少し前ですが、次の本が刊行されています。
写真が語るアイヌの近代
「見せる」「見られる」のはざま
大坂 拓/著
新泉社
四六判208頁
2300円+税
ISBN 978-4-7877-2409-0
2025.03.25発行
https://www.shinsensha.com/books/7069/
タイトルそのものを言っているだけですが、「写真」を題材にアイヌの近代を探るという本で、手法自体はそれ程特別なことではないと思うのですが、その割に、このような本はかなり珍しいと感じます。
写真図版も多く、アイヌにまつわる差別や偏見といった伝統的な問題にも、写真という入口から、鋭く切り込んでいっています。例えば、写真を使うことで、アイヌの実態や真実を「記録」するのではなく、「演出」や「選別」により、為政者や研究者や商売のネタとする者たちが、自分たちにとって「見たい」「見せたい」アイヌを作り上げるといった手法の紹介です。
その意味で、非常に関心を持てるのですが、「美術」的な観点からすると、「撮影した者」よりも、「撮影された者・物」に重点が置かれているので、当然のことかもしれませんが、「誰が撮影したのか」という観点が弱いのが残念です(たとえば、各写真図版に「撮影者」というキャプションはありません)。しかし、その視点が存在しないわけではありません。Arnold Genthe(1869-1942)の名前が登場したりして(82ページ)、ぎょっとしたりもしました。もっと深く読んでみないといけません。
最後に目次を掲載します。
目次
プロローグ 写された側の歴史へ
「アイヌ風俗写真」の誕生
再生産され続けるアイヌのイメージと課題
「アイヌ風俗写真」を歴史につなぎ直す
第1章 最古級の写真群――一九世紀後半
最古級の写真
撮影地を絞りこむ
切り取られた風景
最古級の写真群に写るアイヌが生きた時代
日本国民への統合
奪われた先祖伝来の土地
第2章 写されなかった村――「異民族性」による選別と終わりない人種差別
資料の空白
天皇奉迎への参加の「説諭」
動員の対象とならなかった人びと
森村の特殊性
森村の人びとのその後
第3章 切り取られ、再現された「固有の風俗」――一九〇〇年代
ピリカ会発行『アイヌ風俗写真ヱハカキ』
ピリカ会と弁開凧次郎
「固有の風俗」の再現と選別
ゆらぐ「固有の風俗」とその後
第4章 「見せる」と「見られる」のはざま――一九一〇年代の三度の熊送り
熊狩りと熊送り
「陋習」とみなされた熊送り
形式化した熊送りと興行
一九一二年の「熊祭観覧会」
一九一八年の二回の熊送り興行
写されなくなった集落のくらし
和人のまなざし
「保護民」という認識
文化を「見せること」と「見られること」
第5章 押し寄せる旅行者と観光地化をめぐる葛藤――一九二〇~四〇年代
長万部につくられた展示施設「ヱカシケンル」
「アイヌ部落」を目指す和人旅行者と観光業の萌芽
アイヌ社会に生じた亀裂
展示施設の建設をめぐるさまざまな思惑
「ヱカシケンル」の建設
たび重なる施設の損壊とその後
戦時下の「アイヌ見物」
エピローグ 終わることのない「アイヌ史」
「滅び」を宣告される中を生きる
伝統文化の断絶
日本人として、アイヌとして
再び、アイヌとして
「民族共生」の実像
「民族共生の社会」の実現のために
注
噴火湾沿岸におけるアイヌ近代史年表
あとがき
次の本が最近刊行されています。
別冊太陽 植田正治
写真するボク
別冊太陽編集部 編
出版年月 2025/06
ISBN 9784582923254
雑誌コード 6620268
判型・ページ数 A4変 152ページ
2860円(2600+260)
https://www.heibonsha.co.jp/book/b662213.html
植田正治は戦前から長い活動歴がありますが、むしろ戦後の活動のほうの比重が大きいので、このスレでは従来は必ずしも積極的にはご紹介してきませんでした。
また、すでに相当に有名なので、わざわざこの場でご紹介するまでもないと思ったこともあります。
今回の「別冊太陽」では、戦後の活動に偏ることなく、生涯をまんべんなく取り上げている点に感心しました。
なお、平凡社のサイトでは、目次を、写真図版ではなく、テキストで掲載していただきたかったところです。テキストにしていないからでしょう、主要な書籍の通販サイトでも目次情報がないままになっています。テキスト掲載のために手間がかかるはずはなく、刊行のためのテキストデータの目次のページをそのままコピーすればいいだけのはずです。
