芸術新潮でデ・キリコの特集が組まれています。
芸術新潮2024年5月号
謎解きデ・キリコ
こういう企画が予想外に増えてきて、もう細かいことは言わず、楽しめばいいんだ、と思うようになってきました。皆さんも、食傷気味にならなければいいのですが。
ですから、この特集については次の1点だけ。
p46~p47に「セルフコピー問題、またはデ・キリコによるデ・キリコ」という記事があり、「不安を与えるミューズたち」が6点も掲載されています。そうそう、こういうことをしていただきたかったのです。
そして、「不安を与えるミューズたち」でできたのですから、「ヘクトールとアンドロマケ」でも、同じように図版を比較するページを作成していただきたかったのですが、今後、どこか別のところに期待しましょう。こちらは、より点数が多そうなので、なかなか大変でしょう。
次の本(ムック)が刊行されています。
別冊太陽スペシャル
日本のグラフィックデザイン一五〇年 - ポスターとその時代
平凡社
2024/03発売
価格 ¥2,420(本体¥2,200)
実は、割とありふれたテーマではあるのですが、戦後の部分があまりに足りないのに対して、戦前の部分がそれなりに充実していて、しかも、「構成・選・文」が田島奈津子さんということで、特に注目したいと思います。
戦前は、あと、今竹七郎(「関西の図案家」に挙がっている4人のうちの1人ではありますが)と里見宗次あたりを独立してページを作成いただけたらよかったのに、というところです。
以下、目次を掲載します。
目次
006 関東企画 評伝・石岡瑛子:文=青野尚子
022 1 ポスターの誕生:構成・選・文=田島奈津子
図案家と意匠
1 杉浦非水 030
2 橋口五葉 034
3 竹久夢二 040
4 多田北烏 044
コラム
印刷会社とポスター 038
海外のデザイン雑誌 048
050 2 プロパガンダ・ポスターの時代:構成・選・文=田島奈津子
大衆文化とデザイン
1 柳瀬正夢 060
2 山名文夫 064
3 関西の図案家(川村運平、今竹七郎、竹岡稜一、菅井汲) 068
コラム
スローガンとポスター 070
フォトモンタージュの実践 072
グラフィックの総動員 074
076 グラフ雑誌がつなぐ戦前と戦後:構成・選・文=田島奈津子
グラフィックデザインの開拓者:選・文=臼田捷治
1 原拡 080
2 河野鷹思 084
3 亀倉雄策 088
〈インタビュー〉グラフィックの現場
宇野亞喜良:文=金丸裕子 092
098 3 戦後の再始動と金字塔 東京オリンピックのポスター:選・文=臼田捷治
戦後デザインの表現と展開
1 永井一正 104
2 田中一光 108
3 横尾忠則 112
〈インタビュー〉グラフィックの現場
十文字美信:文=和田京子 116
124 4 表現の新次元 ブランディングの時代:選・文=臼田捷治
アートディレクターの仕事
1 浅葉克己×西武百貨店 128
2 松永真×山陽スコット 130
3 河北秀也×いいちこ 132
4 サイトウマコト はせがわ×アルファキュービック 134
5 奥村靫正×小原流 136
138 アートとデザイン 国立美術館 東京国際版画ビエンナーレ ポスターコレクション:文=高島直之
それにしても、目次くらい、ネット上のどこかに掲載していただけないのものでしょうか?
