そろそろ、情報がいろいろと出てくるのではないかと思っていましたが、なかなか出てこないので、唯一の情報に基づいて、もう書いてしまいます。
兵庫県立美術館から季刊で「ART RAMBLE」(アートランブル)という無料の広報誌が出ています。その86号(2025年3月28日発行)の最終ページ8ページに小林公さんの「38年越しのリレー―安井仲治ネガコンタクト集」という文章が掲載されています。次のURLをご参照ください。
https://www.artm.pref.hyogo.jp/artcenter/pdf/ramble86.pdf
この記事によれば、次の本が今秋(すなわち2025年秋)に刊行予定です。
安井仲治ネガコンタクト集【仮題】
造本設計:町口覚
判型:A4変形
頁数:500頁超
定価:未定
発行元:月曜社
2024年の安井仲治展の東京会場(東京ステーションギャラリー)では刊行予告のチラシが配布されたということですが、当方は持っていません。
この記事によれば、そのチラシには、こう書かれています(チラシでは縦書き)。
(引用開始)
三〇〇〇点余のコンタクトプリントにみる
知られざる仲治の全容
仲治研究の第一人者、福島辰夫氏と福島都氏が一九七〇年代に作成したネガコンタクトのすべてがはじめて詳らかにされる。
(引用終了)
このコンタクトプリントが、中島徳博さんがおられた兵庫県立近代美術館(当時)の1987年の常設展(東京では、西武コンテンポラリーギャラリー(西武コンポ)で開催されたもの)の準備に際して預けられたということで、それが38年越しで刊行されるということらしいのです。
なんとも言えない素晴らしいことです。
しかし、この本は、ページ数とコンタクトプリントの点数から考えて、相当な価格になるでしょうね。当方個人で購入できるようなものなのか、さらには、市町村レベルの公立図書館でも購入できるものなのか、危ぶまれます。
いずれにしても、今後刊行に向けて、更なる情報が出てくるでしょうが、刊行に期待します。
そういえば、中島さんといえば、中山岩太のスタディノート(?)についての研究成果発表は、どうなっているんでしたっけ? こちらも兵庫県立美術館に期待いたします。
次の本が刊行されています。
抽象表現主義
戦後ニューヨークの前衛芸術家たちはいかにして自分たちの歴史を自分たちで作ったか
大島徹也
水声社
2025年
6000円
http://www.suiseisha.net/blog/?p=21255
今まで同様のテーマの書籍が刊行されていたようでいて、実は存在しなかった、そんな重要な書籍だと思います。
戦後美術を対象としていますが、あえてご紹介いたしました。
目次だけ掲載しておきます。
【目次】
序論 抽象表現主義者たちの自主的集団活動…
第1章 〈芸術家の主題〉校 1948―49年
第2章 スタジオ 1949―50年
第3章 “怒れる者たち” 1950年
第4章 ザ・クラブ 1949―63年頃
第5章 9丁目展 1951年
結論
註
【資料1】〈芸術家の主題〉校の要覧(1948―49年用) 1948
【資料2】ロバート・グッドナフからアドルフ・ゴットリーブへの、スタジオでの芸術家討論会の参加依頼状 1950年4月8日
【資料3】アドルフ・ゴットリーブたちからメトロポリタン美術館総長への公開状 1950年5月20日
【資料4】アドルフ・ゴットリーブ、バーネット・ニューマンたちから『ニューヨーク・ヘラルド・トリビューン』紙編集者への手紙 1950年5月25日
【資料5】バーネット・ニューマンたちからメトロポリタン美術館総長への公開状 1952年6月27日
【資料6】スタジオ35での芸術家討論会(1950年) 1951年
関連年表
参考文献
図版出典
索引
あとがき
(以上で、目次終わり)
まったくすごいことは、この内容の書籍が「翻訳」ではない、ということです。
実物をじっくり見てみたいものです。
ちなみに、個人的には、アーシル・ゴーキーがあまり取り上げられていないようで残念です。「抽象表現主義」の中では、アーシル・ゴーキーは中心には位置しておらず、傍流なのでしょう。
次の本が刊行されています。
ロシア革命と芸術家たち 1917-41
