国立西洋美術館の「キュビスム展」が2023年10月3日(火)に開始されました。
すると、前日までは掲載されていなかった「作品リスト」が初日に公式サイトに掲載されていました。ページ上部の「作品リスト」というタブです。
https://cubisme.exhn.jp/list.pdf
掲載されないよりはましですが(企画によってはサイトには作品リストが掲載されない場合も多く見受けられますので)、もう少し早く掲載していただけることが望ましいのではないかと思います。開催前のドタバタ状態を考えれば、贅沢な望みかもしれませんが。
なお、以前にも書いたことがありますが、今回のような独立した公式サイトは、会期終了後ほどなくして消滅してしまうので、消えることのない国立西洋美術館のサイトにも、作品リストが掲載されることを望みます。現時点では掲載されていません。重複するからでしょうね。
https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2023cubisme.html
さて、この作品リストを見ますと、作品点数112点+資料29点、となっていますので、さすがに大規模であることがわかります。期待できます。
特に気になるのは、マイナーに走ってしまいますが、以下の5人の作家たちでしょうか?
<11 東欧からきたパリの芸術家たち | Artists from the East in Paris>
No.84 レオポルド・シュルヴァージュ Léopold Survage カップのある静物 Still Life with Cup 1913年 1913 油彩 / カンヴァス Oil on canvas MNAM-CCI, AM 3624 P
No.85 レオポルド・シュルヴァージュ Léopold Survage エッティンゲン男爵夫人 The Baronnes of Oettingen [1917年] [1917] 油彩 / カンヴァス Oil on canvas MNAM-CCI, AM 4277 P (R)
No.86 セルジュ・フェラ Serge Férat 静物 Still Life 1914年 1914 油彩、紙のコラージュ / 楕円形の 厚紙 Oil and paper collage on oval cardboard MNAM-CCI, AM 3098 P
No.87 セルジュ・フェラ Serge Férat 静物:グラス、パイプ、ボトル Still Life: Glass, Pipe and Bottle [1914–1915年] [1914–1915] 油彩、砂 / 厚紙 Oil and sand on cardboard MNAM-CCI, AM 3401 P
No.88 エレーヌ・エッティンゲン Hélène d'Oettingen 無題 Untitled [1920年頃] [c. 1920] 油彩 / カンヴァス Oil on canvas MNAM-CCI, AM 2015–370
<13 キュビスムと第一次世界大戦 | Cubism during the Great War>
No.98 ジャンヌ・リジ = ルソー Jeanne Rij–Rousseau 1キロの砂糖のある静物 Still Life with Sugar Box 1915年頃 c. 1915 油彩 / カンヴァス Oil on canvas MNAM-CCI, AM 3288 BIS P
No.101 マリア・ブランシャール María Blanchard 輪を持つ子供 Child with a Hoop [1917年] [1917] 油彩 / カンヴァス Oil on canvas MNAM-CCI, AM 3096 P
今や、ネットでいくらでも検索できると思いますが、5人の生没年だけ記載しておきます。
Léopold Survage(1879-1968)
Serge Férat(1881-1958)
Hélène d'Oettingen(1887-1950)生年を1885年とする情報もある
Jeanne Rij–Rousseau(1870-1956)
María Blanchard(1881-1932)
女性が過半数を占める(後半の3人)ということは、今まで取り上げてこなかった女性作家を広く取り上げていこうという、世の中の流れなのかもしれません。
安井仲治展、徐々に情報が出てきているようです。
まずは、展覧会カタログが、通常の書籍の形式で発売されることがわかりました。一般の書店で購入できるので、展覧会カタログの入手だけならば、各開催美術館へ直接足を運んで購入したり、現金書留を代金を送って郵送してもらう、というような手間が省けます。
次の本です。
安井仲治作品集
安井仲治(共同通信社も編集にかかわっているようです)
河出書房新社
2023/10/16発売
価格 ¥3,740(本体¥3,400)
なお、前回2004年の展覧会の時の展覧会カタログは、共同通信社からの刊行でした。
何度も書いておりますが、一般の流通に乗りますと、公立図書館で所蔵してもらえる可能性が出てくるという大きなメリットがあります。「展覧会カタログ」という位置づけですと、その公立図書館が属する都道府県・市町村の美術館の展覧会カタログであれば格別(とはいえ、それでも所蔵していない場合も多いと思います)、通常は所蔵してもらえません。美術館の図書室か国立国会図書館のみしか頼れない、ということになってしまいます。
続いて、展覧会が東京ステーションギャラリーにも巡回することがわかりました。成相肇さんは、2021年に東京国立近代美術館に異動なさってしまったようなので(増田玲さんのご後任か?)、担当の学芸員はどなたなのでしょうか?
