もう3月半ばなので、2019年度の展覧会情報がいろいろと出てきていますが、なかなか、このスレのテーマにぴったりの企画は見つかりません。2019年度は20世紀前半の時期に関する展覧会企画にはあまり期待できないかもしれません。
それにしても、以前から状況がよくならないのですが、あらためて次の2点を指摘したいと思います。
1.3月半ばになっても、2019年度の予定を十分にウエブサイトに掲載していない美術館が散見されることに驚きます。もっと適時の情報開示をお願いしたいところです。
2.今後の展覧会の情報がもっと調べやすくならないものでしょうか? そもそも、個々の美術館の枠を超えて展覧会情報をまとめたサイトがあまり存在しないという問題があり、結局1館1館のサイトを見ていかねばならないという困った状況が続いています。仮に展覧会情報をまとめたサイトがあったとしても、さらに別の問題として、検索の利便性も全然向上していません(展覧会だけではなく、書籍などの文献も含め、検索一般の問題です)。例えば、このスレ的には、「20世紀前半の美術を対象とした展覧会(個展でもグループ展でも構わない、他の時期が含まれていても構わない)」(という広い範囲)を検索したいのですが、このような言葉では検索などできません。「そんな変な検索をせずに、作家名とかグループ名で検索すればいいのに」とおっしゃるでしょうか? 確かに、そのような検索であれば、端的に検索の威力を発揮します。しかし、もし、作家名で検索をしようとすると、おおげさな言い方ではなくて、数百人の名前で検索をしなければならなくなり、そんなことは、時間がかかりすぎて、できるわけがありません。あえて付言しますと、今まで見たこともない(知ることもない)マイナーな作家(上記「数百人」以外の作家)の作品のほうがより見てみたい、という希望もありますので、それいたっては、知らないのですから検索のしようがありません。
いや、実は、そういう情報を外に求めるのではなく、このスレを「20世紀前半の美術を対象とした展覧会」の情報を網羅的にまとめて掲載する場にすべきなんですね…。あらためて反省し、今後について考えたいと思います。
>>1791
「ル・コルビュジエ」展に、さっそく行ってきました。
平日でしたが、かなり混んでいるという印象がありました。
タイトルが「ル・コルビュジエ 絵画から建築へ ピュリスムの時代」とあり、チラシにも大きくル・コルビュジエだけが写っているのですが、内容を考えた実際は、「ピュリスム展」といっていいでしょう。なお、ピュリスム期のル・コルビュジエとオザンファンの作品は、キュビスム期のピカソとブラックの作品のように、素人には区別が難しく感じました。
(ところで、はじめて国立西洋美術館に行ったのですが、会場の一部が、構造上、とても天井が低く不思議に思いました。なぜそういう造りにしたのでしょうか? 背の高い外国の人などは、とても困ると思うのですが。)
「出品作品リスト」(展覧会特設サイトの方ではなく、美術館の方のサイトに掲載されています、https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/pdf/2019lecorbusier_list.pdf)によれば、オザンファンの作品は16点で、今まで、これだけオザンファンの作品が集まった企画はなかったはずです。しかも、欧米各地の美術館から集められているという豪華さです。
さらに、2人以外の、ピカソ、ブラック、レジェ、グリスなどの作品もありますが、キュビスム展というには数が少なすぎて中途半端であり、展示の中での位置づけ、つまり「ピュリスム」との関係が、展示を見ただけでは、よくわかりません。見せ方に問題があったのではないか、もっと展示順などを工夫して、ピュリスムとの影響関係などをわかりやすく示すべきであったと思います。ただ、彫刻(アンリ・ローランスとジャック・リプシッツ)は、単純に見ることができてよかったと思いました。
さて、以下、オザンファンに焦点を絞って書かせてもらいます。
オザンファンといえば、「20世紀前半の美術家50名」の中というのは無理としても、「20世紀前半の美術家100名」には当然入るくらい重要な作家にもかかわらず、特に日本では知名度がありません。
