次のようなページを発見し、安井仲治展の担当者が登場しておられました。
https://www.tokyoartbeat.com/articles/-/nakaji-yasui-interview-202310
日本の写真史をなぞる存在。写真家・安井仲治の魅力とは?「生誕120年 安井仲治」展を企画した3館のキュレーターが語り合う
2023年10月6日〜11月27日:愛知県美術館:中村史子(愛知県美術館学芸員)
12月16日〜2024年2月12日:兵庫県立美術館:小林公(兵庫県立美術館学芸員)
2024年2月23日〜4月14日:東京ステーションギャラリー:若山満大(東京ステーションギャラリー学芸員)
なお、中村史子さんは、No.2082でご紹介したとおり、すでに中之島美術館にご異動のようです。
他方、河出書房新社からこの安井仲治展の図録として刊行されている「安井仲治作品集」には、以下のように記載されています。
企画構成
兵庫県立美術館(小林公、尾﨑登志子)
愛知県美術館(中村史子、鵜尾佳奈)
東京ステーションギャラリー(若山満大)
共同通信社文化事業室(石原耕太)
この本については、素晴らしい内容ですので、後日またご紹介したいと思っています。
ちなみに、石原耕太さんとは、ツァイト・フォト・サロンの故石原悦郎さんとは関係ないですよね?
「前衛」写真の精神:なんでもないものの変容
瀧口修造・阿部展也・大辻清司・牛腸茂雄
について、展覧会図録に該当する書籍をじっくりと見ることができましたので、以下ご紹介いたします。
まず、担当の学芸員ですが、解説の執筆者として紹介されている、以下の皆さんということなのだろうと思います。
木原天彦(渋谷区立松濤美術館)
児矢野あゆみ(新潟市美術館)
上池仁子(新潟市美術館)
庄子真汀(千葉市美術館)
藁科英也(千葉市美術館)
八木宏昌(富山県美術館)
今までお見かけしたことのないお名前ばかりで、「写真」を担当できる方が増えていることがわかり、心強いことです。
次に、目次(完全版)を掲載します。以前、No.2075でご紹介した目次は、中途半端なものとなっており、申し訳ありません。それにしても、ネットでは完全な目次を常に掲載していただきたいものです。
目次
雑誌『フォトタイムス』にはじまる――瀧口修造、阿部展也と大辻清司―― 大日方欣一(写真/映像研究 九州産業大学芸術学部教授)
第1章 1930‐40年代 瀧口修造と阿部展也 前衛写真の台頭と衰退
(コラム)瀧口修造 写真との出会い
はじまりのアジェ
(コラム)瀧口修造と阿部展也の出会い 詩画集『妖精の距離』
阿部展也、美術作品を撮る
『フォトタイムス』における阿部展也の写真表現
(コラム)阿部展也の大陸写真
「前衛写真協会」誕生とその時代、その周辺――「前衛写真座談会」をきっかけに
第2章 1950‐70年代 大辻清司 前衛写真の復活と転調
(コラム)前衛写真との出会い
大辻清司、阿部展也の演出を撮る
大辻清司の存在論のありか――「APN」前後の動向を手がかりとして
(コラム)瀧口修造――ヨーロッパへの眼差し
(コラム)阿部展也の1950年代写真
『文房四宝』――モノとスナップのはざまで
私(わたくし)の解体――「なんでもない写真」
第3章 1960‐80年代 牛腸茂雄 前衛写真のゆくえ
桑沢デザイン研究所にて
(コラム)大辻清司のもとで――高梨豊の60年代
日常を撮ること
『SELF AND OTHERS』(1977)
紙上に浮かび上がるかたち 牛腸茂雄と瀧口修造
(コラム)瀧口修造のデカルコマニーについて
(コラム)牛腸茂雄の自筆ノート
『見慣れた街の中で』(1981)
あくなき越境の射程――遠ざかる主義の時代の地平から 松沢寿重(新潟市新津美術館館長)
学生の頃 畠山直哉
作家の言葉――自筆文献採録
写真と超現実主義 瀧口修造 1938年
前衛的方向への一考察 阿部展也 1938年
大辻清司実験室⑤ なんでもない写真 大辻清司 1975年
見慣れた街の中で 序文 牛腸茂雄 1981年
年譜
主要参考文献目録
作家解説
作品リスト
(以上目次)
このうち、第1章の部分を見ますと、(阿部展也による)フォトタイムスの表紙や、阿部展也、永田一脩、濱谷浩、小石清、坂田稔らの作品とメセム属(一部)、が紹介されていますが、「前衛写真協会」についての紹介が、不足していると言わざるを得ません。この本1冊分くらいの量で、「前衛写真協会」だけを紹介する、そんな文献が今後刊行されることを期待いたします。
