もう少し前に気づいていたものの、会期中にご紹介できなかったので申し訳ありませんが、次の展覧会が開催されていました。
米倉壽仁展(よねくら・ひさひと、1905~1994年)
透明ナ歳月 詩情ポエジイのシュルレアリスム画家
山梨県立美術館
2022年11月19日(土)〜2023年1月22日(日)
https://www.art-museum.pref.yamanashi.jp/exhibition/2022/651.html
https://www.artpr.jp/yamanashikenbi/yonekurahisahito2022
古賀春江、福沢一郎、北脇昇というレベルまでは有名ではないものの、日本を代表する1人だと言っていい、特徴のあるシュルレアリスム系作家・米倉壽仁の展覧会です。
40年ぶりと書いてありますので、1982年頃に回顧展があったのですね。知りませんでした。
山梨県立美術館のページを確認しましたが、図版が何点か掲載されており、出品作品リストも掲載されていました。出品作品は、米倉作品が戦前が12点、戦後が29点と、かなりの点数です。ご本人以外にも、シュルレアリスム系統の内外の作家の作品も含まれており、全70点、資料も含めれば96点と、堂々たる企画です。なお、担当学芸員は、森川もなみさん、というかたのようです。
https://www.art-museum.pref.yamanashi.jp/exhibition/r4.11.19.li.pdf
正直な感想として、このような企画が、他の美術館に巡回せず、山梨県立美術館単独で終了してしまうのは、非常にもったいない気がします。
山梨が関東に近いということが災いしているのか、関東での開催は検討されなかったのかもしれません。しかし、例えば、板橋区立美術館などは最適だったように思います。また、関西はどうだったのでしょうか? 関東に比べて美術館がかなり少ないから、会場的に無理だったのかもしれません。いずれにしても、残念です。
そして、これを契機として、様々な美術館において、他のシュルレアリスム系日本人作家の企画も実施していただければありがたいと思っています。
日本のシュルレアリスム作品の網羅的な紹介という意味では、やはり、次の企画でしょう。
・日本のシュールレアリスム : 1925-1945/名古屋市美術館/1990
そして、その後、日本のシュルレアリスム絵画の広範な紹介として重要な、次のようなグループ展がありました。
・地平線の夢 昭和10年代の幻想絵画
Dreams of the Horizon: Fantastic Paintings in Japan 1935-1945
2003年6月3日(火)-7月21日(月・祝)
東京国立近代美術館 本館1階 企画展ギャラリー
http://archive.momat.go.jp/horizon/horizon.html
出品作家は26名で、以下のとおりです。
飯田操朗、伊藤久三郎、北脇昇、小牧源太郎、斎藤長三、早瀬龍江、吉井忠、米倉寿仁
大沢昌助、高田力蔵、難波田龍起、森芳雄、矢橋六郎、山口薫
朝井閑右衛門、清水登之、鈴木保徳、田中佐一郎、福沢一郎、藤尾龍四郎
浅原清隆、大塚耕二、杉全直、浜田浜雄、森堯之、矢崎博信
本来は、これらの企画を足掛かりに、その後、ここに挙げられているような作家の回顧展が次々と開催されればよかったのですが、実際には、そうはなっていないようです。飯田操朗、北脇昇、杉全直などは、これ以前にすでに回顧展があったと思います。吉井忠、大沢昌助、難波田龍起、山口薫なども回顧展があったのではないかと思いますが、「シュルレアリスム」という観点を中心にした企画とはできない作家でしょう。福沢一郎展は、2019年に同じ東京国立近代美術館で開催されました。森堯之などは、JCIIで写真展があったくらいですが、絵画では回顧展はまだ実施されていないのでは? 大塚耕二、浜田浜雄なども、回顧展があってもおかしくないと思います。ただ、1人1人の回顧展を企画できるほど、作品が残っていないのかもしれません。
今後の、関係各美術館の企画に期待いたします。
実は、ある程度網羅的であれば、シュルレアリスムのグループ展でも、個人的には構いません。それでも、貴重な企画となるからです。
最近、ChatGPTというオープンAIが話題になっています。
https://openai.com/blog/chatgpt/
登録するだけで、すぐに使えます。日本語でも大丈夫です。
では、美術の世界で、何か直ちに役に立つでしょうか?