その結果、ピュリスム展を超えて考えた「オザンファン展」に至っては、日本では今まで開催されたこともなく、少なくとも当方が生きている間には、今後も開催される可能性は皆無でしょう。その意味で、オザンファンのファンであれば、今回の企画は、文字通り必見です。
オザンファンで考えますと、ピュリスムの時代(ピュリスム的な作品を制作した時期)は、1918年頃から1920年代後半までのほぼ10年間。「ピュリスム」を宣言した『キュビスム以降』の刊行とジャンヌレとの初めての二人展がいずれも1918年なので、スタートは1918年で間違いないでしょう。終わりは、オザンファンが「エスプリ・ヌーヴォー」からの離脱を通告し、実際に、雑誌『エスプリ・ヌーヴォー』の最後の号が刊行された1925年で運動としては終わりです。ただし、オザンファンのピュリスム的な作品は、その後もしばらく継続して発表されています。
さて、今回驚いたのは、分厚い展覧会カタログです。330ページ超で、かつてのセゾン美術館の「バウハウス」展の厚い展覧会カタログを思い出しました。3800円は高いと思いますが、あの内容で、書店で販売される一般の本ならば5000円は超える可能性もありますので、やむをえないでしょうか。
本カタログの編集は村上博哉氏(国立西洋美術館副館長兼学芸課長)で、企画構成も同氏です。また、執筆者の中には、ギャルリー・タイセイの林美佐さんも含まれています。なお、オザンファンについての執筆者はビエール・ゲネガン氏(Pierre Guénégan)です(以下でご紹介しているオザンファンについての文献の編者でもある)。日本人ではオザンファンについて執筆できる方がいないのかもしれません。
日本語で「ピュリスム」や「オザンファン」だけを取り扱った文献は皆無だった(と思います)ので、今回の展覧会カタログは極めて貴重です。(もちろん「ル・コルビュジエ」関係の文献の中で、オザンファンに言及しているものは、いくつもあると思いますが。)
しかし、展覧会カタログなので、公立図書館には所蔵されないことになりますので、その点はとても残念です。
また、第IV部が「ピュリスム以降のル・コルビュジエ」となっている点も残念でした。ル・コルビュジエに限定せず、オザンファンについても「ピュリスム以降」を展示してほしかったところです。
展示には含まれていませんので、「ピュリスム以降のオザンファン」については、今回の展覧会カタログには頼れず、他の文献に頼るしかないですね。
オザンファンの文献としては、展覧会カタログの主要参考文献のリストにあるもののうち、新しいもの3点(いずれもフランス語)が重要です。
Françoise Ducros, Ozenfant, Paris, Cercle d’Art, 2002, ISBN: .2702206131
Pierre and Margaret Guénégan, Amédée Ozenfant, Catalogue raisonné de l’oeuvre peint, St. Albans, Heartfordshire, Lanwell & Reeds, 2012, ISBN: 9782970049456
Pierre Guénégan, Amédée Ozenfant, Catalogue raisonné des oeuvres sur papier, St. Albans, Heartfordshire, Lanwell & Reeds, 2016, ISBN: .9782970049463
最初の文献も図版が多いですが、2点目、3点目はレゾネですから、見ているだけで楽しめます。ただ、当方はフランス語はわからないので、図版だけしかわからない、という問題があります。
なお、「20世紀の美術家500」(木下哲夫・訳/美術出版社/2000年)の355ページにオザンファンの「喫煙室:静物画」という作品が掲載されています。ただ、その制作年が「1923年頃」と記載されていますが、実際には、戦後のはずです。
http://www.artnet.com/artists/am%C3%A9d%C3%A9e-ozenfant/