とりあえず自分で入力した目次を掲載します。「ぱっと見」、蔦谷さんと飯沢さんの文章を読んでみたいところです。
目次
Prologue: Shoji Ueda Self Portrait & Collection of Works
植田正治さんの家とオブジェ Atelier & Objects
愛用していたモノたち Favorite Item
愛しのカメラ遍歴 Beloved Cameras
晩年に描いた絵 Late Years Painting
植田正治の写真と人生 ――吹き抜ける風のように
評伝・金丸裕子 作品解説・北瀬和世
1章 山陰の港町に生まれた少年、写真に熱中する
2章 実家で写真館を開業し、数々のコンテストで頭角を現す
3章 敗戦後の再出発、「銀龍社」に参加
4章 山陰の風土に本格的に取り組み、初の写真集を出版
5章 海外への撮影旅行と、国際的評価の高まり
6章 ファッション写真に新境地を開き、写真家人生を楽しむ
芸術写真とモダニスム ――砂丘群像演出写真のの誕生 蔦谷典子
Column
新婚写真のアルバム The First Story
銀龍社 Activities in Ginryusha
綴方 私の家族 Camera Salon My Family 植田カコ
風船ガム Bubblegum 増谷和子
ふたりのアルバム Shoji & Norie
Essay
写真展『松江』に導かれて 佐野史郎
植田正治のリアリズム 池本喜巳
小さな声で 私の道はアマチュアの道 植田正治
山陰の風景 撮影地をめぐる 北瀬和世
Shoji Ueda Photo Books Select 10
植田正治 ――写真集の世界 飯沢耕太郎
展覧会30 Exhibition 30
植田正治写真美術館 Shoji Ueda Museum of Photography
植田正治の本 Guide to Shoji Ueda's Books
植田正治 略年譜
(以上で、「目次」は終了)
ご関心のあるかたは、ぜひ書店や公立図書館で手にとってご覧ください。
雑誌「新建築」が創刊100周年ということで(1925年創刊)、2025年8月号・9月号(それぞれ、当月のはじめ、または前月末に刊行予定)を特別号とし、「建築100年」という特集を2号連続で掲載するということです。
監修者は次の4名の方だそうです。
・加藤耕一(東京大学教授)
・坂牛卓(東京理科大学嘱託教授)
・権藤智之(東京大学准教授)
・長谷川香(東京藝術大学准教授)
1920年代初頭に成立した「インターナショナル・スタイル」も、もう100年を迎えることになるのですね。
「新建築」本誌の広告で発見しましたが、新建築社のページ(ニュースなど)では、その情報を発見できませんでした。
早急な情報提供が望まれます。
なお、次のインスタグラムには、その広告の写真が掲載されています。
https://www.instagram.com/p/DJa4RBTMFUD/
昔を振り返ると、1991年の特集「建築20世紀」などは「増刊」という形式でしたが、
https://japan-architect.co.jp/shop/special-issues/book-119101/
今回は、「本誌」での特集です。
「増刊」ではなく「本誌」の通常の号の中での特集を組むということは、バブル期の1990年代などとは時代が違う、ということなのかもしれません。「本誌」のほうも、その当時とは異なり、かなり広告が減って、1冊当たりの厚さも薄くなりました。現在の状態が「あるべき姿」なのかもしれません。
いずれにしても、実物を早く見たいものです。
ヒルマ・アフ・クリント展の展覧会カタログが公立図書館に所蔵された1つの例を見てみました。
すると、No.2172でおそれていたことが実際に発生していました。すなわち、展覧会カタログの「カバー」が本体と一緒に「ビニール貼り」されていました。その結果、カバー裏に掲載されている<「神殿のための絵画」一覧>が見られなくなっていました。
(そんなところに掲載されていることすら知らない人々にとっては、「見られない」ということがそもそもわからないでしょう。)
これは、仕方ないのでしょうか?
カタログ制作に際して、<「神殿のための絵画」一覧>を本文に(も)掲載しておけば、簡単に防止できたはずですが、残念です。
江戸時代の名残りのある明治初期の錦絵から始まり、小林清親、川瀬巴水(新版画)を経由して、横尾忠則のポスターまで。
この分野の整理はなされているのでしょうか?
一大企画を希望いたします。
ぜひ、お願いいたします。