正直なところ、それくらいの書籍を制作できる、情報の集積はすでにあるはずです。ただ、情報がばらばらに置かれており、かつ、専門の研究者だけしかアクセスできないような状態の資料もあるのではないかと思います。それを、誰でも、まとめて見ることができるような状態にしていただきたい、ということです。また、「前衛写真協会」に関する論説を書ける、あるいは書きたい方も多くおられることでしょう。
なお、今まで刊行されている。いくつかの書籍・展覧会カタログでも「前衛写真協会」は紹介されていますが、それらと重複があっても構わないのです。逆に、ある書籍に少しだけ、ある展覧会カタログに少しだけ、瀧口修造を研究する中で少しだけ、というような現在の、情報が点在していて参照が非常に不便な状況を改善すべく、この1冊を見たらば「前衛写真協会」のすべてがわかる、そういう書籍を希望しています。「前衛写真協会」の各メンバーについては、「前衛写真協会」前も、「前衛写真協会」後も併せてご紹介いただくことで、各メンバーにとっての「前衛写真協会」の意味や意義も見えてくるのだと思います。
そして、「前衛写真協会」の思想を浮かび上がらせるためには、その「敵」ともいえる、関西の「浪華写真倶楽部」や「アヴァンギャルド造影集団」の動向を、「前衛写真協会」の視点で紹介する必要もあります。どのような作品が「やりだま」に挙がっているのか? 逆に、関西では、なぜ瀧口修造などのような思想を持ちえなかったのか? いや、実は持っていたのかもしれない、では持っていたとしたら、それはなぜ写真作品として表出しなかったのか? いや、表出していたのかもしれません。その辺り、情報があまりになさすぎます。その点を考えるためには、例のフォトタイムスの「座談会」(フォトタイムス1938年9月号、「前衛写真座談会」(出席者(順不同):瀧口修造(前衛写真協会々員)、阿部芳文(前衛写真協会々員)、永田一脩(前衛写真協会々員)、村野四郎、福澤一郎、澁谷龍吉、今井滋(前衛写真協会々員)、小石清、花和銀吾、坂田稔、樽井芳雄、今井清、服部義文、奈良原弘、田村榮、15名))の、さらなる分析も必要です。また、「前衛写真協会」に所属はしていなかったが、同様の考え方をしていた写真家が当時はいなかったか。いや、いたはずです。少なくとも、この時期の「浪華写真倶楽部」や「アヴァンギャルド造影集団」の「前衛的」な(テクニックを駆使した作品を極端に重視する傾向の)作品に対する批判はあったはずです。もしかしたら、関西にすら批判は存在したかもしれません。
さらに、「前衛写真協会」に影響を与えた海外の作家については、アジェばかりが取り上げられますが、アジェだけではないはずです。また、同様の考え方を持っていた同時代の海外の写真家もいるはずですが、いったい誰でしょうか?
このように、話題は尽きません。はたして1冊に入り切るだろうか、というくらいです。
ちなみに、大日方欣一さんは、p9にこう書いておられます。「前衛写真協会(写真造形研究会)の短期に終わった活動についてここで検討する紙幅上の余裕がないが、」。
最後に、奥付の情報を掲載いたします。
2023年4月29日発行
編集:千葉市美術館 富山県美術館 新潟市美術館 渋谷区立松濤美術館
デザイン:須山悠里
デザイン協力:鳥屋菜々子
翻訳:クリストファー・スティヴンズ
校正:山田真弓
発行人:姫野希美
発行所:株式会社赤々舎
印刷製本:日本写真印刷コミュニケーションズ株式会社
最後の最後に、次の回もご参照ください。
安井仲治展関連の情報を細切れにご紹介していて申し訳ないのですが、当方も、情報を次々と得ているためで、ご諒解いただきたくよろしくお願いします。
No.2078でご紹介した中村史子さんですが、以下の情報を参照すると、菅谷富夫館長の大阪中之島美術館に転勤なさったようです。
ということは、中之島美術館での写真展企画、個人的に以前から書いているような、同館の貴重な収蔵作品を縦横無尽に駆使した「戦前期の関西写真を集大成する企画」も本当に期待していいのかもしれません。3年以内とは申しませんが、5年以内にぜひ。
他方、愛知県美術館では、写真関係は、鵜尾佳奈さんが担っていかれるのでしょうか?