http://www.artnet.com/artists/am%C3%A9d%C3%A9e-ozenfant/nature-morte-tabagie-a-zlQDJr6fgXEAV-BrajNKeQ2
のページによれば、「1960年頃」です。
ピュリスム以前の作品については、かなり傾向がばらばらなのは当然としても、ピュリスム以降のオザンファンの作品は、ピュリスムのままものもの、具象、抽象とかなり変転していて、統一性はありません。このあたりの紹介も、ぜひ日本語でお願いしたいところです。なお、1930年代には写真作品(必ずしも前衛的ではない)もあります。
国立西洋美術館は、基本的に、20世紀初めまで(ピカソ、マティスあたりまで)が対象だと思っていましたので、ピュリスムの企画というのは、ル・コルビュジエ関係ということで例外だ(本来なら竹橋で企画されるはず)と思っていましたが、常設の方には20世紀の作品も展示されていましたので、少なくとも20世紀前半であれば竹橋(東京国立近代美術館)と厳格な境界線があるわけでもないようですね。
最後に、以下のとおりPurismを希望する投稿も過去にあって、これは2000年末の投稿ですから、18年越しの企画実現ですね。
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56 |
Purism |
Akihoshi_Yokoran |
2000/12/28 13:08 |
次の本が、つい最近刊行されました。
日本の近代美術とドイツ ─『スバル』『白樺』『月映』をめぐって
野村 優子
九州大学出版会
2019/2/28
4320円
266ページ
どうも、今年は、20世紀前半に関連する文献刊行がラッシュという感じで、素晴らしいことです。
目次は以下のとおり。
▼目 次
序 章
第一節 高村光太郎「緑色の太陽」を出発点として
(一) 高村光太郎と外国語
(二) 先行研究
(三) 研究の射程
第二節 近代日本とドイツ
(一) お雇い外国人
(二) 文部省留学生
(三) ドイツ諸都市の芸術活動
第三節 ドイツ留学
(一) 原田直次郎──一八八四年二月より一八八六年一一月まで
(二) 巌谷小波──一九〇〇年一一月より一九〇二年九月まで
(三) 山田耕筰──一九一〇年三月より一九一三年一二月まで
(四) 澤木四方吉──一九一二年九月より一九一四年八月まで
第一章 『スバル』──日本近代美術批評の誕生──
第一節 「緑色の太陽」
(一) 高村光太郎とフォーヴィスム
(二) 「HENRI-MATISSEの画論」
第二節 明治末期の美術界と文学界
(一) 「緑色の太陽」の読者
(二)『スバル』と森鷗外の「椋鳥通信」
(三) 明治末期の美術界と文学界
第三節 日本近代美術批評の誕生
(一) 日本近代美術批評に関する先行研究
(二) 明治末期の美術批評
(三) 木下杢太郎と独逸語系の拠点『スバル』
(四) 美術批評とその担い手
(五) 文学者による美術批評
(六) 日本近代美術批評の誕生
第二章 ドイツ人美術批評家──マイアー=グレーフェの『近代芸術発展史』──
第一節 ドイツ人美術批評家への憧れ
(一) リヒャルト・ムーター受容
(二) ユーリウス・マイアー=グレーフェ受容
第二節 マイアー=グレーフェの『近代芸術発展史』
(一) 執筆の背景
(二) 序文に記された芸術観
(三) 新しいドイツ美術のための提言
第三節 「美術著述家」Kunstschriftsteller
第三章 『白樺』──マイアー=グレーフェの「ゴッホ論」と武者小路実篤のゴッホ受容──
第一節 『白樺』のドイツ近代美術受容
(一) マックス・クリンガー崇拝
(二) ルートヴィヒ・フォン・ホフマンと第三王国
(三) ハインリヒ・フォーゲラーとドイツ近代美術受容の幕引き
第二節 『白樺』のゴッホ受容
(一) 日本のゴッホ受容におけるマイアー=グレーフェ
(二)『白樺』のゴッホ受容
第三節 マイアー=グレーフェの「ゴッホ論」
(一) ゴッホ神話の誕生
(二) 「人間」ゴッホ
(三) 「芸術家」ゴッホ
第四節 武者小路実篤のゴッホ論
(一) 「ゴオホの二面」
(二) トルストイ主義から個人主義へ
(三) マイアー=グレーフェの「ゴッホ論」を超えて
第四章 『月映』──近代日本の前衛美術受容と恩地孝四郎──
