大阪中之島美術館が、2022年2月2日(水)に開館しました。
現在、開館記念展である「超コレクション展99のものがたり」が3月21日(月・祝)まで開催中です。
もともと1988年に「大阪市立近代美術館」として計画がスタートしたということですので、開館まで30年以上が経過したということになります。その間、大阪市の財政難によるトラブルなどもあって、かなりの紆余曲折があったようです。
とにかく、曲がりなりにも開館までこぎつけることができたことについて、大いに祝福したいと思います。
ウエブサイトの「コレクション」のページなどをご覧いただければお分かりいただけますが、この美術館の大きな特徴として、大阪に関わる近現代美術(絵画・写真・デザインなど)の所蔵作品が非常に多いので、個人的には、企画展よりも、むしろ所蔵作品展を期待しているくらいです。
https://nakka-art.jp/collection/top/
例えば、戦前の日本の写真作品では、例の花和銀吾の「複雑なる想像」(1938年)をはじめ、上田備山、梅阪鶯里、平井輝七、天野龍一(特に多い)、川崎亀太郎、岩浅貞雄、榎本次郎、山脇巌、福田勝治、椎原治、佐保山堯海、河野徹、小石清、棚橋紫水など。
また、同時期の海外の写真作品(ドイツ、イタリア、ロシア)もあり、とくに、ロトチェンコの作品は多く所蔵されています。
さらに、1950年代でも、瑛九をはじめ、玉井瑞夫、津田洋甫、中藤敦などの作品があり、それ以外でも、個人的には「大阪写真」の第一人者と言ってもいいと思っている百々俊二(どど・しゅんじ)や、戦前から長い活躍の山沢栄子の作品も多く所蔵されています。
また、この大阪中之島美術館には、図書室だと思われる「アーカイブズ情報室」もあるようですので、こちらも期待しています。
ちなみに、すぐ隣には、東京、京都に続く、第3の国立近代美術館である国立国際美術館もあり、一緒に寄ることもできるという贅沢な場所です。
かなり余談になりますが、この国立国際美術館は、かつて吹田市の「千里」というもっと大阪の北側の「万博記念公園」の中にあり(岡本太郎の「太陽の塔」のある場所です)、行ったことがありますが、美術館に行くために多くの人がわざわざ向かうという場所でもなく、お客さんがほとんどおらず、やや荒れているという印象がありました。移転して、本当に良かったと思います。さらに余談となり、余計なお世話でもありますが、木場の東京都現代美術館が、今後同じような荒れ方をしないか心配しています。ジブリなどアニメ関係の企画をいつまでも続けていくことはできるのか、そのことで確実なリピーターを生み出せるのか、注視していかねばなりません。
横道にそれすぎました。
現在新型コロナで、大阪に行くこともなかなかためらわれる時期ではありますが、下火になるのを待って、この大阪中之島美術館をぜひ訪問してみたいものです。
最近次の本が刊行されました。
写真論――距離・他者・歴史 (中公選書 123)
港 千尋
中央公論新社
2022/1/7
¥2,090
282ページ
港千尋さんは、写真家であるとともに、写真評論も多く書いておられます。
「写真論」は哲学的、思想的な問題に深くかかわり、時として極めて難しく、生半可な知識では歯が立たないことがありますが、「選書」という性質から、この本は専門家向けではなく比較的入門的な内容ではないかと思います。
ざっと見て、特に関心を持ったのは次の2点です。
序論で、写真の歴史を次の4つの時期に分類しています。(7ページ)
第一期 1820~1870 発明と完成期
第二期 1870~1920 産業化とグローバル化
第三期 1920~1970 マスメディア化
第四期 1970~2020 インフラ化
単純に50年ごとに区切っているだけのようにも見えますので、この区分がどう機能するのかについては十分に検討する必要があります。しかし、以前から何度も書いていますが、個人的には、どうしても「1945年」という区分にいつまでも囚われていますので、それを打破するためにも、こういった新しい視点には多く触れていきたいものです。
もう1つは、第二部において、「黒人写真史」の試みをしている点です。具体的には、20世紀前半では、ゴードン・パークス(Gordon Parks)とジェームズ・ヴァン・デル・ゼー(James Van Der Zee)の2人が取り上げられています。
「黒人写真史」というものは、試みのレベルであっても、日本語では初めてかもしれません。他の専門家のかたの反応も含めて、今後に期待したいと思います。「黒人写真史」は、はじめは「アメリカにおける黒人写真史」であっても仕方ないと思いますが、その道の先には「アフリカ写真史」が見えてきていると思いますので、その点からも強く関心を持っています。
ただ、個人的には、その前に日本で(日本人が)考えるべきは、「アジア写真史」ではないだろうかとおそれながら思います。それも、中国・韓国はおろか、東南アジアに限ることすらせずに、インドなどの南アジア、イスラム・中東を含む西アジアまでにおよぶ「全アジア写真史」を。極めて困難な道ではありますが、どなたか、この分野に手を染めていただけないものでしょうか?