平凡社による紹介のページには、「画像ファイル」として目次が掲載されているのですが、それに加えて、コピーペースト可能な「テキスト」で掲載していただきたかった。それくらい簡単にすぐできるはずですから、どうかお願いします。
https://www.heibonsha.co.jp/book/b640271.html
最後に、この本は、(先この場でご紹介したと思っていたものの実際にはご紹介していなかった(!!))「別冊太陽スペシャル 日本のブックデザインの一五〇年 ― 装丁とその時代」(2023/06)の続篇という位置づけの本でしょうか。
すでに、昨日4月27日(土)に東京都美術館で開始している「デ・キリコ展」ですが、これに関連して、次の本が刊行されています。
芸術AERA―見れば見るほど深みにハマる快感デ・キリコ大特集
朝日新聞出版・編
朝日新聞出版
2024/04発売
価格 ¥1,848(本体¥1,680)
まさに始まったばかりの「デ・キリコ展」に合わせた特集ムックです。同展の主催の1つに「朝日新聞社」が入っていますので、相乗効果を狙っているのでしょう。
こういう展覧会企画にあやかったような本はどうも苦手、とも思うのですが、他でもないデ・キリコですので、今回はあえて、詳しく見てみました。
さすがに、それほど深い内容ではありませんが、図版も多く、「来日しないデ・キリコ ギャラリー」というページを設け1910年代の作品9点を紹介している点など、注目できる部分はありました。
ところで、このムックで、特に気になった点は、以下の2点です。
まず、このムックには、前述のデ・キリコの1910年代の作品に限らず、出展されない作品の図版や、デ・キリコ以外の作家の作品図版も掲載されています。そして、出品されない作品図版の下には、必ず「本展には、出品されません」としつこく注記が書かれています。あまりにしつこいなと思いましたが、これほど徹底しないと、勘違いする読者がいる、さらには、過去に編集部に対してクレーム(出品されると思って展覧会に行ってみたら、出品されていなかった、どうしてくれるんだ、といった)があったのかもしれません。何か、ぎすぎすしたものを感じます
次に、前出の「来日しないデ・キリコ ギャラリー」の作品9点ですが、このうち3点は、横長の作品で、おそらく、図版をなるべく大きく掲載したいという事情だったのではないかと思いますが、横向き、すなわち、本を90度回転させないと正しい向きにならないという配置になっています。
こういう場合、通常の美術書であれば、どうしていたでしょうか? おそらく「折り込み」という手法を使って、本を90度回転するということを防いでいたのかと思います。ムックに「折り込み」を期待するのは難しいのかもしれません。
「2点」と書いた癖にもう1つだけ、個人的な好みによるコメントですが、デ。キリコには、「ヘクトールとアンドロマケ(の別れ)」という有名な作品・モチーフがあって、生涯を通じて、20~30点は描いているのではないでしょうか? そういう意味では、このムックでも、もっと大きく取り上げるべきだったのかと思います。特に、1910年代の「ヘクトールとアンドロマケ」も掲載していただきたかった。
ところで、「芸術AERA」と銘打った出版は今回が初めてのようですが、「AERA」では、過去にも芸術(展覧会)関係のムックが出版されています。
まず、「AERA Art Collection」というムックが刊行されています。次の2冊を発見しました。
「マティス 自由なフォルム」完全ガイドブック AERA Art Collection
朝日新聞出版・編
朝日新聞出版
2024/02発売
価格 ¥1,650(本体¥1,500)
「モネ連作の情景」完全ガイドブック AERA Art Collection
朝日新聞出版・編
朝日新聞出版
2023/10発売
価格 ¥1,650(本体¥1,500)
さらに、「AERA BOOK」というシリーズの中に、美術関係のムックもありました。次の2冊です。
「マティス展」完全ガイドブック AERA BOOK
朝日新聞出版・編
朝日新聞出版
2023/03発売
「レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才」完全ガイドブック AERA BOOK
朝日新聞出版・編
朝日新聞出版
