「インターネット上の展覧会カタログ」とは、刊行した展覧会カタログをインターネット上で公開するということ? だとすると、「展覧会カタログ」についての著作権の問題が生じるのでは?
いいえ違います。書籍で刊行された展覧会カタログのインターネット上の公開についても、今後検討したいと思うのですが、ここでは、書籍という形態で刊行することなしに、インターネット上で直接「展覧会カタログ」に該当する内容を公開できないか、という視点です。もう、「展覧会カタログ」という冊子体を刊行する必要性がないのではないか、という視点です。
ここで問題となりうるのは、大きく次の2点でしょう。
1.書籍形式の「展覧会カタログ」には、作品図版がかなり自由に掲載できます。少なくとも、「著作権的に掲載不可能」という例を多くは見たことがありません(それがなぜ可能なのかもよく理解できていないのですが)。これに対して、インターネット上で公開すると、図版が掲載できない場合が増えるのではないでしょうか?
2.書籍という形態で制作しなくなった場合、「展覧会カタログ」を販売できなくなるわけですから、美術館の大きな収入源を喪失させることになるでしょう。それでも大丈夫なのか? 印刷費や輸送費などがなくなるというメリットを考えても、かなり厳しいのかもしれません。
さて、この2点、どうしたら解決できるのでしょうか?
これから考えて行きたいと思います。
インターネットをはじめとしたさまざまなデジタル的な仕組や手法により、情報は探しやすくかつ入手しやすくなり、世の中はとても便利になりました。
しかし、この場で何度もそのような趣旨を書いているように、そういった仕組・手法がいくら発展しても、その中のコンテンツの内容が充実していなかったり、そもそも情報がなかったら何にもなりません。そして、実際に、情報が存在するのにネット上になく、わざわざ国立国会図書館や美術館の図書室に出かけねばならないこともあります。それでも、これはましな例で、ネット上では情報が発見できない(Googleの問題もありますが、これは後日)、または情報が存在せず、情報自体を自分で捜し歩き、全体をまとめ構築しなければならないことすらあります。
懸念は、仕組や手法のほうにあまりに偏った力の入れ方をしているのではないかということです。極端に言えば、仕組・手法さえ用意すればそれだけでいい、あとは別の問題だ、内容はあとからついてくればいい、ついてくるだろう、という感じさえするのです。
かつて、バブル経済のころ、「箱物行政」と呼ばれた現象がありました。これが、現在、ネットの世界で繰り返されているのではないかと、強く懸念します。反省をしていないのでしょうか? 同じことだと理解できていないのでしょうか?
現在、「内容」について全く顧慮されていないわけではありません。しかし、偏りは極端です。そして、「箱物行政」の時代でも、もちろん「内容」にも一定の対応はなされていたのです。要するに、同じなのです。
今後、もう少し具体的に書いてみたいと思います。
次の本が最近刊行されました。
舞台の面影──演劇写真と役者・写真師
村島彩加
森話社
2022/5/31
¥4,950
著者のご専門は、むしろ演劇なのですが、それにしても、予想外の切り込み方で驚きます。本当に、当方の想像力の貧困さを実感します。
時期的には、昭和初期まで降りてきているのですが、サブタイトルにある「写真師」という言葉が気になります。近代的な演劇写真まで射程に入っているだろうか、実物を拝見して確認するしかないですね。なお、最後の章に出てくる「安部豊」とは、演劇評論家のかたです。
新進気鋭の研究者の今後に期待です。
最後に目次を掲載。
【目次】
第一章 演劇写真の始まり──演劇写真の先駆者・内田九一とその周辺
第二章 役者絵と演劇写真──『魁写真鏡俳優画』と内田九一
第三章 散切物と写真──『勧善懲悪孝子誉』に見る北庭筑波像
第四章 写真版権と演劇写真──塙芳野と九代目市川團十郎
第五章 上演と写真──森山写真館と五代目尾上菊五郎
第六章 演劇写真と絵画──影絵・石版画・油絵
第七章 鹿島清兵衛と『歌舞伎新報』
第八章 絵葉書と素人写真師
第九章 『演芸画報』誕生──印刷技術の発達とグラフィック雑誌
第一〇章 回顧とアーカイヴ──「劇に関する展覧会」と演劇図書館の試み
第一一章 七代目松本幸四郎の「変相」と写真
第一二章 五代目中村歌右衛門の「狂気」の演技と写真
第一三章 死絵と写真集──安部豊の仕事
2022年5月19日(木)から、国立国会図書館の「個人向けデジタル化資料送信サービス」が開始されたということです。
登録(国立国会図書館に行かずとも、インターネット上で可能)をすれば、個人のパソコンから国立国会図書館のデジタル資料を見られるようになり、コピーも取り寄せられるということです。見られる範囲は、No.2000でご紹介した「図書館送信資料」約153万点(令和4年1月時点)のようです。
これはすごいことです。このことは、毎年選んでいる「5大ニュース」に入ります。
正確には、コピー&ペーストしますが、以下のとおりです。
サービス概要
当館のデジタル化資料のうち、絶版等の理由で入手が困難なものを、利用者ご自身の端末(スマートフォン、タブレット、パソコン)等を用いてインターネット経由で閲覧できるサービスです。国立国会図書館デジタルコレクションで資料の本文画像を閲覧できます。サービス開始当初は閲覧のみですが、令和5年1月を目途に印刷機能の提供を開始する予定です。
利用できる資料
国立国会図書館デジタルコレクションで提供している資料のうち、絶版等の理由で入手が困難であることが確認された資料(著作権者等の申出を受けて、3か月以内に入手困難な状態が解消する蓋然性が高いと当館が認めたものを除く。)が対象です。具体的には、「図書館送信資料」約153万点(令和4年1月時点)の範囲内の資料です。
https://www.ndl.go.jp/jp/news/fy2021/220201_01.html