これにより、現在のところ、展覧会の全体スケジュールは以下のようになります。
生誕120年 安井仲治 僕の大切な写真
愛知県美術館:2023年10月6日(金)~11月27日(月)
兵庫県立美術館:2023年12月16日(土)~2024年2月12日(月・振休)
東京ステーションギャラリー: 2024年2月23日(金・祝)〜2024年4月14日(日)
ちなみに、東京ステーションギャラリーのウエブサイトには、「今後の展覧会」を調べてみても、安井仲治展について、内容はもちろん、開催されるということすら掲載されていないんですよね。情報不足も甚だしいところです。
それから、上記のとおり、中京、関西、関東と巡回していますが、安井仲治という巨人の企画ですから、その他の地域、例えば九州、例えば中国・四国、例えば北陸、例えば東北、例えば北海道、例えば海外など、さらに巡回するということはないでしょうか? 期待はしているのですが。
最後に、関東での開催が「東京ステーションギャラリー」だという点は、なるほどと思いました。実際、セゾン美術館亡き後の東京で本格的な写真展(20世紀前半の)を開催できる美術館というのは、それほど多くなくて、東京都写真美術館、東京国立近代美術館、世田谷美術館、渋谷区立松濤美術館、かろうじて目黒区美術館、開催する可能性があるという意味では東京都美術館と国立新美術館、あとは対象が20世紀後半の写真になってしまいますが、東京都現代美術館、東京都庭園美術館、そして20世紀前半も含めて東京ステーションギャラリーくらいでしょう。Bunkamuraザ・ミュージアムは改装のため、実質的に休館中ですね。かつては、その東急以外の各百貨店の美術館や美術スペースでも写真展が開催されていましたが、現在では、企画側(GIP、PPS通信社など)の活動がほとんどないので期待できないでしょう。
関東の東京以外でもよければ、横浜美術館、神奈川県立近代美術館、今年写真展「前衛写真の精神」を開催した千葉市美術館。川崎市市民ミュージアムは台風による浸水被害で移転・取壊しが決まったものの、移転先さえ決まっていないようですので、展覧会が開催できるような状態になるまでにはかなりの時間が必要でしょう。また埼玉県立近代美術館や板橋区立美術館などは、20世紀前半の美術全般という意味では非常に重要ですが、写真展の実績はないようにも思います。さらに、水戸芸術館や栃木県立美術館は、対象がそもそも主として20世紀後半でしょうが、1980年代、1990年代に比べると写真展企画についてはかなり消極的になっているように感じます。
まとめると、1990年代に比べて、関東において、20世紀前半の写真展を開催できる場は、かえって減っているようにさえ思えます。
愛知県美術館の安井仲治展開催まで2週間を切りましたが、まだ出品作品リストなどは公開されておりません。
https://www-art.aac.pref.aichi.jp/exhibition/000409.html
ただ担当の学芸員のかたはわかりました。
中村史子さんです。
https://www.aac.pref.aichi.jp/aac/aac117/contents/202309/index06.html
更なる情報に期待します。
少し前、No.2059で「都道府県ごとの「郷土の」写真家(20世紀前半)」についての写真展への期待を寄せました。
しかし、そんなことを書いたくせに、正直申し上げると、日本各地方での昭和戦前期の写真展については、やや絶望的に思っています。
というのも、東京都写真美術館が第一次開館した1990年を1つの節目と考えるならば、それから30年余が経っているわけですが、それでも何もないということは、今後も期待できないのではないかと思っているからです。
例えば、北海道を例にとりましょう。昭和戦前期(20世紀前半)の北海道の新興写真・前衛写真の作家は誰なのか?