2023/01発売
価格 ¥1,650(本体¥1,500)
これで網羅的とは言えませんが、いずれにしても、ここ最近の刊行のようですね。
また、刊行の時期から判断すると、
AERA BOOK→AERA Art Collection→芸術AERA
と進化しているのかもしれません。
今後は、海外作家だけではなく、日本人作家やグループ展についても、同様のムックの刊行を期待しています。
よろしくお願いします。
No,2111、No.2112において「美術館のサイトにおける過去の展覧会・出品作品の情報」を書きましたが、特に、その最後に、徳島県立近代美術館の出品作品リストについて、書きました。
その書きぶりは絶賛気味ですが、1つ大きな問題点があります。それは、図版が一切付されていないことです。図版がなく、作家名、タイトルやサイズだけでは、作品の特定が難しい場合があること、皆さんもよくご存じのとおりです。
「ちょっと、それは贅沢すぎるんじゃないか?」
とお考えでしょう。当方もそう思います。著作権の問題も大きく立ちはだかるでしょう。しかし、実現性が乏しいとか不可能だとか言うご批判は甘んじてお受けすることとして、とにかく、当方が希望することを書いてみたいと思います。
まず、少し遡りますが、No.2064において、「マグリット400」をご紹介いたしました。
ネット上に美術作品の画像があふれているにもかかわらず、あのような図版中心の書籍に対する需要が、なぜ未だにあるのだろうか、と考えると、ネット上に掲載されている美術作品画像の問題点が見えてくるのではないかと思います。
あの本の長所は、この1冊で、他に類を見ない相当数の図版、しかも代表作を網羅的に見ることができる、という点にあるのだと思います。
逆に言えば、ネット上の画像は、数が中途半端で、まとまりがない、ということだと思います。そして、どこに掲載されているのかもよくわかりません。ある作家、ある作品の画像が存在するのかどうかもわかりません。
すなわち、ある特定の画像数点(しかも有名な作品)を探すのであればともかく、作家ごとに網羅的に数がまとまっているようなネット上のページはほとんどない、と言わざるを得ないのです。
情けないことですが、これが現状です。
また、そのようなページがあったとしても、作家ごとに、ある特定の個人や機関が、そういうページを「仮に作成していれば」存在するということがほとんどで、作家ごとにいちいち探さねばならず、ページが存在すればそれだけで幸いなのかもしれませんが、当然ながら作家ごとに(ページの構成や形式がまちまちであることはまだいいとして)掲載されている作品数もばらばらで、ほとんどの場合、網羅的とは言えない、有名作品ですら(1つのページで、または、ネット全体でも)すべて見ることはできない、少なくともあちらで1点、こちらで1点と、1点ごとに探さねばならない。大変な労力がかかります。
結局、どうしても、書籍に頼らざるを得ないというのが現状です。
なんとかしてほしいところです。
以上から、ネット上の状態として望ましいのは、やはり、主要な作家ごとに、網羅的に、作品図版・画像の掲載・データベース化・アーカイブ化をしていただく、ということでしょう。いわば、ネット上のレゾネです。著作権の問題はあるにせよ、どうにかそれをクリアして、「網羅性」を確保していただきたいと思います。例えば、ルネ・マグリットならば、このページを見れば、ほぼすべての作品が見られる、デ・キリコならば、こちらのページを見ればよい。日本の作家についても同じで、画家ばかりでなく、写真家でも同様です。例えば、安井仲治の作品については、このデータベースを見れば、ほぼすべての作品を見ることができる。安井仲治の名前を出しましたので、もう少し書いてみますと、安井仲治のレゾネは存在しませんが、需要から考えて今後も刊行されることは難しいでしょう。日本の戦前の写真家でかろうじて「レゾネ」と呼べるようなものは、中山岩太くらいしかないでしょう。しかしネット上の画像データベースであれば、安井仲治でも制作は可能なはずです。そして、他の日本人写真家についても可能でしょう。
