まだ展覧会は新潟市美術館で会期中。
他方、展覧会カタログはもうとっくに書店に並んでおりますが、このスレッドの観点からも、戦前の部分に見るべきものがあります。
ただ、やはり、物足りない。
瀧口修造に関する戦前の写真関係だけで(本書で言えば、第1章がカバーする範囲だけで)、この1冊くらいの量は必須です。
そういう展覧会企画、または書籍を強く希望します。
(瀧口修造の活動を考えれば、量・質ともそれ以上ではないかと思いますが、いきなりは、そのような企画・書籍は無理でしょう。)
今回の本の目次だけ以下に掲載しておきます。
目次
第1章 1930‐40年代 瀧口修造と阿部展也 前衛写真の台頭と衰退(はじまりのアジェ;阿部展也、美術作品を撮る;『フォトタイムス』における阿部展也の写真表現;「前衛写真協会」誕生とその時代、その周辺―「前衛写真座談会」をきっかけに)
第2章 1950‐70年代 大辻清司 前衛写真の復活と転調(大辻清司、阿部展也の演出を撮る;大辻清司の存在論のありか―「APN」前後の動向を手がかりとして;『文房四宝』―モノとスナップのはざまで;私(わたくし)の解体―「なんでもない写真」)
第3章 1960‐80年代 牛腸茂雄 前衛写真のゆくえ(桑沢デザイン研究所にて;日常を撮ること;『SELF AND OTHERS』(1977)
紙上に浮かび上がるかたち 牛腸茂雄と瀧口修造
『見慣れた街の中で』(1981))
先に、兵庫県立美術館で開催されるとご紹介した「安井仲治展」ですが、なんと、それに先んじて、愛知県美術館で開催されます。
生誕120年 安井仲治
[会期]2023年10月6日(金)~11月27日(月)
[会場]愛知県美術館(愛知芸術文化センター10階)
[主催等]
[主催]愛知県美術館、日本経済新聞社、テレビ愛知、共同通信社
[協力]銀遊堂、PGI、株式会社アフロ
[助成]公益財団法人ポーラ美術振興財団
https://www-art.aac.pref.aichi.jp/exhibition/000409.html
展示作品リストが早く公開されることを期待いたします。
しかし、名古屋市美術館(竹葉丈氏、笠木日南子氏)ではなく、愛知県美術館というのは、どういうことなのでしょうか? 担当の学芸員のお名前もわかりませんが、愛知県美術館でも写真ご担当の新しいかたが育っているということでしょう。今後の写真展企画にも期待いたします。
最後に、本展、関東にも巡回するのでしょうか? 何といっても安井仲治ですから、ぜひ巡回していただきた。関東以外もお願いしたい。来たから、北海道、東北、北陸、中国、四国、九州と全国「行脚」くらい、お願いしたいところです。
NHKのニュースで、東京上野の国立科学博物館が、新型コロナ感染拡大による入場者の減少、エネルギー価格高騰に伴う光熱費の上昇により、収蔵庫の光熱費の増加(「3億8000万円ほどと、2年前と比べて2億円近く増える見込み」ということは、要するに倍になったということですね)で、財政状態が急激に悪化し、これを補うための資金を集めるために、クラウドファンディングをしたという報道がなされていました。目標額に早々に達したので、とりあえずはよかったというところです。
国立科学博物館 クラファン初日に目標金額の1億円に達する
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230807/k10014155491000.html
ところで、話はここからです。
国立科学博物館は、実際に訪問なさったかたであれば、そういう印象をお持ちではないかと思いますが、とても混んでいます。新型コロナ前の話ではありますが、夏休みなどに行ったら、または、人気の企画だったら、1時間待ちなど普通にあります。当方が子供のころ、というと、ひとこえ40年以上になりますが、そんな前でもそうでした。あまりに混んでいるので、企画展は諦めて常設展にしたとか、国立科学博物館自体を諦めて替わりに近くの東京国立博物館に行ったとか、そういう経験をお持ちのかたも多くおられるのではないでしょうか?
確かに、新型コロナで入場者数は減少したのでしょうが、それでも、一般の美術館などに比べたら、入場者数が多いことは間違いないでしょう。入場料収入が全収入のうちのどれくらいの割合を占めるのかは明らかではありませんが、それでも、この差は大きいのではないかと思います。しかし、いずれにしてもあれだけ混んでいても資金的にはだめなのか、ということを感じます。
また、国立科学博物館の収蔵庫の規模が極端に大きく、その温度・湿度管理にかかる光熱費が非常に高額になることも間違いないでしょうが、十分とは言えないまでもそれに応じた程度の予算もあるでしょうし、他方、一般の美術館でも、収蔵庫の維持・管理には、それ相当のお金がかかり、光熱費の上昇により現在負担がかなり増えていることは間違いないのではないでしょうか?