北海道の写真というと、木津幸吉(1830~1895。1869年には東京浅草に写真館を開業)、田本研造(1832~1912)、武林盛一(1842~1908。1885年には東京に写真館を開業)などの19世紀の写真家が非常に有名で、その後は、掛川源一郎(1913~2007)まで飛んでしまうようです。掛川は、戦前から写真家として活動していたようですが、主たる活動は1950年代以降です。
ようするに、20世紀前半部分はすっぽりと抜け落ちてしまっています。では、その期間に、北海道には写真家はいなかったのでしょうか? あの広い北海道で、そんなことがあるはずがありません。19世紀に続いて、写真館・写真スタジオはたくさんあったでしょうし、プロの写真家では、新聞社や出版社にも多くおられたでしょう。さらに、20世紀前半の新興写真・前衛写真の担い手の多くがアマチュア写真家だったことを考えれば、アマチュア写真家でもいいわけで、それであれば、写真館などのプロの写真家の何倍も、もしかしたら何十倍もいたかもしれません。
では、それらを系統だてて、網羅的に整理したような資料はあるでしょうか? 当方は寡聞にして知りません。
さて、このように、情報が入手できない場合には、その先はどうしたらいいでしょうか?素人としては、どこに質問していいかもわかりません。やみくもに、北海道の中にある、美術館、博物館、資料館、図書館などに個別に連絡をとっていたらきりがありません。ちなみに、図書館に問い合わせたりすると、「どの写真家について調べているのですか?」と写真家の名前を逆に質問されたりすることがあります、そうではなくて、そもそもどんな写真家がいるのか名前を知りたいから問い合わせているのですが、しかし、具体的な名前もないと、図書館などでさえ「検索」が難しくてできないのでしょう。当方も大変苦労していますので、よくわかります。
また、その都道府県や一地方の1人や2人の写真家の名前がわかっても(何もないよりはましですが、それでも)、あまり役には立ちません。望ましいのは、北海道各地の写真館やアマチュア写真家(アマチュア写真倶楽部)が、いつどのように開業・結成されて、どういう発展をし、どういう弟子や新しい仲間を迎えて、次の世代に(さらに戦後まで)引き継がれていったのか、というような大きな流れが理解できる、系統的、網羅的(全道的)な情報です。
以上、北海道には申し訳ないのですが、例として取り上げさせてもらいました。しかし、この惨状は、ひとり、北海道だけの状況ではありません。沖縄の情報はない、九州はソシエテ・イルフだけ、中国・四国も情報がない(広島・岡山に限って考えても、新興写真・前衛写真の動きがまったくなかったはずがありません)、北陸も石川県にやや情報があるものの、富山・福井の情報はない、長野もない。関東でも、東京に情報が集中していて、その周りの各県については情報がありません。あの横浜のある神奈川県ですら、20世紀前半において神奈川県で主として活躍した写真家を30人挙げてください、という質問に回答できる人は誰もいないでしょう。(もし、おられるなら、どなたなのか教えていただきたいところです、ご連絡差し上げて、教えを乞います。)
困るのは、京都についてさえも情報がないのです。例えば、小林祐史らのKPS(キヨウト・ホト・ソサエテ)についてすら、MEMでの企画と資料しか存在しないのではないでしょうか?
https://mem-inc.stores.jp/items/62da0ce2d19123652687f2e7
このような状態、やはり今後も改善される可能性がないのではないかと、絶望的な気持ちになってしまっています。
素人の立場からは、このような状況に対して、何をすればいいのでしょうか? 何か役に立つことはないのでしょうか? 単に待っているしかない、というような単純な考えは捨てて、何かできることはないか、しぶとく考えていきたいと思います。
対象が戦後であり、しかも、もう、ちょうど1年前なので、情報が遅くて申し訳ありませんが、次の本が刊行されています。
戦後日本の抽象美術―具体・前衛書・アンフォルメル
尾﨑 信一郎
思文閣出版
2022/09発売
価格 ¥8,250(本体¥7,500)
目次(一部情報なし)だけ記載しておきます。
目次
第1部 具体とアンフォルメル(具体 絵画へいたるアクション;具体と山村コレクション;アクションの発見一具体、ポロック、カプロー ほか)
第2部 書と抽象絵画(森田子龍と前衛書;書と抽象絵画―1950年代の二つの実践;書とミニマル・アート ほか)
第3部 戦後美術を読み直す(1950年代のキュビスム;アメリカの影;身体と場―日本の戦後美術におけるアクション ほか)
展覧会カタログに寄稿した論文を中心とした論文集。ぜひ、実物を手に取って見てみたいものです。