この港千尋さんの本には、これ以外の点も含めて写真について考えていくための様々な手がかりが含まれていますので、さらに詳しく見てみたいと思っています。
次の展覧会がまもなく開催予定です。
ミロ展 日本を夢みて
Bunkamuraザ・ミュージアム
2022年2月11日(金・祝)~4月17日(日)
https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/22_miro/
久しぶりですね。日本でのミロ展は20年ぶりだそうです。
約130点の作品と資料とのこと。
期待いたしましょう。
なお、会期中の土日祝日および4月11日(月)~17日(日)は、オンラインによる入場日時予約が必要とのことです。最近は当たり前になってきているかとも思いますが、ご注意ください。
前回のつづきですが、この本「教養として知っておきたい名画BEST100」で取り上げられている作品名を追加したリストです。なお、欧文つづりは記載しておりませんが、各ページには、作家名のみならず作品名の「英文」つづりも掲載されていて好ましいことです。ただ、作品のタイトルは、いったい何語で表記すべきでしょうか? 活躍した場所の言語、それとも生誕地の言語、それともそれ以外? この問題は、今では顕在化していませんが、。いずれは立ち現れてくるかもしれません。
また、ここではタイトルは記載しませんが、これらの作品とは別に、それぞれの作家ごとに「この画家の知っておくべきそのほかの作品」が2~3作品ずつ選ばれ、一部はカラー図版も掲載されていますので、これは20世紀前半に限っても、実はかなりの情報量となります。また、図版が掲載されていなくても、現在なら、有名作品ならば日本語でもタイトルからウエブ上で図版を発見することはそう難しくないのではないかと思いますので、日本語の作品タイトルだけでも掲載されていることには大きな意味があると思っています。ぜいたくを言えば、これが10作品くらいであれば、もっとよかったのにと思います。それくらいは自分で探せということかもしれません。
<キュビスム>20世紀初頭
14位:『泣く女』(1937年)パブロ・ピカソ:P.42
<フォーヴィスム>20世紀初頭
25位:『ダンスI』(1909年)アンリ・マティス:P.66
80位:『聖顔』(1933年)ジョルジュ・ルオー:P.163
<表現主義>20世紀初頭
5位:『叫び』(1893年)エドヴァルド・ムンク:P.24
<抽象絵画>(20世紀前半~現代)
31位:『横線』(1923年)ワシリー・カンディンスキー:P.80
10位:『赤・青・黄のコンポジション』(1930年)ピエト・モンドリアン:P.34
45位:『セネシオ(さわぎく)』(1922年)パウル・クレー:P.112
<エコール・ド・パリ>20世紀前半
49位:『マドモアゼル・シャネルの肖像』(1923年)マリー・ローランサン:P.120
58位:『コタンの小路』(1910-11年)モーリス・ユトリロ:P.139
37位:『ジャンヌ・エビュテルヌの肖像』(1919)アメデオ・モディリアーニ:P.92
47位:『カフェにて』(1949年)藤田嗣治(レオナール・フジタ):P.116
23位:『私と村』(1911年)マルク・シャガール:P.62
<形而上絵画>20世紀初頭
68位:『通りの神秘と憂鬱』(1914年)ジョルジョ・デ・キリコ:P.151
<ダダイスム>20世紀前半
62位:『階段を降りる裸体No.2』(1912年)マルセル・デュシャン:P.143
<20世紀前半アメリカ大陸の画家たち>19世紀末~20世紀初頭
95位:『ナイト・ホークス』(1942年)エドワード・ホッパー:P.180
93位:『ブラックアイリスII』(1926年)ジョージア・オキーフ:P.178
77位:『ハチドリととげのあるネックレスをした自画像』(1940年)フリーダ・カーロ:P.160
