No,2111、No.2112において「美術館のサイトにおける過去の展覧会・出品作品の情報」を書きましたが、特に、その最後に、徳島県立近代美術館の出品作品リストについて、書きました。
その書きぶりは絶賛気味ですが、1つ大きな問題点があります。それは、図版が一切付されていないことです。図版がなく、作家名、タイトルやサイズだけでは、作品の特定が難しい場合があること、皆さんもよくご存じのとおりです。
「ちょっと、それは贅沢すぎるんじゃないか?」
とお考えでしょう。当方もそう思います。著作権の問題も大きく立ちはだかるでしょう。しかし、実現性が乏しいとか不可能だとか言うご批判は甘んじてお受けすることとして、とにかく、当方が希望することを書いてみたいと思います。
まず、少し遡りますが、No.2064において、「マグリット400」をご紹介いたしました。
ネット上に美術作品の画像があふれているにもかかわらず、あのような図版中心の書籍に対する需要が、なぜ未だにあるのだろうか、と考えると、ネット上に掲載されている美術作品画像の問題点が見えてくるのではないかと思います。
あの本の長所は、この1冊で、他に類を見ない相当数の図版、しかも代表作を網羅的に見ることができる、という点にあるのだと思います。
逆に言えば、ネット上の画像は、数が中途半端で、まとまりがない、ということだと思います。そして、どこに掲載されているのかもよくわかりません。ある作家、ある作品の画像が存在するのかどうかもわかりません。
すなわち、ある特定の画像数点(しかも有名な作品)を探すのであればともかく、作家ごとに網羅的に数がまとまっているようなネット上のページはほとんどない、と言わざるを得ないのです。
情けないことですが、これが現状です。
また、そのようなページがあったとしても、作家ごとに、ある特定の個人や機関が、そういうページを「仮に作成していれば」存在するということがほとんどで、作家ごとにいちいち探さねばならず、ページが存在すればそれだけで幸いなのかもしれませんが、当然ながら作家ごとに(ページの構成や形式がまちまちであることはまだいいとして)掲載されている作品数もばらばらで、ほとんどの場合、網羅的とは言えない、有名作品ですら(1つのページで、または、ネット全体でも)すべて見ることはできない、少なくともあちらで1点、こちらで1点と、1点ごとに探さねばならない。大変な労力がかかります。
結局、どうしても、書籍に頼らざるを得ないというのが現状です。
なんとかしてほしいところです。
以上から、ネット上の状態として望ましいのは、やはり、主要な作家ごとに、網羅的に、作品図版・画像の掲載・データベース化・アーカイブ化をしていただく、ということでしょう。いわば、ネット上のレゾネです。著作権の問題はあるにせよ、どうにかそれをクリアして、「網羅性」を確保していただきたいと思います。例えば、ルネ・マグリットならば、このページを見れば、ほぼすべての作品が見られる、デ・キリコならば、こちらのページを見ればよい。日本の作家についても同じで、画家ばかりでなく、写真家でも同様です。例えば、安井仲治の作品については、このデータベースを見れば、ほぼすべての作品を見ることができる。安井仲治の名前を出しましたので、もう少し書いてみますと、安井仲治のレゾネは存在しませんが、需要から考えて今後も刊行されることは難しいでしょう。日本の戦前の写真家でかろうじて「レゾネ」と呼べるようなものは、中山岩太くらいしかないでしょう。しかしネット上の画像データベースであれば、安井仲治でも制作は可能なはずです。そして、他の日本人写真家についても可能でしょう。
ネット上にそのような網羅的な画像を掲載していただけるとしたら、頼れるのは、美術館や大学などの研究機関でしょう。しかも、1つの美術館で、すべての作家について作品図版データベースを構築することことなど到底無理でしょうから、やはり、役割分担せねばなりません。例えば、ルネ・マグリットならばこの美術館、デ・キリコならばこの美術館、といった具合に1つの美術館が担当する。ポイントは、やはり「網羅性」です。自らの美術館に所蔵している作品であれば図版を含めてデータベース化している、というケースがたくさんあるでしょうが、それではダメなのです。そんなことで我慢をしていたら、ルネ・マグリットやデ・キリコならば、全世界の美術館を探し続けなければなりません、いったいどれだけ多くのサイトを探さなければならないでしょうか、どれだけ多くの時間がかかることでしょうか、当方が死ぬまでに探しつくせるとは思えません。そして、そのように、作家ごとに1つにまとめるためには、著作権上の特別な措置・取扱を認めていただくしかありません。または、各機関が集中的に1つの美術館・研究機関に図版のライセンスをするという方法もあるでしょう。どの美術館・研究機関がどの作家を担当するかでもめるかもしれません。確かに、パブロ・ピカソなど、どこが担当するのかもめそうです。しかし、そこは、国際的な協調により、「1つに絞る」という解決をぜひ目指していただきたい。また、有名な作家の場合、データベースを有料にするということもアイデアとしては出てきうるでしょうが、今後の研究・調査などのために、無償で使用できるようにしていただくことをぜひお願いしたい。
そして、作家ごとにそういう網羅的な作品図版データベース・アーカイブが一旦成立すれば、全世界からそのデータベースにリンクを貼ることができ、図版の参照が、格段に容易になります。自分のウエブサイトに図版を掲載する必要はなくなり、逆に、誰でも、あらゆる作品図版を見ることができ、リンクすることができるようになる。まさに、夢のような話です。
とはいえ、現時点で、どこかの美術館や研究機関が動いてくれることが期待できるとは思えません。残念です。