そろそろ、デ・キリコ展が東京都美術館で始まりますが、No.2072でもご紹介した、2000~2001年で開催された次のデ・キリコ展で、1910年代の作品が出品されていたのかどうか確認しようと考えました。
デ・キリコ展 : 終わりなき記憶の旅
2000年11月11日-2001年1月14日:Bunkamuraザ・ミュージアム
2001年6月1日-6月24日:石川県立美術館
2001年6圧30日-7月29日:大分市美術館
2001年9月1日-10月2日:美術館「えき」KYOTO
主催: 東急百貨店、日本経済新聞[ほか]
展覧会カタログを見ることができたらすぐにわかるのですが、例のごとく、一般の流通にのらないため、公立図書館に所蔵されていることはほとんどありません。美術館の図書室や大学の図書館でないと所蔵している可能性がないでしょう。
しかし、にわかにそういう特殊な図書館・図書室に行くことができる機会はありません。そこで、とりあえず、開催された各美術館のウエブサイトに情報がないか調べてみました。しかし、結果は、惨憺たる状況でした。
・Bunkamura:過去の展覧会の情報がない、サイトリニューアルの前はあったはずだが?
・石川県立美術館:過去の展覧会の情報がない
(注)金沢21世紀美術館は、2004年開館
・大分市美術館:過去の展覧会の情報が2004年までしかない
・美術館「えき」KYOTO(伊勢丹):過去の展覧会の情報がない
いったいどうなってしまっているのでしょうか? なぜ、こんなに情報がないのでしょうか?
なお、展覧会情報一般であれば、国立新美術館の次のページがある程度網羅的でしょう。
(確か、以前は独立した機関によるものだったのを、国立新美術館が開館したときに、統合したというようなことだったかと思いますが、ここでは詳細は省略します。)
「日本の美術展覧会記録1945-2005」
https://www.nact.jp/exhibitions1945-2005/index.html
これで、デ・キリコ展を検索したら、追加で次の企画も発見できました。
巨匠デ・キリコ展 : 東洋の理想
会期・会場:
2005年7月16日-8月28日 北九州市立美術館
2005年9月14日-10月2日 大丸ミュ-ジアム梅田
2005年10月6日-10月25日 大丸ミュ-ジアム東京
2005年11月3日-11月20日 松坂屋美術館(名古屋)
2006年2月4日-3月21日:徳島県立近代美術館
2006年3月29日-4月10日:大丸札幌店7階ホール
主催: ジョルジョ・エ・イーザ・デ・キリコ財団、NHKプロモ-ション [ほか]
出版者 [出版地不明] : ツルモトル-ム
この企画、一部の会場では、サブタイトルが「異次元の森へ迷い込む時」と変更されているようです。また、この展覧会の展覧会カタログは、東京国立近代美術館アートライブラリには、なぜか所蔵されていないようです(国立新美術館のアートライブラリーには所蔵されています)。また、上記のリンクの「デ・キリコ」展の一覧には、徳島県立近代美術館と大丸札幌店7階ホールは掲載されていません。データベースの範囲である2006年で期間をはみ出るからでしょう。
さて、こちらも、開催された各美術館のウエブサイトに情報がないか調べてみました。
・北九州市立美術館:過去の展覧会情報はあるが、タイトルと会期のみ
・大丸ミュ-ジアム梅田:「過去の代表展覧会(抜粋)」というページは発見したが、デ・キリコ展は含まれていなかった
https://www.daimaru.co.jp/museum/umeda/archive/
・大丸ミュ-ジアム東京:過去の情報はなし
・松坂屋美術館(名古屋):過去の情報は2009年までしかない
・徳島県立近代美術館:過去の展覧会情報あり、出品作品リストあり
https://art.bunmori.tokushima.jp/srch/srch_art_detail.php?pno=4&no=553
・大丸札幌店7階ホール:過去の情報はなし
ということで、徳島県立近代美術館だけが極めて特殊である、という結論になりました。
そして、その徳島県立近代美術館の作品リストを確認すると、1910年代の作品はありませんでした。
(つづく)
(つづき)
つづけて奥付です。
パリ ポンピドゥーセンター
キュビスム展――美の革命 ピカソ、ブラックからドローネー、シャガールへ
[展覧会]