https://www.ndl.go.jp/jp/registration/index.html#anchor01
https://www.ndl.go.jp/jp/use/digital_transmission/index.html
具体的にどのような資料を見ることができるのか、それは、今後確認していきます。
東京都写真美術館の5月20日(金)からの企画「アヴァンガルド勃興」(No.1992、No.1998)の展覧会カタログの情報が、国書刊行会のページで公開されました。
目次も含め、以下のとおりご紹介いたします。
アヴァンガルド勃興 近代日本の前衛写真
東京都写真美術館 編
国書刊行会
発売日:2022/06/10
判型:A4変型判
ISBN:978-4-336-07367-9
ページ数:208頁
定価 3,960円(本体価格3,600円)
<目次>
序
【図版】Plates
第1章 インパクト 同時代の海外作家 Part 1: Impact - Contemporaneous Photographers Overseas
第2章 大阪 Part 2: Osaka
第3章 名古屋 Part 3: Nagoya
第4章 福岡 Part 4: Fukuoka
第5章 東京 Part 5: Tokyo
1930年代日本の前衛写真――言説と実践(イェレナ・ストイコヴィッチ)
Avant-Garde Photography in 1930s Japan, in Discourse and Practice(Jelena Stojković)
前衛写真の時代(藤村里美)
The Age of Avant-garde Photography(Fujimura Satomi)
作家解説
前衛写真関連年表
作品リスト List of Works
https://www.kokusho.co.jp/sp/isbn/9784336073679/
一昨日から会期も始まっておりますが、上記発売日の情報から見ると、展覧会カタログはまだ入手できないという状態なのでしょうか?
また、2018年にやはり国書刊行会から刊行された、次の展覧会カタログと同じサイズですかね?
『光画』と新興写真 モダニズムの日本
東京都写真美術館 編
国書刊行会
発売日:2018/03/07
判型:A4変型判
ISBN:978-4-336-06252-9
ページ数:232頁
定価 3,740円(本体価格3,400円)
https://www.kokusho.co.jp/sp/isbn/9784336062529/
取り扱っている時期が2冊で接続するため、「2冊で一揃え」ということなのかもしれません。
この2018年の展覧会カタログの時にも書いたかもしれませんが、今回論考が2点のみというのは、いかにも少なくて残念です。
先にNo.2001でご紹介した、みすず書房の「さまよえる絵筆」などは、以下の目次からわかるように、いったい何件の論考・インタビュー等が収録されているのか? その差が歴然とするように思います。
https://www.msz.co.jp/book/detail/08980/
さまよえる絵筆 東京・京都 戦時下の前衛画家たち
編著:弘中智子
編著:清水智世
みすず書房
判型:B5判 タテ257mm×ヨコ188mm
頁数:216頁
定価:3,520円 (本体:3,200円)
ISBN:978-4-622-08980-3
Cコード C0070
発行日:2021年2月25日
目次
はじめに 弘中智子
1940年以後、戦時下の前衛絵画の展開 弘中智子
塗られない画布 転換期・京都の裁断面 清水智世
I 西洋古典絵画への関心
II 新人画会とそれぞれのリアリズム
III 古代芸術への憧憬
IV 「地方」の発見
インタビュー 吉井忠と戦時下、そして東北 吉井爽子
V 京都の「伝統」と「前衛」
義父・小牧源太郎 澄みきった心境 山本新太郎
福沢一郎 古典のレアリズムは前衛に通ず 伊藤佳之
「生きてゐる画家」の世代 河田明久
戦時下の考古学と埴輪の位置 村野正景
難波田龍起の埴輪と仏像 幻想と写真 小林俊介
長谷川三郎における〈前衛〉と〈伝統〉の接続 モダン・フォトグラフィ的視覚言語を経由した抽象表現 谷口英理
「地方」の文化運動 翼賛と現実 大串潤児
2つの共同制作《浦島物語》と《鴨川風土記序説》について 大谷省吾
京都の文化運動と知識人、あるいは、モンタージュの試み 雨宮幸明
戦時下の雑誌における古美術の紹介 『みづゑ』『アトリヱ』および継続誌を中心に 印田由貴子
本書で紹介する画家・団体 相関図
戦時下、前衛画家たちのスナップ写真
用語・人物解説
『美術文化』、美術文化協会画集目次
文献再録
作家作品解説
関連年譜
参考文献
1941(昭和16)年4月5日 福沢一郎逮捕に対する東京・京都の画家たちの反応
作品リスト
An Outline of the Exhibition
おわりに 清水智世
また、国書刊行会のページに掲載されている、次の「収録作家」を見ると、知らない名前がなく、これも残念です。プレスリリース(https://topmuseum.jp/upload/2/4300/AvantGardeRisingPressRelease_20220506.pdf)に挙がっている名前の一部がすでに欠けているので、これで全員ではない、ということかもしれませんが。
◆収録作家
天野龍一、伊藤研之、瑛九、音納捨三、恩地孝四郎、小石清、河野徹、後藤敬一郎、許斐儀一郎、小林鳴村、坂田稔、椎原治、高橋渡、田島二男、田中善徳、田渕銀芳、樽井芳雄、永田一脩、中山岩太、服部義文、ハナヤ勘兵衛、濱谷浩、久野久、平井輝七、本庄光郎、村田米太郎、安井仲治、矢野敏延、山本悍右、吉崎一人、ウジェーヌ・アジェ、セシル・ビートン、ハンス・ベルメール、ブラッサイ、マン・レイ、アルベルト・レンガー = パッチュ
いずれにしても、刊行を心待ちにしています。