東京都写真美術館が総合会館の1995年から30周年ということで、「総合開館30周年記念」展が3つ開催中です。個人的には、一次開館の1990年のほうが印象が強いのですが、それは置いておきましょう。
この3つの企画ですが、東京都写真美術館のサイトをご覧いただければと思いますが、
https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-5087.html
https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-5200.html
https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-5093.html
当方が想定しそうな、写真史全体をカバーするような企画ではありません。
個人的には、3フロア全体を1つの企画のために使って、その企画こそが、東京都写真美術館がこの3年間で所蔵したコレクションを年代ごと、または、テーマごとに俯瞰するような企画なのかなと漠然と考えていました。
しかし、そういう企画ではなく、ブラジルの映画監督の個展と、わざわざ「30周年記念」としなくても、普段ででも開催されそうなグループ展2つです。
さてこれはいったい何を意味するのか。
すでに、「全体を俯瞰する」などということが、「古めかしい」こととなっているのかもしれません。そして、むしろ、「特別性」を昇華して、「日常性」に向かうべきだということなのかもしれません。別の言い方をすれば、21世紀にいたって、写真の世界では「ハレ」がすでに失われてしまって、「ケ」だけになってしまっていると。
「ハレ」の1つの特徴は、「個」ではなく「集団・共同」であるということだと思います。1人だけが「ハレ」ということはあまり考えにくい。その「土地」または、少なくともその「家族」が共同しなければ、「ハレ」が成立しない。しかし、現代の写真においては、「ハレ」が存在しにくくなりつつある、少なくともそれを多くの作品に当てはめることはできない、それゆえ「ケ」の企画で、「総合開館30周年記念」としようとしたのではないかと。
穿ちすぎですかね。
世の中は思った以上に変化してきているのかもしれません。世の中は思った以上にばらばらになってしまっているのかもしれません。そして、それは、もうまとめることができなくなっているのかもしれません。我々は、今後、常に「ケ」を生きていくことになるのかもしれません。
以前も同じことを何回も書いているような気がするのですが、改めて書きます。
ネット上で「写真家人名辞典」を作成・公開していただけないでしょうか?
20世紀前半に限定して書いてみますと、
<日本>
20世紀前半までという事であれば、書籍では日外アソシエーツの「日本の写真家」(監修:東京都写真美術館、2005年)があります、しかし、収録人数は839人。
これでは到底足りないので、この倍、2000人は欲しい。
<海外>
20世紀前半に限っても、最低200人くらいは欲しい。できれば、1000人は欲しい。1500人だとありがたい。
以上ですが、この収録者数の規模では、書籍刊行は全く無理でしょう。でも、ネットならば可能性はあるはずです。
また、ネットの場合には、全体を一度に完成させる必要もありません。この点も制作側としては大きなメリットだと思います。ただ、逆に、締め切りがなくなって、「いつまでも公開できない」となるおそれはあります。
なお、Wikipediaというものがありますが、素人が書いていてどこまで信頼できるかわかりませんし、そもそも写真家の記事の数が少なすぎます。将来にわたって、上記のような規模に達する見込みはありません。
ネット上の「写真家人名辞典」、すでに計画があったり、まさかとは思いますが進行中かもしれませんが、実現を目指していただきたく、どうかよろしくお願いします。
次の本が刊行されています。
男性のいない美術史―女性芸術家たちが描くもうひとつの物語(THE STORY OF ART WITHOUT MEN)
著者:ケイティ・ヘッセル,〈Katy Hessel〉
翻訳:鮫島 圭代
パイインターナショナル
2025/09発売
価格 ¥7,480(本体¥6,800)
かなり聞いたことのない名前(作家名)が含まれています。
1900年~1950年のすべての図版の作者の名前を記載にしたかったのですが、量的に無理なので、写真作品図版に限って、撮影者として付されている名前を掲げます。
クロード・カアン
ハンナ・ヘッヒ
ゲルトルート・アルント
ドラ・マール
リー・ミラー
ティナ・モドッティ
ドロシア・ラング
この範囲では、それほどめずらしい名前が挙がっているわけではありません。
この本の大きな問題としては、美術家の名前の欧文つづりがないことです。
以前も同じことを書いていることがありますが、「翻訳もの」なのだから、欧文つづりは、間違いなく「もともとそこにあった」はずです。それを残しさえすれば終わりだったのですが、欧文つづりがないと、それを見つけ出すのは、ケースバイケースではありますが、なかなか厄介です。特に、あまり著名でない作家については。
例えば、巻末の「索引」だけでも、欧文つづりを残す、という発想がなかったのでしょうか?
