次の本が刊行されています
美術出版ライブラリー歴史編 西洋美術史
秋山聰・田中正之・監修
美術出版社
2021年
3800円+税
B5サイズ・432ページ
似たような本が多いなという気はしますが、個人的には、いろいろな本があって、様々な点から比較できればいいと思いますし、新しい本がどんどん出て、「改訂」の代わりになればその点もいいと、肯定的にとらえています。特にこの本は、見開き2ページで1つのテーマ、コラム1ページごとと、まとまりが明確なのが特徴の1つで、カラー図版も多く見ているだけでも楽しい本です。A5版の『カラー版西洋美術史』(美術出版社)よりも「内容量」が多いのもありがたい。
さて、この本では、432ページのうち、「資料編」(キリスト教用語解説、建築図解、関連地図、図版リスト、人名索引、事項・作品名索引)を除くと、本文は371ページになります。
そして、371ページのうち、20世紀は、次の2章で約70ページとなっています(36+30)。
第10章 20世紀前半 モダニズムをめぐる葛藤(文:天野知香)
(概説、テーマ10件、コラム9件、図版70点)
第11章 20世紀後半以降 多様性と越境性(文:田中正之・井口壽乃)
(概説、テーマ8件、コラム7件、図版52点)
全体のバランスを考えると、やむを得ない量ではないかと思う一方、ぱっと見で、デ・キリコ、ルネ・マグリット、タンギーの図版すらない、ということで、この量で20世紀を見渡すことには無理があるなと思うところです。(20世紀以外も無理なのではないかと思いますが、その点については触れません)
ぜひ、続篇として、同じ規模感で、20世紀だけ(無理だとは思いますが、できれば、より対象を限定して20世紀前半だけ)を対象とした本を刊行していただきたいところです。
よろしくお願いします。
実質的な中身にはなかな立ち入れないのですが、1点だけ。「20世紀前半」の最後のコラム(コラム9)は「複製芸術時代の到来:写真と映像」となっており、いかにもヴァルター・ベンヤミン(このコラムの中には名前は挙がっていませんが、p303には記載されています)の影響下にあることをうかがわせます。ベンヤミンは当時としてはやむを得ないのですが、どうしてもヨーロッパ偏重のきらいがあり、それを紹介する文脈ではアメリカの写真は登場してきません。「近代写真の父」と呼ばれることもあるスティーグリッツはp360に、一応「写真家」と付されてはいますが、画廊「291」を開いたという紹介にとどまっており、大変残念です。
ちなみに、タイトルに「歴史編」が付いているということは、他にも何か「○○編」が今後ありうるということなのでしょうか?
野村直太郎という写真家が撮影したとみられる戦時中のアンコールワットの写真151点が発見された、という新聞記事がありました。
https://www.asahi.com/articles/ASQ155JMLPDNPTFC00K.html
野村直太郎とは、どういう経歴の写真家なのでしょうか?
今後の調査、そして、写真作品と調査結果の公表(公刊)が待たれるところです。
とりあえず、次のページもご参照ください。
https://jyunku.hatenablog.com/entry/2021/12/12/084240
大阪中之島美術館が、2022年2月2日(水)に開館しました。
現在、開館記念展である「超コレクション展99のものがたり」が3月21日(月・祝)まで開催中です。
もともと1988年に「大阪市立近代美術館」として計画がスタートしたということですので、開館まで30年以上が経過したということになります。その間、大阪市の財政難によるトラブルなどもあって、かなりの紆余曲折があったようです。
とにかく、曲がりなりにも開館までこぎつけることができたことについて、大いに祝福したいと思います。
ウエブサイトの「コレクション」のページなどをご覧いただければお分かりいただけますが、この美術館の大きな特徴として、大阪に関わる近現代美術(絵画・写真・デザインなど)の所蔵作品が非常に多いので、個人的には、企画展よりも、むしろ所蔵作品展を期待しているくらいです。
https://nakka-art.jp/collection/top/
例えば、戦前の日本の写真作品では、例の花和銀吾の「複雑なる想像」(1938年)をはじめ、上田備山、梅阪鶯里、平井輝七、天野龍一(特に多い)、川崎亀太郎、岩浅貞雄、榎本次郎、山脇巌、福田勝治、椎原治、佐保山堯海、河野徹、小石清、棚橋紫水など。
また、同時期の海外の写真作品(ドイツ、イタリア、ロシア)もあり、とくに、ロトチェンコの作品は多く所蔵されています。