監修
ブリジット・レアル(フランス文化財主席学芸員、ポンピドゥーセンター/国立近代美術館・産業創造センター 前副館長)
田中正之(国立西洋美術館長)
学芸担当
久保田有寿(国立西洋美術館特定研究員)
中山摩衣子(京都市美術館学芸員)
飯塚隆(国立西洋美術館主任研究員)
企画・運営
国立西洋美術館
京都市美術館(京都市京セラ美術館)
日本経済新聞社文化事業部
コンサヴェーション
森絵画保存修復工房
輸送
日本通運
展示デザイン・施工
丹青ディスプレイ(東京会場)
吉野弘建築設計事務所(東京会場)
[カタログ]
執筆
ブリジット・レアル
田中正之
シルヴィ・パトリ(パリ・ギャラリー・ムヌール アーティスティック・ディレクター)
柳沢史明(西南学院大学准教授)
エレーヌ・ジュベール(ケ・ブランリー美術館首席学芸員、アフリカ・コレクション統括責任者)
松浦寿夫(画家、多摩美術大学客員教授)
久保田有寿
クリスティアン・ブリアン(ポンピドゥーセンター/国立近代美術館・産業創造センター 近代美術コレクション室長)
松井裕美(東京大学准教授)
天野知香(お茶の水女子大学教授)
ソフィー・クレップス(パリ市立近代美術館首席学芸員)
ジャン=クロード・マルカデ(フランス国立科学研究センター名誉研究部長)
河本真理(日本女子大学教授)
村上博哉(武蔵野美術大学教授)
マクシミリアン・タインハルト(ポンピドゥーセンター/国立近代美術館・産業創造センター研究員)
中山摩衣子()
アリアヌ・クーロンドル(ポンピドゥーセンター/国立近代美術館・産業創造センター 近代美術コレクション学芸員)
杉本渚(石橋財団アーティゾン美術館学芸員)
由良茉委(早稲田大学大学院博士後期課程)
仏文和訳
村上博哉
陳岡めぐみ(国立西洋美術館主任研究員)
孝岡睦子(大原美術館主任学芸員)
関直子(早稲田大学教授)
今井敬子(ポーラ美術館学芸部課長)
辻村永樹(早稲田大学非常勤講師)
町野陽輝(東京藝術大学大学院修士課程)
和文仏訳
小川カミーユ
大澤啓(東京大学総合研究博物館特任研究員)
ヴァンサン・マニゴ(早稲田大学准教授)
カトリーヌ・アンスロー
松井裕美
河本真理
編集
国立西洋美術館
京都市美術館(京都市京セラ美術館)
日本経済新聞社
編集補助
町野陽輝
デザイン
馬面俊之
制作
コギト
印刷
DNP大日本印刷
発行
日本経済新聞社
2023
ポンピドゥーセンター
国立西洋美術館
日本経済新聞社
ISBN 978-4-907243-26-5
奥付は、以上です。
これくらいの情報は、展覧会サイトに掲載していただきたいところですが、サイトには、展覧会カタログの具体的内容については掲載作品点数くらい(出品作品約140点をフルカラーで収録)で、ほとんど情報がありません。展覧会カタログの一部ページをすでに掲載しているくらいですから、そのついでに、目次や奥付くらい画像ファイルで構わないので掲載すればいいのにと思うのですが、そういう発想自体が欠如しているのかもしれません。
https://cubisme.exhn.jp/goods/#zurokuLink
なお、この図録は「楽天ブックス」で送料無料で購入できるようで、このサイトにそのリンクがあるだけましか、というところです。
https://books.rakuten.co.jp/rb/17654238/
ところが、この企画のサイトは、そもそもそれ以前の問題があります。
・出品作品リスト:前述のようにすでに京セラ美の会期が始まっているのに、まだ、国立西洋美術館の作品リストが掲載されています。ページの右上に、「作品リスト」のリンクあり。それでも、もしも2館の出品作品が同一であれば、まだすむのですが、実際には違うのです。
https://cubisme.exhn.jp/list.pdf
・チラシ:2館とも掲載なし
なお、各美術館のページを見ても、
国立西洋美術館:作品リストのみで、チラシなし
https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2023cubisme.html
京都市京セラ美術館:作品リストもチラシも掲載なし
https://kyotocity-kyocera.museum/exhibition/20240320-20240707
というように、基本的な情報を幅広く、海外も含めて発信しようという考えがないようです。なぜなのでしょうか? 非常に不思議に感じます。