ツヴェタン・トドロフ
赤塚 若樹・訳
白水社
2025年3月31日
5400円
https://www.hakusuisha.co.jp/book/b658600.html
白水社らしい本です。
タイトルだけしか見ないと、何となく、「いまさら?」というような、よくある、ありふれた内容のようですが、いったいどこに独自性や新しさがあるのか、どこにわざわざ翻訳をする価値があるのか、実物をじっくり見たいものです。
目次だけ掲載しておきます。
【目次】
序文 革命を前にした創造的芸術家たち 13
第一部 愛から死へ 33
第1章 革命の衝撃 39
ブーニン、言葉の批判 40
一九一七年のブルガーコフ 43
ゴーリキー、〈啓蒙〉の信奉者 44
メイエルホリド、熱狂 49
革命に奉仕するマヤコフスキー 52
自然の力に耳を傾けるブローク 56
パステルナーク、共感と留保 64
ツヴェターエワ、思想よりも人間を 71
第2章 自分の道を選ぶ 77
ピリニャーク、言い逃れをする抵抗者 82
マンデリシターム、匿名のビラ 87
ザミャーチン、最初のディストピア 91
バーベリあるいはありえない嘘 100
ブルガーコフ、悪魔を憐れむ歌 106
一致を求めるパステルナーク 115
第3章 文化的反革命 125
ショスタコーヴィチ──音楽と言葉 127
エイゼンシュテイン、勝った者が負けになる 136
第4章 死亡者名簿 145
第2部 カジミール・マレーヴィチ 159
第1章 革命の陶酔 169
第2章 ユートピアを生きる 177
第3章 アヴァンギャルド芸術家の旅程 185
第4章 芸術それ自体 197
第5章 幻滅の年月 211
第6章 共産主義の批判 221
第7章 逃亡と監禁 229
第8章 絵画への回帰 239
第9章 最後の探求 249
エピローグ 革命後 261
▪ 謝辞 275
訳者あとがき 277
▪ 図版一覧 16
▪ 訳註 15
▪ 原註 05
▪ 文献 04
▪ 索引 01
(以上で目次終わり)
必ずしも、対象は美術の分野だけではなさそうです。他方、マレーヴィチについては、詳細な内容が含まれているようです。それというのも、著者はマレ―ヴィチについての著作でも著名なためのようです。
実物を見たうえで、また、ご紹介したいと思います。
先にご紹介した「新建築2025年8月号/特集・建築100年PART1」ですが、大人気のようで、入手が困難になっているようです。雑誌ではありますが、増刷のようなものがあるでしょうか?
https://post-architecture-books.com/products/sk-202508
Amazonでは、出版社からの商品は品切れになっているのに対し、定価よりも高い値段で出品されているものがありますが、ひどいことです。
他方PART2の情報も出てきています。
https://japan-architect.co.jp/shop/shinkenchiku/sk-202509/
https://post-architecture-books.com/collections/sk/products/sk-202509
目次をコピーしておきます。
監修者
加藤耕一(東京大学大学院工学系研究科教授)
坂牛卓(チリ・カトリック大学客員教授)
権藤智之(東京大学大学院工学系研究科准教授)
長谷川香(東京藝術大学美術学部建築科准教授)
刊行のことば 連鎖としての建築史 ──新建築100年を読み継ぐ 吉田信之(新建築社社主)
はじめに 加藤耕一(監修者代表)
建築100年のマトリクス
論考
夢みたモノは 権藤智之
共同性を立ち上げる 建築のモニュメンタリーを巡って 長谷川香
2000s
コラム:フラットの裂け目 権藤智之
ダイアグラムと建築 坂牛卓
ファッションと建築 成実弘至
デジタル技術と構造デザイン 浜田英明
構築的・皮膜的 権藤智之
感性的,身体的表現 伊東豊雄
ミニマリズム 仲山ひふみ
中国現代建築のタンジビリティ 市川紘司
新素材の形 澤秀俊
物質循環の中の分解 藤原辰史
建築の民主化とリノベーション 馬場正尊
Small Scale, Big Change: New Architectures of Social Engagement アンドレス・レピック
