔵大学で平日5日間限定で開催された「美大じゃない大学で美術展をつくる|vol.1 藤井光〈日本の戦争美術 1946〉展を再演する」
このような「入れ子」構造というか、メタな展覧会を記録したものがこの書籍です。
「企画する」」「記録する」という両方の方法はもちろん、その意味についても、ふんだんに描かれているのではないかと期待します。ありそうでなかった、そんな内容なのではないでしょうか?
出版社が特殊なこともあり、なかなか実物を目にすることは困難な気がしますが、探してみる価値があります。嫌な予感がするのは、公立図書館では発見が難しいのではないかということです。しかし、美術館の図書室などでは、逆に、どこでも所蔵しているのではないでしょうか?
目次を掲載しておきます。
目次
はじめに
第0部 初演 〈日本の戦争美術1946〉
小森真樹 「 パブリック」ミュージアムから歴史を裏返す
小森真樹 美術品をポチって戦争の記憶に参加する
第1部 再演 藤井光〈日本の戦争美術1946〉展を再演する
企画概要
マップ
作品一覧
藤井光について
フライヤー
ウェブサイト Re:enactment o〈f The Japanese War Art 1946〉
「藤井光 〈日本の戦争美術1946〉展を再演する」を再演する
SNS /フィールドノート
展覧会クレジット
第2部 シンポジウム
星野太×藤井光 〈 歴史〉に憑依する
香川檀×藤井光 藤井光《核と物》から考える厄災の記憶
第3部 論考
藤井光 再演行為と展覧会
小森真樹 ミュージアムが儀礼化する戦争の〈歴史〉
小森真樹 なぜ「美大じゃない大学で美術展をつくる」のか? ねらいと理論的意義
おわりに
「ラジオと写真家: 「声」の日本写真小史(2195)」でご紹介した松實輝彦さんの本ですが、目次が公開されていましたので、掲載します。
このスレではおなじみの名前が満載で(でも、大江素天、はピンときませんね)、刊行が楽しみです。
【主な目次】
序 章 戦前期のラジオテキストから写真家たちの「声」を聴く
第1章 最初のラジオ放送者となった写真家・福原信三――電波に乗った「光と其諧調」
第2章 「写真百年祭」とラジオ放送――二人の写真ジャーナリスト・大江素天と成澤玲川
第3章 愛友写真倶楽部とラジオ(その一)――榊原青葉が語ったプレ「写真百年史」
第4章 愛友写真倶楽部とラジオ(その二)――永田二龍の語る「写真講座」とモダン都市・名古屋のアマチュア写真家たち
第5章 ラジオ放送された新興写真――中山岩太が語る「アマチュア写真講座」
第6賞 『主婦之友』写真部長の放送体験—―名物カメラマン・安河内治一郎かく語りき
第7章 ラジオと写真外交――木村伊兵衛の写真講座と対外宣伝写真集をめぐって
終 章 一九四一年夏、福原信三からのラストメッセージ
あとがき
人名索引
東京都写真美術館が総合会館の1995年から30周年ということで、「総合開館30周年記念」展が3つ開催中です。個人的には、一次開館の1990年のほうが印象が強いのですが、それは置いておきましょう。
この3つの企画ですが、東京都写真美術館のサイトをご覧いただければと思いますが、
https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-5087.html
https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-5200.html
https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-5093.html
当方が想定しそうな、写真史全体をカバーするような企画ではありません。
個人的には、3フロア全体を1つの企画のために使って、その企画こそが、東京都写真美術館がこの3年間で所蔵したコレクションを年代ごと、または、テーマごとに俯瞰するような企画なのかなと漠然と考えていました。
しかし、そういう企画ではなく、ブラジルの映画監督の個展と、わざわざ「30周年記念」としなくても、普段ででも開催されそうなグループ展2つです。
さてこれはいったい何を意味するのか。
すでに、「全体を俯瞰する」などということが、「古めかしい」こととなっているのかもしれません。そして、むしろ、「特別性」を昇華して、「日常性」に向かうべきだということなのかもしれません。別の言い方をすれば、21世紀にいたって、写真の世界では「ハレ」がすでに失われてしまって、「ケ」だけになってしまっていると。
「ハレ」の1つの特徴は、「個」ではなく「集団・共同」であるということだと思います。1人だけが「ハレ」ということはあまり考えにくい。その「土地」または、少なくともその「家族」が共同しなければ、「ハレ」が成立しない。しかし、現代の写真においては、「ハレ」が存在しにくくなりつつある、少なくともそれを多くの作品に当てはめることはできない、それゆえ「ケ」の企画で、「総合開館30周年記念」としようとしたのではないかと。
穿ちすぎですかね。
世の中は思った以上に変化してきているのかもしれません。世の中は思った以上にばらばらになってしまっているのかもしれません。そして、それは、もうまとめることができなくなっているのかもしれません。我々は、今後、常に「ケ」を生きていくことになるのかもしれません。
以前も同じことを何回も書いているような気がするのですが、改めて書きます。
ネット上で「写真家人名辞典」を作成・公開していただけないでしょうか?