第一節 一九一〇年代美術雑誌に見るドイツ美術受容
(一) 近代日本におけるフランス美術
(二) ドイツ美術雑誌と日本
第二節 近代日本の前衛美術受容
(一) フリッツ・ルンプフ
(二) 木下杢太郎のカンディンスキー受容
(三) フュウザン会による前衛美術批判
第三節 恩地孝四郎の抽象木版画とカンディンスキー
(一) 恩地作品の抽象化に関する先行研究
(二) 創作版画運動
(三)『月映』と竹久夢二
(四) フュウザン会による木版画批判
(五) 「デア・シュトゥルム木版画展覧会」
(六) 「抒情」シリーズの誕生
(七)《抒情『あかるい時』》
(八) 恩地孝四郎の抽象木版画とカンディンスキー
終 章
第一節 「生の芸術」論争と「絵画の約束」論争
(一) 「生の芸術」論争
(二) 「絵画の約束」論争
(三) 「新旧」「芸術法則」もしくは「美術著述家」をめぐる論争
第二節 「美術著述家」およびドイツ美術受容者の再評価
第三節 一九一〇年代ドイツ美術受容の終焉
参考文献
あとがき
資料『近代芸術発展史』目次
人名索引
事項索引
「ドイツ表現主義」や「青騎士」という日本の訳語の由来とかわからないかな、と思いましたが、ちょっと無理そうですかね。
次の本が刊行されているようです。
超現実主義の1937年――福沢一郎『シュールレアリズム』を読みなおす
伊藤 佳之 (著), 大谷 省吾 (著), 小林 宏道 (著), 春原 史寛 (著), 谷口 英理 (著), 弘中 智子 (著)
みすず書房
(2019/2/22)
¥ 7,344
単行本: 432ページ
執筆者の所属は以下のとおりです。
【執筆者】
伊藤 佳之 (福沢一郎記念館)
大谷 省吾 (東京国立近代美術館)
小林 宏道 (多摩美術大学美術館)
春原 史寛 (武蔵野美術大学)
谷口 英理 (国立新美術館)
弘中 智子 (板橋区立美術館)
さらに、目次は以下のとおり。
目次
はじめに 伊藤佳之
研究会の概要と原著の構成 伊藤佳之
第1部 原著編 福沢一郎『シュールレアリズム』
序
I 超現実主義の意義及びその史的展開
II 超現実主義と絵画
III 超現実主義の先駆
IV 超現実主義とレアリズム
V 超現実主義と抽象芸術
VI ヒユマニズムへの一瞥
VII 描かれた人間
VIII 超現実主義と日本的なもの
IX 日本における超現実主義運動
X 超現実主義の将来
第2部 論文・資料編
第1章 原著読解
I あまりに率直な思想史概観 伊藤佳之
II ソビー、レヴィ、福沢の「選択の個性」 弘中智子
III NY発、最新の展覧会から歴史を紐解く 春原史寛
IV レアリズムへの対峙及び思想的拡張 小林宏道
V 『キュビスムと抽象芸術』からの選択と再配置 谷口英理
VI 「新ロマン主義」はなぜ「変換」されたか 伊藤佳之
VII 危機の時代をあらわすならば 伊藤佳之
VIII 日本文化との対比と考察――俳諧、禅など 小林宏道
IX シュルレアリスム絵画の見取図と展望 大谷省吾
X ダリ、ブルトンから次世代の画家たちへ 弘中智子
第2章 原著の図版について 伊藤佳之
第3章 編集会議から……原著と「1937年」の意味
1937年の福沢一郎――社会・美術・展覧会 伊藤佳之
再現と非再現、および写真的なイメージをめぐって 谷口英理
福沢一郎『シュールレアリズム』と瀧口修造『近代藝術』 大谷省吾
1937年・福沢一郎を取り巻く思想と世界情勢 小林宏道
『シュールレアリズム』以後――次世代の芸術家たち 弘中智子
資料編
関連年表 伊藤佳之[編]
参考文献 弘中智子[編]
あとがき 大谷省吾
事項索引
人名索引
図版一覧
福沢一郎 略年譜
東京国立近代美術館で3月12日(火)開始予定の「福沢一郎展 このどうしようもない世界を笑いとばせ」(No.1721で紹介)の関連書籍なのでしょう。
早く実物を見てみたいものです。
なお、執筆者の一人、谷口英理さん (国立新美術館)は、「『光画』と新興写真: モダニズムの日本」でも執筆している人です。
あとがき
初出一覧
注
図版一覧
事項索引
人名索引
仏文要旨
仏文目次
(以上で目次おわり)
作者は、神戸大学の専任講師のかたのようですが、「新進気鋭の研究者」というのは、次々と出てくるものですね。本書も期待していますが、今後にも期待大です。