都市のリサーチと実践 南後由和
2000年代──都市は「地平線を変える建築」を競った 相浦みどり
「歴史」を巡る政治と都市 長谷川香
2010s
コラム:人と物の位置 坂牛卓
感性 桑原俊介
精緻な関係性記述の先に 伊藤維
「住居」に近付いたオフィスは「森」や「街」に近付く 羽鳥達也
デジタル建築 池田靖史
裸の建築:現代的実践における素材の真正への回帰 オサム・オカムラ
掘るあるいは積むという行為に帯びる情緒 川井操
中大規模木造 小見山陽介
生環境の社会的転換 能作文徳
物質循環の美学 岡部明子
保存から変化へ 加藤耕一
モノからのアプローチ/ボトムアップ 門脇耕三
シェアハウスの日本的展開―制度・空間・コミュニティの交差点 宮原真美子
公共建築とパブリック・リレーションズ 榊原充大
地表の記憶 人びとの記念 戸田穣
2020s
コラム:次の100年を求めて 加藤耕一
文化財と再利用のはざま 寺本恒昌
その正当性を,空間的に問い直す営み アサダワタル
情報通信技術(ICT)と都市 吉村有司
パブリックライフを引き出す新しいパブリックスペース 高柳誠也
INDEX
PROFILE
CREDIT
建築100年企画広告
(目次は以上)
楽しみです。
なお、これだけ人気があるのならば、2冊を合本して「単行本」として刊行するということもありうるのではないでしょうか?
雑誌の次の号が刊行されています。
+81(プラス・エイティワン) Vol.95
A Visual Encycl. of 100 Years Graphic Design JAPAN
Graphic Design JAPAN 100年図鑑 1922-2025
ディー・ディー・ウェーブ 編
A4変形 ● 160ページ
ISBN:978-4-309-92294-2 ● Cコード:0070
発売日:2025.06.12
定価2200円(本体2000円)
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309922942/
まず、取り上げられた作家やグループ名を掲げた目次が公表されていない、という点が問題です。公表されているのは、次のような目次です。
目次
1920‐1940 The Dawn of Graphic Design グラフィック・デザインの夜明け
1950‐1960 Reconstruction of Post‐war Design 戦後デザインの復興
1960‐1970 The Rise of Advertising Media 広告メディアの隆盛
1970‐1980 The Age of Women’s Liberation 女性解放時代
1980‐1990 The Golden Age of Advertising Media 広告メディアの黄金期
1990‐2000 The Rise of Visual Culture ヴィジュアル・カルチャーの隆盛
2000‐2010 Theoretical Generation 論理的思考世代
2010‐2020 The Age of Diversity 多様性の時代
2020‐2025 Connected Age 繋がりの時代
このスレとして注目すべきは、「1920‐1940 The Dawn of Graphic Design グラフィック・デザインの夜明け」の部分ですが、ここには、5人が挙げられていたと思いますが、ネット上に情報があると思い、書店でメモしてきませんでしたので、5人目がわかりません。4人までは以下のとおりのはずです。
片岡敏郎
山名文夫
河野鷹思
名取洋之助
残りの1人は、次のうちの1人かもしれませんが、よくわかりません。
・杉浦非水
・橋口五葉
・竹久夢二
・多田北烏
・今竹七郎
わかり次第情報を追加いたします。
ただ、原弘が含まれていないということは間違いないでしょう。これは問題です。名取洋之助の部分で原弘をカバーできるという理解なのかもしれませんが、不十分です。原弘を落とすとは、非常に困った人選です。これで「世界16ヶ国で販売され」てしまっては、なおさら問題です。