20世紀前半に限定して書いてみますと、
<日本>
20世紀前半までという事であれば、書籍では日外アソシエーツの「日本の写真家」(監修:東京都写真美術館、2005年)があります、しかし、収録人数は839人。
これでは到底足りないので、この倍、2000人は欲しい。
<海外>
20世紀前半に限っても、最低200人くらいは欲しい。できれば、1000人は欲しい。1500人だとありがたい。
以上ですが、この収録者数の規模では、書籍刊行は全く無理でしょう。でも、ネットならば可能性はあるはずです。
また、ネットの場合には、全体を一度に完成させる必要もありません。この点も制作側としては大きなメリットだと思います。ただ、逆に、締め切りがなくなって、「いつまでも公開できない」となるおそれはあります。
なお、Wikipediaというものがありますが、素人が書いていてどこまで信頼できるかわかりませんし、そもそも写真家の記事の数が少なすぎます。将来にわたって、上記のような規模に達する見込みはありません。
ネット上の「写真家人名辞典」、すでに計画があったり、まさかとは思いますが進行中かもしれませんが、実現を目指していただきたく、どうかよろしくお願いします。
次の本が刊行されています。
男性のいない美術史―女性芸術家たちが描くもうひとつの物語(THE STORY OF ART WITHOUT MEN)
著者:ケイティ・ヘッセル,〈Katy Hessel〉
翻訳:鮫島 圭代
パイインターナショナル
2025/09発売
価格 ¥7,480(本体¥6,800)
かなり聞いたことのない名前(作家名)が含まれています。
1900年~1950年のすべての図版の作者の名前を記載にしたかったのですが、量的に無理なので、写真作品図版に限って、撮影者として付されている名前を掲げます。
クロード・カアン
ハンナ・ヘッヒ
ゲルトルート・アルント
ドラ・マール
リー・ミラー
ティナ・モドッティ
ドロシア・ラング
この範囲では、それほどめずらしい名前が挙がっているわけではありません。
この本の大きな問題としては、美術家の名前の欧文つづりがないことです。
以前も同じことを書いていることがありますが、「翻訳もの」なのだから、欧文つづりは、間違いなく「もともとそこにあった」はずです。それを残しさえすれば終わりだったのですが、欧文つづりがないと、それを見つけ出すのは、ケースバイケースではありますが、なかなか厄介です。特に、あまり著名でない作家については。
例えば、巻末の「索引」だけでも、欧文つづりを残す、という発想がなかったのでしょうか?
ただ、同様に巻末に掲載されている「挿絵一覧と写真の謝辞」が、原著の原文そのままのようですので、もしかすると、これで作家名のつづりの大部分をカバーできるかもしれません。
さて、最後に、中身から、1点だけ重要な内容を。
160ページ以降に、「レディメイド」について、マルセル・デュシャンより先んじていたかもしれない、さらには、デュシャンの「泉」の真の作者かもしれない、として、バロネス・エルザ・フォン・フライターク=ローリングホーフェン(Elsa Baroness von Freytag-Loringhoven、1874~1927)という作家が挙げられています。
この点はすでに有名なことなのかもしれませんが、当方はここで初めて知りました。
最後に目次を掲げておきます。
目次
訳者まえがき
はじめに
第1部 道を切り拓く 1500年頃‐1900年頃
第1章―芸術のカノン(正典)を彩る女性たちの自画像
第2章―栄光に満ちた芸術表現の時代
第3章―写実主義から心霊主義へ
第2部 芸術を近代化させたものとは 1870年頃‐1950年頃
第4章―戦争、アイデンティティ、パリの前衛芸術
第5章―第一次世界大戦の余波
第6章―アメリカ大陸におけるモダニズム
第7章―戦争、新しい技法・メディアの台頭)
第3部 戦後の女性たち 1945年頃‐1970年頃
第8章―素晴らしき実験精神の時代
第9章―政治的変化と新たな抽象芸術
第10章―身体
第11章―新しい伝統を編む
第4部 自分で手綱を握る 1970年頃‐2000年頃
第12章―フェミニズムの時代
第13章―1980年代
第14章―1990年代
第15章―イギリスにおける急進的変革
第5部 「美術の物語」の執筆は今も続く 2000年‐現在
第16章―史の語りにおける脱植民地化と、伝統の再構築
第17章―21世紀における具象表現
第18章―2020年代
用語集
年表
注釈と参考文献
挿絵一覧と写真の謝辞
謝辞
著者について
索引