なお、愛知県美術館のトークイベントも、お近くのかたはぜひご参加ください。
https://www-art.aac.pref.aichi.jp/exhibition/000409.html
■トークイベント「安井仲治をめぐる6つの言葉」
安井仲治は、38歳の若さで没するまでの約20年という短い写歴のあいだに、実に多彩な作品を発表しました。多彩ゆえに活動全体を捉えがたい写真家・安井仲治の実像に迫るため、写真を専門とする三名の学芸員を招き、6つの言葉をキーワードに安井仲治について語っていただきます。
[登壇者]竹葉丈(名古屋市美術館学芸員)
芦髙郁子(滋賀県立美術館学芸員)
中村史子(大阪中之島美術館学芸員)
司会:鵜尾佳奈(愛知県美術館学芸員)
[日時]2023年11月5日(日)10:30-12:30
[会場]アートスペースA(愛知芸術文化センター12階)
[定員]先着180名
[スケジュール]
10:30- 展覧会概要・イベント主旨説明 鵜尾佳奈
10:40- 「アマチュア×オールラウンダー」 中村史子
11:00- 「芸術写真×デザイン」 芦髙郁子
11:20- 「ドキュメンタリー×非常時」 竹葉丈
11:40- 休憩
11:50- 登壇者によるディスカッション
※申込不要・聴講無料。開始時刻に会場にお集まりください。
兵庫県立美術館の安井仲治展について、新しい情報が出ています。
https://www.artm.pref.hyogo.jp/news/press/pdf/press_y231013.pdf
「※特設サイトは 11 月上旬頃立ち上げ予定」ということのようですので、期待しています。
本日は取り急ぎ以上ですが、これらのページ、兵庫県立美術館のサイト上で発見しにくいんですよね。それに、ご紹介した2つ目のページですが「プレス・リリース」って、一般の「観客」とは距離があります。
それらの点につきましては、またの機会に書いてみたいと思います。
国立西洋美術館の「キュビスム展」が2023年10月3日(火)に開始されました。
すると、前日までは掲載されていなかった「作品リスト」が初日に公式サイトに掲載されていました。ページ上部の「作品リスト」というタブです。
https://cubisme.exhn.jp/list.pdf
掲載されないよりはましですが(企画によってはサイトには作品リストが掲載されない場合も多く見受けられますので)、もう少し早く掲載していただけることが望ましいのではないかと思います。開催前のドタバタ状態を考えれば、贅沢な望みかもしれませんが。
なお、以前にも書いたことがありますが、今回のような独立した公式サイトは、会期終了後ほどなくして消滅してしまうので、消えることのない国立西洋美術館のサイトにも、作品リストが掲載されることを望みます。現時点では掲載されていません。重複するからでしょうね。
https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2023cubisme.html
さて、この作品リストを見ますと、作品点数112点+資料29点、となっていますので、さすがに大規模であることがわかります。期待できます。
特に気になるのは、マイナーに走ってしまいますが、以下の5人の作家たちでしょうか?
<11 東欧からきたパリの芸術家たち | Artists from the East in Paris>
No.84 レオポルド・シュルヴァージュ Léopold Survage カップのある静物 Still Life with Cup 1913年 1913 油彩 / カンヴァス Oil on canvas MNAM-CCI, AM 3624 P
No.85 レオポルド・シュルヴァージュ Léopold Survage エッティンゲン男爵夫人 The Baronnes of Oettingen [1917年] [1917] 油彩 / カンヴァス Oil on canvas MNAM-CCI, AM 4277 P (R)
No.86 セルジュ・フェラ Serge Férat 静物 Still Life 1914年 1914 油彩、紙のコラージュ / 楕円形の 厚紙 Oil and paper collage on oval cardboard MNAM-CCI, AM 3098 P
No.87 セルジュ・フェラ Serge Férat 静物:グラス、パイプ、ボトル Still Life: Glass, Pipe and Bottle [1914–1915年] [1914–1915] 油彩、砂 / 厚紙 Oil and sand on cardboard MNAM-CCI, AM 3401 P
No.88 エレーヌ・エッティンゲン Hélène d'Oettingen 無題 Untitled [1920年頃] [c. 1920] 油彩 / カンヴァス Oil on canvas MNAM-CCI, AM 2015–370
<13 キュビスムと第一次世界大戦 | Cubism during the Great War>
No.98 ジャンヌ・リジ = ルソー Jeanne Rij–Rousseau 1キロの砂糖のある静物 Still Life with Sugar Box 1915年頃 c. 1915 油彩 / カンヴァス Oil on canvas MNAM-CCI, AM 3288 BIS P
No.101 マリア・ブランシャール María Blanchard 輪を持つ子供 Child with a Hoop [1917年] [1917] 油彩 / カンヴァス Oil on canvas MNAM-CCI, AM 3096 P
今や、ネットでいくらでも検索できると思いますが、5人の生没年だけ記載しておきます。
Léopold Survage(1879-1968)
Serge Férat(1881-1958)
Hélène d'Oettingen(1887-1950)生年を1885年とする情報もある
Jeanne Rij–Rousseau(1870-1956)
María Blanchard(1881-1932)
女性が過半数を占める(後半の3人)ということは、今まで取り上げてこなかった女性作家を広く取り上げていこうという、世の中の流れなのかもしれません。