展覧会企画「キュビスム展 美の革命」ですが、現在、国立西洋美術館の会期は終了し、京都市京セラ美術館の会期が始まっていますが、その展覧会カタログの情報を入手しましたので、以下ご紹介します。
まず、目次です。
芸術の大革命 p. 10
ブリジット・レアル
キュビスムを理解するために――いくつかの視点 p. 16
田中正之
カタログ
1章 キュビスム以前――その源泉
「技師、野生人、職人――キュビスムの始まりにおけるセザンヌ、ゴーガン、ルソー」 p.26
シルヴィ・パトリ
「アール・ネーグルの物語――現代の視点から」 p. 37
柳沢史明
2章 プリミティヴィスム
「20世紀西洋美術史におけるアフリカ芸術の衝撃:最初の出会い」 p. 40
エレーヌ・ジュベール
3章 キュビスムの誕生――セザンヌに導かれて
「セザンヌの教え」 p. 52
松浦寿夫
4章 ブラックとピカソーーザイルで結ばれた二人(1909-1914)
「ブラックとピカソーーザイルで結ばれた二人(1909-1914)」 p. 62
ブリジット・レアル
5章 フェルナン・レジェとファン・グリス
「フェルナン・レジェとファン・グリス(1910-1914)」 p. 80
久保田有寿
6章 サロンにおけるキュビスム
「パリのサロンにおけるキュビスム(1911-1914)」 p. 92
クリスティアン・ブリアン
7章 同時主義とオルフィスム――ロベール・ドローネーとソニア・ドローネー
「同時主義とオルフィスム――ロベール・ドローネーとソニア・ドローネー」 p. 108
ブリジット・レアル
8章 デュシャン兄弟とピュトー・グループ
「デュシャン兄弟とピュトー・グループ」 p. 118
松井裕美
9章 メゾン・キュビスト
「メゾン・キュビスト」 p. 130
天野知香
10章 芸術家アトリエ「ラ・リッシュ」
「ラ・リッシュとキュビスムの啓示」 p. 138
ソフィー・クレップス
11章 東欧から来たパリの芸術家たち
「フェラ、エッティンゲン、シュルヴァージュ」 p. 156
ジャン=クロード・マルカデ
12章 立体未来主義
「ラリオーノフ、プーニー、ゴンチャローワ」 p. 164
ジャン=クロード・マルカデ
13章 キュビスムと第一次世界大戦
「キュビスムと第一次世界大戦」 p. 174
河本真理
14章 キュビスム以降
「キュビスム以降」 p. 190
村上博哉
「これは痙攣する幾何学だ!」 新聞・雑誌の報道におけるキュビスム(1908-1919) p. 209
アリアヌ・クーロンドル
奇想のキュビスム:大衆文化におけるキューブの変容(1911-1914) p. 216
マクシミリアン・タインハルト
キュビスムと女性芸術家――6人の出品作家を中心に p. 223
久保田有寿
1950年代、アンドレ・ロートと日本――キュビスムを巡る試論 p. 229
中山摩衣子
関連年表 p. 234
出品作家解説 p. 240
主要参考文献 p. 247
デ・キリコ展については、No.2072とNo.2087でご紹介しておりますが、東京都美術館のチラシを見ることができましたの、少し情報を追加します。1910年代の作品の出品情報です。
チラシには、1910年代の作品が3点掲載されています。1点目は、ポスターやウエブサイトなどでも、本展を象徴する作品として使われている作品です。3点目もウエブサイトに掲題されている作品です。
・《形而上的なミューズたち》1918年 油彩・カンヴァス カステッロ・ディ・リヴォリ現代美術館(フランチェスコ・フェデリコ・チェッルーティ美術財団より長期貸与)
・《沈黙の像(アリアドネ)》1913年 油彩・カンヴァス ノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館
・《予言者》1914-15年 油彩・カンヴァス ニューヨーク近代美術館(James Thrall Soby Bequest)
これら3点に加えて、ウエブサイトに掲載されている1910年代の作品は、以下の2点。
https://dechirico.exhibit.jp/gallery.html
・《福音的な静物I》1916年 油彩・カンヴァス 大阪中之島美術館
・《弟の肖像》1910年 油彩・カンヴァス ベルリン国立美術館
以上ですが、さらに増えるでしょうか?