ただ、同様に巻末に掲載されている「挿絵一覧と写真の謝辞」が、原著の原文そのままのようですので、もしかすると、これで作家名のつづりの大部分をカバーできるかもしれません。
さて、最後に、中身から、1点だけ重要な内容を。
160ページ以降に、「レディメイド」について、マルセル・デュシャンより先んじていたかもしれない、さらには、デュシャンの「泉」の真の作者かもしれない、として、バロネス・エルザ・フォン・フライターク=ローリングホーフェン(Elsa Baroness von Freytag-Loringhoven、1874~1927)という作家が挙げられています。
この点はすでに有名なことなのかもしれませんが、当方はここで初めて知りました。
最後に目次を掲げておきます。
目次
訳者まえがき
はじめに
第1部 道を切り拓く 1500年頃‐1900年頃
第1章―芸術のカノン(正典)を彩る女性たちの自画像
第2章―栄光に満ちた芸術表現の時代
第3章―写実主義から心霊主義へ
第2部 芸術を近代化させたものとは 1870年頃‐1950年頃
第4章―戦争、アイデンティティ、パリの前衛芸術
第5章―第一次世界大戦の余波
第6章―アメリカ大陸におけるモダニズム
第7章―戦争、新しい技法・メディアの台頭)
第3部 戦後の女性たち 1945年頃‐1970年頃
第8章―素晴らしき実験精神の時代
第9章―政治的変化と新たな抽象芸術
第10章―身体
第11章―新しい伝統を編む
第4部 自分で手綱を握る 1970年頃‐2000年頃
第12章―フェミニズムの時代
第13章―1980年代
第14章―1990年代
第15章―イギリスにおける急進的変革
第5部 「美術の物語」の執筆は今も続く 2000年‐現在
第16章―史の語りにおける脱植民地化と、伝統の再構築
第17章―21世紀における具象表現
第18章―2020年代
用語集
年表
注釈と参考文献
挿絵一覧と写真の謝辞
謝辞
著者について
索引
先にご紹介した「開封・戦後日本の印刷広告: 『プレスアルト』同梱広告傑作選〈1949-1977〉」は、プレスアルトの戦後の部分を中心にしていました。しかし、プレスアルトは戦前から刊行されていますが、戦前の部分は、どうやら次の復刻版くらいしか資料はないようです。
なお、この本は当然のごとく、もう入手は不可能です。ただ、在庫があっても、個人で所有できるような価格ではありませんね。
復刻版 『プレスアルト』 (全3巻)+別巻CD-ROM
嶋田 厚 編
津金澤 聰廣 編
出版社:柏書房
定価:181,500円(本体 165,000円)
刊行:1996/07/01
ISBN:4760113053
ページ数:1,324
https://www.kashiwashobo.co.jp/book/4760113053
『昭和12年から昭和19年までに73号を発行した作品付広告・宣伝批評誌を完全復刻。山名文夫,亀倉雄策,原弘ら戦後の広告界を支えた著名人が登場。従来の広告・宣伝史の改変をも迫る資料。奇跡的に保存されていた作品180点をCD-ROMに収録。』
ということです。
3巻の概要は以下のとおりです、
目次
第1巻:昭和12年~14年・第1号~第33号
第2回:昭和15年~16年・第34号~第50号
第3巻:昭和17年~19年・第51号~第73号、解題、総目次、他
念のため、ご紹介まで。
次の本が刊行される予定です。
ラジオと写真家: 「声」の日本写真小史・1925-1944
松實輝彦
創元社
発売日 : 2025/12/19
3080円
ソフトカバー : 272ページ
おおお、『広告写真のモダニズム 写真家・中山岩太と一九三〇年代』(青弓社)の著者でもある松實さんの新刊です。
思いもつかないようなテーマ、題材ですね、さすがです。創元社も面白い本を出版するものです。
登場する写真家としては、福原信三、中山岩太、木村伊兵衛という名前が挙がっています。
楽しみです。
なお、この本を調べている間に、次の少し昔の本も、いまさらながら発見しましたので、ご紹介します。戦後が対象ではありますが、「プレスアルト」についての本とは珍しい。
開封・戦後日本の印刷広告: 『プレスアルト』同梱広告傑作選〈1949-1977〉
竹内 幸絵 (編), 石田 あゆう, 植木 啓子, 北廣 麻貴, 熊倉 一紗, 佐藤 守弘, 寺本 美奈子, 松實 輝彦, 村瀬 敬子, 輪島 裕介
創元社
発売日 : 2020/3/10
4950円
240ページ