そして、申し上げたいことは、次のようなことです。
国立科学博物館ですらこの状態であるということは、美術館、それも特に都道府県立・市町村立で入場者の少ないような(小規模の)美術館は大丈夫なのか、収蔵作品の管理が十分になされなかったり、極端な話、閉館するというようなことにはならないだろうか、という懸念です。
このあたりの実態についての情報はないように思いますので、ぜひそのような情報をどこかで発信・問題提起していただきたいと思うとともに、これに対して国や各自治体は十分な対応をお願いしたいところです。「美術館大量閉館時代」がやって来るのではないかという懸念もしております。
最後に、いろいろと書く気やこれ以上立ち入る気は全くありませんが(ある意味諦めておりますが)、国立科学博物館ともあろう組織が運営費用が足りなくてクラウドファンディングする、ということには極めて強い違和感があります。この事実は、日本の(政府にとっても、国民にとっても)恥ですね。そして、こんな事態になるまでほとんどの国民はそれを知らず、未だにそういう事態になった理由も問題点も責任も明らかにされておらず(マスコミがこれ以上追及するでしょうか?)、おそらくその事態をもたらした国のシステムの改善に国民が関わる手段もない(または、関わることが極めて困難である。せいぜいSNSなどで批判して、政府による改善を受け身で待つことしかできない)という状況、日本って、いったいどういう国なんでしょうか?
以下のとおり、デ・キリコ展が開催される予定です。
デ・キリコ展 不思議の世界へ、ようこそ。
Giorgio De Chirico: Metaphysical Journey
東京都美術館
2024.4.27-8.29
主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館、朝日新聞社
後援:イタリア大使館
特別協賛:大和証券グループ
協力:ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団、メタモルフォジ財団
上記サイトにもまだほとんど何の情報もありませんが、ニュースなどの情報も加えると
・10年ぶり
・展示総点数は不明
・初期から晩年までの作品(1918年の「形而上学的なミューズ」の図版がサイトにも掲載されているので、1910年代の形而上絵画も含まれると推測される)
・「イタリア広場」「形而上的室内」「マヌカン」などのテーマ別展示
特に、個人的には1910年代の作品に期待していますが、サブタイトル、英文タイトル、テーマ別で挙げられている「テーマ」を見ると、1910年代に限られるわけではないものの、形而上作品により重点を置いているように思います。
あとは巡回先の情報が、早く公表されてほしいですね。
なお、「10年ぶり」というのは、次に挙げる企画を意図しているのでしょう。このパナソニックは、行きましたね。
ジョルジョ・デ・キリコ展
2014年6月21日-8月22日:岩手県立美術館, 2014年8月30日-10月19日:浜松市美術館, 2014年10月25日-12月26日:パナソニック汐留ミュージアム
主催: 岩手県立美術館, 浜松市美術館, パナソニック汐留ミュージアム [ほか]
これ以前に、次の2つの企画にも行っていますが、いずれも、1910年代の作品はなかったか(前者にいたってはタイトルが1920年からとなっている)、ほとんどなかったように思います。
デ・キリコ展1920-1950
1993年6月5日-7月11日, 千葉県立美術館, 1993年7月16日-8月15日:東京都庭園美術館, 1993年8月28日-9月26日:ナビオ美術館, 1993年10月30日-12月5日:ふくやま美術館
主催: 美術館連絡協議会, 「デ・キリコ展1920-1950」実行委員会 [ほか]
デ・キリコ展
新宿・小田急グランドギャラリー ; 高松市美術館 ; 大丸ミュージアム・梅田 , 1989.10-1990.3
主催:読売新聞社[ほか]
ちなみに、次の展覧会は、開催されていたことに気づいていないか、あまり意識していなかったようで、当方は行っていません。
デ・キリコ展 : 終わりなき記憶の旅
2000年11月11日-2001年1月14日:Bunkamuraザ・ミュージアム, 2001年6月1日-6月24日:石川県立美術館, 2001年6圧30日-7月29日:大分市美術館, 2001年9月1日-10月2日:美術館「えき」KYOTO
主催: 東急百貨店、日本経済新聞[ほか]
今回の企画の開催期間は5月の連休も夏休みも含まれる長期間ですが、実は、リニューアル後は、東京都美術館には行ったことがないので、この機会に訪問してみてもいいかなと思っています。
個人的には、形而上絵画という意味で、デ・キリコに限らず、あわせて、カルロ・カッラ、アルベルト・サヴィニオ、フィリッポ・デ・ピシス、マリオ・シローニなどの作品も入れていただきたかったところです。というのも、これらの作家の「形而上作品」が紹介される展覧会は、今後もほとんど日本では開催されないだろうと思われるからです。これらの作家の個展は日本では勿論開催されないと思いますし、グループ展としての「形而上絵画展」という企画も日本ではほぼ未来永劫困難ではないかと思います。あとは、「イタリア美術の20世紀」的な企画(過去にもありました)でこれらの作家が含まれる可能性は今後もあるとは思いますが、そのような企画では「形而上絵画」という観点からは、あまりに「薄まって」しまい、魅力はなくなってしまうでしょう。なお、形而上絵画というと、あとジョルジョ・モランディがいますが、この作家は、日本でも個展が何回も開催されていますので、他に展示される機会があろうと思って、あえて入れませんでしたが、もちろん、日本で「形而上絵画展」が開催されることになって、その中にモランディの作品も入れていただけるのであれば、それに越したことはありませんし、むしろ含めるべきでしょう。
本企画の開催はまだまだ先ですので、今後の情報に期待します。
よろしくお願いいたします。
次の本が刊行予定です。
黒い直方体と交差するパッサージュ 大阪中之島美術館建築ドキュメント
遠藤勝彦
青幻舎
2023年8月
以前も何回かご紹介したことのある、大阪中之島美術館。
サブタイトルに「建築ドキュメント」とあり、作者も建築系統のかたのようですので、その特異な建築に焦点を当てた本なのでしょうが、その他の内容(例えば、コレクション蒐集についてなど)もあるのではないかと期待します。
まずは、この本の実物を見ることができないかを探ります。