ネット上にそのような網羅的な画像を掲載していただけるとしたら、頼れるのは、美術館や大学などの研究機関でしょう。しかも、1つの美術館で、すべての作家について作品図版データベースを構築することことなど到底無理でしょうから、やはり、役割分担せねばなりません。例えば、ルネ・マグリットならばこの美術館、デ・キリコならばこの美術館、といった具合に1つの美術館が担当する。ポイントは、やはり「網羅性」です。自らの美術館に所蔵している作品であれば図版を含めてデータベース化している、というケースがたくさんあるでしょうが、それではダメなのです。そんなことで我慢をしていたら、ルネ・マグリットやデ・キリコならば、全世界の美術館を探し続けなければなりません、いったいどれだけ多くのサイトを探さなければならないでしょうか、どれだけ多くの時間がかかることでしょうか、当方が死ぬまでに探しつくせるとは思えません。そして、そのように、作家ごとに1つにまとめるためには、著作権上の特別な措置・取扱を認めていただくしかありません。または、各機関が集中的に1つの美術館・研究機関に図版のライセンスをするという方法もあるでしょう。どの美術館・研究機関がどの作家を担当するかでもめるかもしれません。確かに、パブロ・ピカソなど、どこが担当するのかもめそうです。しかし、そこは、国際的な協調により、「1つに絞る」という解決をぜひ目指していただきたい。また、有名な作家の場合、データベースを有料にするということもアイデアとしては出てきうるでしょうが、今後の研究・調査などのために、無償で使用できるようにしていただくことをぜひお願いしたい。
そして、作家ごとにそういう網羅的な作品図版データベース・アーカイブが一旦成立すれば、全世界からそのデータベースにリンクを貼ることができ、図版の参照が、格段に容易になります。自分のウエブサイトに図版を掲載する必要はなくなり、逆に、誰でも、あらゆる作品図版を見ることができ、リンクすることができるようになる。まさに、夢のような話です。
とはいえ、現時点で、どこかの美術館や研究機関が動いてくれることが期待できるとは思えません。残念です。
(つづき)
以上のように、調べるのに手間と時間がかなりかかってしまいました。どれだけ時間がかかったことか。正直疲れ切ったといってもいいでしょう。
まず、少なくとも、東京国立近代美術館アートライブラリ、国立新美術館の「日本の美術展覧会記録1945-2005」と「アートライブラリー」、そして「美術図書館横断検索」(ALC Search)、さらに、国立国会図書館(NDL Search)という数多くのデータベースを検索しました。
さらに、各美術館のサイトで過去の展覧会(美術展企画)の情報がないかも検索しました。
また、展覧会カタログが2冊登場してきているわけですが、今わかっている範囲では、どうやら、1か所で2冊とも閲覧できるのは、国立新美術館アートライブラリと国立国会図書館だけのようです。この2館であれば、より使いやすい前者を選ぶでしょう。へたをすれば、この2冊を閲覧するために、2か所に行かねばならないという結論だった可能性もあります。
以上から申し上げたいことは、以前も同じようなことを書いていますが、以下のとおりです。
・1つのデータベースですべての展覧会・図書館・美術館の情報が検索できるように
・わざわざ特定の限られた図書館・図書室・アートライブラリなどに直接足を運ばなくても、全国どこでもあらゆる資料が閲覧できるようなデータベースの作成
どうか、よろしくお願いいたします。
ただ、今回の経験の中で、非常な救いとなったのは、徳島県立近代美術館です。詳細な出品作品リスト、よくある、単純に、展覧会会期中に配布した「出品作品リスト」をPDF化して掲載、というものではないので、作成には非常に手間がかかったのではないかと思います。作品ごとにリンクも付されているのもすごいことです。開館の1990年から継続していますから、今後、ますます情報量が増えて、貴重なデータベースとなっていくことでしょう。惜しむらくは、その存在が「ほとんど知られていない」ということではないでしょうか? もっと、宣伝して、皆さんに活用していただけるようになればいいなと思うとともに、恥ずかしながら当方も今回初めて知って驚きました。他の美術館でも作成したほうがいいと思っていただけるようになり、実際には、各美術館でこのようなリストができ、それらのリストがすべて連携されて、一括で検索されるようになればいい、というのが当方の希望です。
余りにも困難ではないかとは思いますが、こちらもよろしくお願いいたします。