なお、亀倉雄策は、戦後で取り上げられていますので、この時期に入っていなくても大丈夫です。
そうこうしているうちに、最後の1人を確認しました。
三島海雲(みしま・かいうん、1878-1974)でした。片岡敏郎の次、山名文夫の前です。デザイナーではなく、実業家、カルピスの創業者です。デザイナーではないから、当方の記憶の中にもなく、名前を覚えられなかったのだろうと、腑に落ちます。ここでは、「三島海雲」という名前によってカルピスの複数の作品をまとめて取り上げたかったということなのでしょう。なお、本文には三島海雲の没年の記載がありませんでした。「没年などネットでいくらでも調べられる」、確かにそうですが、そういうことをいいたいのではなく、「歴史」を取り扱う特集なのに、歴史を扱うという認識に欠けているということです。没年を記載し落とすなど、あるまじきことです。
しかし、そもそも、他の4人と比べて違和感があります。実業家を取り上げること自体がおかしいというのではなく、その視点は評価できるのですが、ここで1人だけしかとりあげないということが、中途半端なのです、日本の企業において、「広告・宣伝・デザインに力を入れていく」という方針を打ち出した経営者は、戦前の日本においても他に多数いたことでしょう。にもかかわらず、1人だけというのは足りなさすぎます。実業家、経営者というテーマは、今まであまり取り上げてこられなかった視点だとして評価できるとともに、本を1冊書くくらいの情報量があるはずで、しかも本にまとめるだけの価値があります。そういう意味において、中途半端だと申し上げているのです。
できれば、今後、この方向で、さらに調査を進めて、特集も組んでいただきたいところです。「戦前日本企業の広告・デザイン経営戦略」などと。
なお、もう1点確認できたところとして、原弘に関しては、名取洋之助のページに加えて、(全ページを確認したわけではありませんがおそらく)戦後のページでも、その作品は掲載されていませんでした。巻末の「年表」(CORRELATION DIAGRAM)には、その名前がかなりしっかりと明記されているのにもかかわらず、この本の本文では原弘がほとんど無視されているというような状態は、非常に奇妙なことですが、もちろん、「三島海雲を入れたから、原弘ははずした」という説明が成り立たないことは言うまでもありません。
もし、雑誌側に好意的に考えるのならば、原弘に関しては、取り上げるつもりだったのだが、何か権利関係の障害で掲載できなかったのかもしれません。そうであれば、その説明が雑誌内にあってしかるべきですが。
最後に、一般の図書であれば、公立図書館に所蔵される可能性はあるのですが、このような雑誌のある1つの「号」だと、もともとその雑誌を継続的に受け入れている場合でなければ、その号だけが所蔵される可能性はほぼ皆無です。要するに一般の公立図書館でこの特集の号を閲覧できる可能性はほぼゼロで、見たい場合には、大きな書店で見るか(しかも、在庫がまだ残っている時期、すなわち発売からあまり時間のたっていないうちに)、自分で購入せねばならなくなります。もちろん、国立国会図書館や美術館の図書室(アート・ライブラリ)であれば、閲覧やコピーは可能かもしれませんが、この号のためだけにそのような特殊な場所にまで足を延ばそうと考えることができる人が、何人いるかは極めて疑問です。ようするに、その内容の(ある程度の)網羅性にもかかわらず、この特集が多くの人の目に触れる機会がないという残念な状態になります。
なお、「別冊」や「増刊」という位置づけの「本」でも公立図書館がもとの雑誌と切り離して所蔵を決定するということは、可能性は低いかもしれません。ここは、公立図書館によって判断が分かれるかもしれません。難しいところです。
今回のような歴史的な内容(後々残しておくべき内容)の特集の号は、雑誌であっても、独立して所蔵するような柔軟さを公立図書館に期待します。
または、まったく逆の発想をしてしまいましょう。河出書房に対して、(「雑誌」の1つの「号」ではなく)「単行書」として再刊していただくことを希望します。こうすることで、公立図書館が次々と所蔵してくれるようになるのではないでしょうか?