先にご紹介した、マレーヴィチ、グリス、タンギーについて、日本における作品集の刊行を考えてみます。
マレーヴィチは、日本語の作品集が複数あるので(すべて翻訳とはいえ)、とりあえずいいでしょう。
しかし、グリスとタンギーについては、翻訳でも日本語独自のものでもいいので、ぜひ日本における作品集の刊行をお願いしたいものです。
分厚い作品集までは必要ありません。
例えば、東京美術の「もっと知りたい」シリーズ(アート・ビギナーズ・コレクション。80ページ程度)程度の量でいいのです。
グリスは、松井裕美さんに
タンギーは、長尾天さんに
それぞれお願いすればいいでしょう。お二方とも、このシリーズでの刊行の実績もあります。
現状では、どうしても作品集が欲しいのであれば、洋書で10000円、20000円、さらにそれ以上といった高額な本を購入しなくてはならないでしょう。このような状況を避けるために、この「もっと知りたい」シリーズのような安価で(だいたい2420円)、しかし図版も多くて質も高く、楽しめる本の刊行を、まずは検討していただきたいと思います。
そのような入手しやすい書籍を刊行していただくことが重要です。和書であれば公立図書館での所蔵も可能ですし、実際に公立図書館でも多く所蔵されているシリーズです。公立図書館でこのシリーズをご覧になった方も多くおられることでしょう。
これら2冊が刊行されれば、購入も容易になり、公立図書館から借りることもおそらく可能になるでしょう。
ぜひともよろしくお願いします。
先に「今後も開催される可能性が低い企画」として名前を挙げたマレ-ヴィチ、グリス、タンギーの3作家について、日本語の文献が刊行されているか、少し見てみたいと思います。
マレーヴィチは、翻訳を含めて、作品集がいくつかあります。
気づいただけでも、次の3冊があります。特に、2冊目のものは非常に大部で重いです(278ページ/33㎝のようです)。なお、3冊とも「翻訳」であることにも注意が必要です。要するに、日本では、オリジナルのマーヴィチの作品集を制作することが難しい(需要がない)のであろう、ということです。
マレーヴィチ画集
マレーヴィチ∥[画](マレーヴィチ,カジミール・セヴェリノヴィチ)
ジャン=クロード・マルカデ∥著(マルカデ,ジャン・クロード)
五十殿利治∥訳(オムカ,トシハル)
リブロポート
1994.7
マレーヴィチ 現代美術の巨匠
セルジュ・フォーシュロー∥著佐和/瑛子∥訳
美術出版社
1995/01
カジミール・マレーヴィチ ニューベーシック・アート・シリーズ
ジル・ネレ∥著〔Toshio Miyamoto∥訳〕
タッシェン・ジャパン
2009/11
次に、タンギーについて、日本では作品集は刊行されていないですが、次の2冊の本があります。なお、長尾天さんは、デ・キリコについての著作もあります。
語るタンギー
タンギー [著], 長尾天 編訳
水声社
2016.1
イヴ・タンギー : アーチの増殖
長尾天 著
水声社
2014.12
いや、古い本ですが、次の作品集を発見しました。ただ、公立図書館で簡単に発見できるだろうか?
イヴ・タンギー(シュルレアリスムと画家叢書「骰子の7の目」 / ジャン・ソセ編 ; 第9巻)
ダニエル・マルシュソー著 ; 飯島耕一訳
河出書房新社 ,
1978.6. -
最後に、グリスについては、日本語では作品集も評論もありません。と書いていたら、古くて、薄そうな本ですが、次のものを発見しました。ただ、この本も目にすることは難しいのではないかと懸念します。
フアン・グリス / 東野芳明解説
(ファブリ世界名画集 ; 97)
平凡社
1973
さて、余談ですが、上でマレーヴィチの作品集としてご紹介した本のうち美術出版社で翻訳している本ですが、「現代美術の巨匠」というシリーズの1冊です。このシリーズは、20世紀前半の作家のコンパクトな作品集をシリーズとして10冊以上まとめているもので、大変有用です。海外でも各国語版があるようで、Poligrapha、Rizzoli、Abbevilleなどで刊行されているようです。日本語版もかなり冊数がありますが、以前どのような作家が含まれているかまとめてご紹介したような記憶があるのですが、ちょっと探してみましょう。
さて、その海外の版の中に、グリスの作品集もあったと思うのですが、日本語には翻訳されていません。美術出版社が刊行するときに、漏れてしまったのでしょう。グリスの日本における知名度のなさを物語っているように感じます。(ただ、今回探しても、本当に海外で刊行されているのかは確認できませんでした。)
また、タンギーについては、当方が美術に深入りしていった1990年頃に、Prestelからでしょうか、カラー図版の多い大部の作品集が刊行されていたのを書店で見て(池袋のアール・ヴィヴァンか?)、欲しいと思ったのですが、経済的な余裕がなく購入するには至りませんでした。今回探してみましたが、該当するような書籍は発見できませんでした。1980年代に刊行された本でしょうか?