<アール・デコ>20世紀前半
97位:『自画像(緑のブガッティに乗るタマラ)』(1929年)タマラ・ド・レンピッカ:P.182
<シュルレアリスム>20世紀前半
99位:『オランダの室内I』(1928年)ジョアン・ミロ:P.184
90位:『大家族』(1963年)ルネ・マグリット:P.175
7位:『記憶の固執』(1931年)サルバドール・ダリ:P28
<抽象表現主義>20世紀中頃
74位:『赤の上のオーカーと赤』(1954年)マーク・ロスコ:P.157
66位:『ナンバー1A、1948』(1948年)ジャクソン・ポロック:P.149
84位:『序の舞』(1936年)上村松園:P.167
81位:『童女図(麗子立像)』(1923年)岸田劉生:P.164
30位:『明日の神話』(1968-69年)岡本太郎:P.78
以下は、ついでに書いておきます。
70位:『鮭』(1877年頃)高橋由一:P.153
87位:『湖畔』(1897年)黒田清輝:P.172
43位:『無我』(1897年)横山大観:P.108
<20世紀後半以降の美術>20世紀後半~現在
61位:『キリスト磔刑図のための3つの習作』(1944年)フランシス・ベーコン:P.142
39位:『夢想』(1965年)ロイ・リキテンスタイン:P.96
18位:『マリリン』(1967年)アンディ・ウォーホル:P.50
88位:『シエナ』(1984年)ジャン=ミシェル・バスキア:P.173
86位:『花束を投げる男』(不明)バンクシー:P.171
なお、20世紀後半は以下のとおり5人です。日本人は含まれていません。ただ、岡本太郎は、取り上げられている作品からして、20世紀後半という位置づけなのかもしれません。
<20世紀後半以降の美術>20世紀後半~現在
61位:フランシス・ベーコン:P.142
39位:リキテンスタイン:P.96
18位:ウォーホル:P.50
88位:バスキア:P.173
86位:バンクシー:P.171
20世紀後半も入れれば31名になり、全体の3分の1が20世紀ということになります。これは、かなり20世紀を重視した選択と言えるでしょう。場合によっては、20世紀以降は特別扱いをして除外するという美術史もありうるところ、これは興味深いことです。
なお、以上の人名は、p11、p13の記載のとおりの表記にしています。例えば、「デ・キリコ」ではなく「キリコ」、「ルネ・マグリット」ではなく「マグリット」ということです。ファースト・ネームのありなしも、記載された通りです。ただ、ファースト・ネームのありなしは、表のスペースも関係するのかもしれません。
この選択は非常に興味深いですね。かなり網羅的にカバーできているのではないかと思いますが、客観的に見ると、やはり次の3名は抜けていると言わざるを得ないのではないでしょうか?
マックス・エルンスト
カジミール・マレーヴィチ
ジョルジュ・ブラック
最初は1人2ページ見開きの構成ですが、57位(p138)という中途半端なところから、1人1ページになります。
なお、掲載作品INDEXがあるのですが、それに加えて、掲載作家のINDEXがあればよかったのに、と思います。100人とはいえ見つけるのが簡単になったことでしょう。
例えば、同種とま言えませんが、西洋美術史全体を対象とした次の基本的な書籍を見ると、
西洋美術史ハンドブック
高階秀爾・三浦篤・編
新書館
1997年
取り上げられている美術家101人のうち(タイトルには「101」とは入っていませんが)、20世紀前半は次の10人でしかありません。(なお、20世紀後半は14人なので、これを加えれば、20世紀全体で24人となりほぼ4分の1には達します。)
カンディンスキー/マチス/ピカソ/デュシャン/モンドリアン/ブランクーシ/クレー/キルヒナー/エルンスト/ミロ