さらに、1950年代でも、瑛九をはじめ、玉井瑞夫、津田洋甫、中藤敦などの作品があり、それ以外でも、個人的には「大阪写真」の第一人者と言ってもいいと思っている百々俊二(どど・しゅんじ)や、戦前から長い活躍の山沢栄子の作品も多く所蔵されています。
また、この大阪中之島美術館には、図書室だと思われる「アーカイブズ情報室」もあるようですので、こちらも期待しています。
ちなみに、すぐ隣には、東京、京都に続く、第3の国立近代美術館である国立国際美術館もあり、一緒に寄ることもできるという贅沢な場所です。
かなり余談になりますが、この国立国際美術館は、かつて吹田市の「千里」というもっと大阪の北側の「万博記念公園」の中にあり(岡本太郎の「太陽の塔」のある場所です)、行ったことがありますが、美術館に行くために多くの人がわざわざ向かうという場所でもなく、お客さんがほとんどおらず、やや荒れているという印象がありました。移転して、本当に良かったと思います。さらに余談となり、余計なお世話でもありますが、木場の東京都現代美術館が、今後同じような荒れ方をしないか心配しています。ジブリなどアニメ関係の企画をいつまでも続けていくことはできるのか、そのことで確実なリピーターを生み出せるのか、注視していかねばなりません。
横道にそれすぎました。
現在新型コロナで、大阪に行くこともなかなかためらわれる時期ではありますが、下火になるのを待って、この大阪中之島美術館をぜひ訪問してみたいものです。
最近次の本が刊行されました。
写真論――距離・他者・歴史 (中公選書 123)
港 千尋
中央公論新社
2022/1/7
¥2,090
282ページ
港千尋さんは、写真家であるとともに、写真評論も多く書いておられます。
「写真論」は哲学的、思想的な問題に深くかかわり、時として極めて難しく、生半可な知識では歯が立たないことがありますが、「選書」という性質から、この本は専門家向けではなく比較的入門的な内容ではないかと思います。
ざっと見て、特に関心を持ったのは次の2点です。
序論で、写真の歴史を次の4つの時期に分類しています。(7ページ)
第一期 1820~1870 発明と完成期
第二期 1870~1920 産業化とグローバル化
第三期 1920~1970 マスメディア化
第四期 1970~2020 インフラ化
単純に50年ごとに区切っているだけのようにも見えますので、この区分がどう機能するのかについては十分に検討する必要があります。しかし、以前から何度も書いていますが、個人的には、どうしても「1945年」という区分にいつまでも囚われていますので、それを打破するためにも、こういった新しい視点には多く触れていきたいものです。
もう1つは、第二部において、「黒人写真史」の試みをしている点です。具体的には、20世紀前半では、ゴードン・パークス(Gordon Parks)とジェームズ・ヴァン・デル・ゼー(James Van Der Zee)の2人が取り上げられています。
「黒人写真史」というものは、試みのレベルであっても、日本語では初めてかもしれません。他の専門家のかたの反応も含めて、今後に期待したいと思います。「黒人写真史」は、はじめは「アメリカにおける黒人写真史」であっても仕方ないと思いますが、その道の先には「アフリカ写真史」が見えてきていると思いますので、その点からも強く関心を持っています。
ただ、個人的には、その前に日本で(日本人が)考えるべきは、「アジア写真史」ではないだろうかとおそれながら思います。それも、中国・韓国はおろか、東南アジアに限ることすらせずに、インドなどの南アジア、イスラム・中東を含む西アジアまでにおよぶ「全アジア写真史」を。極めて困難な道ではありますが、どなたか、この分野に手を染めていただけないものでしょうか?
この港千尋さんの本には、これ以外の点も含めて写真について考えていくための様々な手がかりが含まれていますので、さらに詳しく見てみたいと思っています。
次の展覧会がまもなく開催予定です。
ミロ展 日本を夢みて
Bunkamuraザ・ミュージアム
2022年2月11日(金・祝)~4月17日(日)
https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/22_miro/
久しぶりですね。日本でのミロ展は20年ぶりだそうです。
約130点の作品と資料とのこと。
期待いたしましょう。
なお、会期中の土日祝日および4月11日(月)~17日(日)は、オンラインによる入場日時予約が必要とのことです。最近は当たり前になってきているかとも思いますが、ご注意ください。