最後に、このような有名な3作家であれば、欧米では展覧会が開催されていますし、その際の展覧会カタログもいろいろと刊行されています。そのような洋美術書が、もしも東京に行くことが可能であれば、東京国立近代美術館のアートライブラリや国立新美術館のアートライブラリーで閲覧やコピーをすることができます。可能なかたはぜひお試しください。
最後に、上記のとおり、昔に見た記憶のある、グリスとタンギーの本を発見できませんでした。試行錯誤して探したのですがダメでした。何か、こういう作家ごとの情報が、ワンストップで簡単に手に入る、そういう便利なサービスはないでしょうか? 不便で仕方がありません。そういったことはAIに期待したらいいんでしょうか? でも、そのような個別の書籍に関する情報がネット上に存在しなければ、AIに情報を整理してもらうこと(そのうえで回答してもらうこと)は無理でしょうね。
今年は、
・キュビスム展
・デ・キリコ展
という、一般的にも話題となった20世紀前半を対象とする企画が開催されましたが、ここで、基本に立ち返って、現時点で「開催してほしい展覧会」(20世紀前半)としてどのようなものがあるか、西洋の絵画(しかも、どちらかというと個人)を中心とした範囲に絞って、挙げてみたいと思います。特に、写真展は排除しています。
まず、過去にも開催実績があり、最近は開催されておらず、しかし今後は開催される可能性がある、次の2つを上げたいと思います。
・エルンスト展
・モンドリアン展
次に、今後も開催される可能性が低い企画を挙げてみたいと思います。
・マレーヴィチ展
・グリス展
・タンギー展
・ヴォーティシズム展
・アメリカの抽象絵画展(20世紀前半)
・アプストラクション=クレアシオン(抽象=創造)展
・アーモリー・ショー展
以上は、このスレで、昔に挙げていた企画もあり、そうでないものもあると思いますが、すでにその区別は意味がないため、確認はしていません。
さて、そうは言ったものの、「昔に挙げていた企画もあり」というところは重要で、問題意識は次の点です。
『日本における鑑賞の対象である美術の裾野は広がったのか?』(20世紀前半の美術について)
おそらく、そのスレを開始した2000年と比べると、美術ファン、特に展覧会に足を運ぶ人の数は増えているのではないかと思います。その点については、いくつかの背景があると思います。例えば、
・美術館が新設または改装を通じて、より人々を惹きつけるような魅力の発信をしてきたこと。例えば、カフェ(またはレストラン)、ミュージアムショップ、図書室(アート・ライブラリ)などは、明らかに20世紀よりは増加し、一般化しています。
・展覧会企画についての発信がより積極的になったこと。例えば、企画ごとに独立したウエブサイトの作成、公的な場での大きな広告の掲示、展覧会に特化したオリジナルグッズの制作など。
・まんがやアニメなど、従来は「美術」の枠内に入りにくかったテーマ、しかし、一般的には人気のあるテーマを、以前よりも積極的に取り入れたこと。
などを挙げられると思います。
しかし、この「裾野」を、「展覧会企画で取りあげられる美術の分野・範囲」と考えると、あまり広がっていない、というのが、ここで申し上げたいことです。
個展で考えるとわかりやすいので、「今後も開催される可能性が低い企画」の冒頭に挙げた3企画を見てみると、
・マレーヴィチ展
・グリス展
・タンギー展
このスレの開始から、ほぼ四半世紀が経過しているにもかかわらず、開催の可能性は低いままで変わっていないというのが、当方の印象です。
そのような企画よりも、
・上述しました、まんが・アニメなどの新しい分野
・今までの企画の繰り返し(代表的な作家や代表的な分野。「〇年ぶり」と銘打っていても、要するに繰り返されている企画であることには違いありません)
というような企画が優先された、という点がその理由ではないでしょうか?
とはいえ、まだまだ諦めたくはないと考えています。
20世紀前半という時期を対象とした企画について、今後の裾野の広がりを期待します。
よろしくお願いいたします。
どうしても行くことができなかった展覧会企画を見たい、と思ったことのあるかたいませんか? 当方は、何度も思ったことがあります。
No.2019で「デジタル展覧会・バーチャル展覧会」を、No.2022で「デジタル展覧会カタログ」の提案をしたしましたが、その後日本で動きがあるようには思えません。
新型コロナもピークを越え、まだまだ油断はできないものの、リモートワークなどもどんどんとなくなり、「通勤ラッシュ」もまた起きているくらいですから、展覧会や展覧会カタログのデジタル化の動きなども、ブレーキがかかってしまっているとしても、やむを得ないかもしれません。
しかし、デジタル化は、なにも、「感染症対策」だけを理由としているのではありません。
冒頭に書いたような、「行くことができなかった(行くことができない)展覧会企画を見たい」という希望が叶うような手段を、世の中の状況にかかわらず、ぜひ実現していただきたいものです。しかも、できる限り早い時点で。
どうかよろしくお願いします。
前回は、突然、木下秀一郎関係の有名な写真図版を2件貼り付けましたが、「"木下秀一郎"」でネットの図版検索をしても1件ずつくらいしか発見できないので、あえてここでもあげてみました。
今後、どこかの時点で、検索によってこのブログがヒットするようになるでしょうか?