なお、以上5点については、次の書籍にも掲載されているので、1910年代の作品であることは間違いないでしょう。公式に認められているということになります。
De Chirico: The Metaphysical Period, 1888-1919
Paolo Baldacci、Jeffrey Jennings
Bulfinch Press
1998
ISBN-10: 0821224999
ISBN-13: 978-0821224991
当方が見た過去3回のデ・キリコ展(2000~2001年のBunkamura他の展覧会は除く、No.2072ご参照)では、1910年代の作品は含まれていなかったので、今回の企画は、その点だけでも画期的だと思います。とはいえ、上記書籍によれば、1910年代の形而上絵画だけで100点を越えているので、もしも5点だけでは「わずか」ということになってしまうでしょう。
最後に、都美のチラシが展覧会サイトに掲載されているかと調べてみましたが、掲載されていないようです。どうして掲載しないのでしょうか? すでに、そこにあるのですから、掲載することは容易です。何か、展覧会サイトにできる限り情報を集めて行こうという、そういう意識というか感覚というか、そういうものが欠落しているように思えてなりません。このような状態では、出品作品リストが掲載されることも危ぶまれます。
なお、東京都美術館のサイトには、チラシは掲載されています。
https://www.tobikan.jp/exhibition/2024_dechirico.html
次の本が刊行予定です。
放送大学教材 西洋の美学・美術史
小田部 胤久/宮下 規久朗
放送大学教育振興会
2024/03/20発売
価格 ¥3,960(本体¥3,600)
20世紀前半との関連は薄そうではありますが、興味深い内容です。
実際、20世紀美術についても、美学の観点からイズム横断的に深く解説した書籍が刊行されてもいいと思うのですが。20世紀美術については、もっぱらイズム同士の違いを際立たせた、全体の流れを説明するという傾向が強すぎるのではないかと懸念しています。ニューヨーク近代美術館の「キュビスムと抽象芸術」展(1936年)カタログに掲載された、アルフレッド・バー・Jr(Alfred Hamilton Barr Jr. (January 28, 1902 – August 15, 1981) )の系統図ではないですが、その方がわかりやすいためだとは思いますが。
以下、本書の目次です。
目次
美学の成立―感性的認識の学から芸術の哲学へ
美学の展開―芸術作品の存在論、感性論、身体美学
美―快とのかかわりに即して
美―知覚とのかかわりに即して
美的範疇―美の変貌
芸術の成立―模倣する技術から美しい技術へ
芸術の変貌―革新を支えるもの
創作と解釈―その循環構造をめぐって
聖像と偶像―宗教美術の始まり
聖母と美術―信仰を育んだイメージ
幻視と召命―キリスト教美術の本質
死と追悼―墓廟と記念碑
飲食と食材―風俗画と静物画
性と裸体―ヌードの歴史と意味
自然と人間―風景画と自然表現