おそらく、あまり役に立たないと思っています。というのも、ネット上にコンテンツ(情報)が不足しているからです。AIは、情報を蓄積すればするほど、より思考ができ、より正しい回答を示せる、というものだと思います。しかし、20世紀前半の美術に関しては、そもそも情報が少なすぎる。
iPhoneのSIRIのように、単にネットを検索して「情報がありましたよ」と示されても、そんなの知っているよ、自分ですぐ調べられるよ、と困るわけですが、このChatGDPは、そういう検索結果を単純にそのまま示すようなことはせずに、何らかの「思考」を行った結果や自分なりに情報を整理して回答として示すようです。しかし、それにしても世の中に情報が不足していれば、十分な「思考」も「整理」もできないでしょう。
そして、最大の問題は、ChatGPTの答えを信頼していいかどうかの判断が不可能、不可能とまではいわないとしても極めて難しいということです。現時点では、まだ実験段階でしょうから信頼できないのは仕方ないとしても、どの時点まで経ったら信頼することができるようになるのか、その判断もまたできないという「メタ」的な世界です。これでは、Wikipediaのほうがまだましな気がしてきました。これは、別にWikipediaをほめているつもりはなくて、それほどひどいということを表現したいだけです。要するに、あらかじめ知っていることを、再度確認するという役割しか果たせないのではないかということです。
試す前から、文句ばっかり並べても仕方ありません。
単純な質問で少し試しに使ってみようと思いますので、後日その結果をご紹介いたしましょう。
ただ、どういう質問をしたらいいのかを考えねばなりません。AIに質問をするために、人間が苦労するのでは、何か本末転倒な感じもします。しかし、頭の訓練になるとポジティブに考えることにしましょう。逆に、試しに使うことにより、その結果もAIの学習に役立つでしょうから、AIの今後の発展に寄与することができるかもしれないと期待したいと思います。
なお、グーグルでも「Bard」という同様のAIを3月か4月には公開するという情報もあります。他方、マイクロソフトはChatGPTに投資する予定だと。
このようなAIが、Googleが定着させてしまった「検索」の方法というか「検索」の思想(単純に「言葉」によって「力任せ」に情報を持ってくる)を変革する力になってくれたらいいのですが。
強く期待します。
遅ればせながら、直前になって初めて知ったのですが、渋谷の東急百貨店本店が2023年1月31日(火)で閉店、そのあとに「Shibuya Upper West Project」という再開発で、高層ビルを建てるそうです。そのため、Bunkamuraも2023年4月10日(月)から2027年度中(時期未定)まで長期休館ということで、その間も、一部、「ヒカリエ」9階のヒカリエホールなどで、展覧会を継続するとのことです。
https://www.bunkamura.co.jp/topics/6988.html
東急本店にはほとんど行ったことがなく、あまり印象はないのですが(むしろ、東急は東横店か日本橋店のイメージ)、1989年開館したというBunkamuraには、特に、ザ・ミュージアムだけではなく、B1の書店(丸善→Nadiff)に洋美術書が非常に多かったので、よく行きました。(渋谷Parcoにあった、「洋書ロゴス」とともに「はしご」しました。)
ザ・ミュージアムのほうも、今後再開するのですから、今ここで「思い出」を書くような場面ではありませんが、せっかくの機会ですので少し書いてみますと、セゾン美術館と比べると、先鋭さに欠ける、しかし、ときどき、「これは!」と思うような面白い企画がある、という感じで、何回か足を運んでいます。
以前もこの場で書いたかもしれませんが、その中でも、1992年(?)に開催された、「レニ・リーフェンシュタール展LIFE」については鮮烈な印象が残っています。展示されていた写真作品というよりは、むしろ、石岡瑛子さんによる、アート・ディレクション、会場設計の印象です。暗い会場全体の中で、天井からスポットで射される照明により浮かび上がる1点1点の写真作品、「写真展」というイメージから通常想像される設置された垂直な壁に写真が展示されているというものではなく、1点1点の写真ごとに作られた、縦方向直方体の「台」の上に、確かやや斜めに展示された各写真作品、そこに照明が照射されていて、幻想性さえ醸し出していました。とにかく一般の写真展(美術展)からはかけ離れたレイアウトで、大変驚いた記憶があります。ちなみに、石岡さんは、確か、これより以前に西武美術館(のちのセゾン美術館)で開催されたレニ・リーフェンシュタールの企画でも会場レイアウトをなさっていたので、おそらく、レニ・リーフェンシュタールがお好きなんでしょう。
あの、ザ・ミュージアムは、要するに、単なる天井の高い大きな「箱」型会場で、もともとは床の段差もなく(?)、手間やコストをかけさえすれば、どんな展示空間でも作り上げることができる、というものでした。そういう使い方は、今までなされていないのではないかと思いますが、舞台と椅子を置けばライブ会場やパフォーマンスの会場にもなるでしょうし、美術で言えば、極めて巨大なインスタレーション作品を1点だけ置く、ということもできるでしょう。ある意味、この石岡瑛子さんの方法は、この会場に対する1つの解答だったのだと思います。
バブル期に乱立した百貨店系の美術館の中で、今や東京で唯一残っているといっていいこの「Bunkamuraザ・ミュージアム」、この場所での再開を心待ちにしております。どういう全体設計になるのか、現在のものを踏襲するのか、変化をつけるのかについても興味深いところです。
そろそろ、年度末が近づいてきていますので、来年度の各美術館(・博物館)の展覧会企画のスケジュールが出始めています。ただ、例年ですと、4月の年度開始直前まで公表されないというケースもあるので、まだまだ網羅的ではありません。
さて、これに関連して、以前から同じようなことを書いてきていますが、日本全国のこれからの展覧会のスケジュールを1回ですべて網羅的に検索できる、そういうようなサービスはないものでしょうか?(なお、本当の希望としては、「日本全国の」だけではなく「世界全体の」、また、「これからの」だけではなく、「過去のものも含めて」、ということなのですが、とりあえず、ここでは触れません。)
現在は、複数の美術館・博物館の展覧会情報をまとめているサイトがいくつかあるように見受けられますが、網羅的ではありません。結局は、1つ1つの美術館のサイトを見に行って、確認するしかないようです。その美術館の数が、10なのか、50なのか、はたまた100なのかは、調べる人によるでしょう。数が多ければ多いほど大変です。また、この検索方法には矛盾があって、希望する展覧会がどの美術館で開催するかわからないのに、はじめから美術館を特定しないと調べられない、という点です。結局、無限に時間がないと、または、仮に無限に時間があったとしても、網羅的に調べることは無理なのです。
そこで、どうしたらいいかを考えてみました。
まず、ある特定の組織が、また、ましてや特定の個人が、網羅的に情報を集めて発信するということは無理でしょう。中途半端になることが、容易に想像されます。ある程度以上の人数を抱えている組織であれば、マンパワー的には可能かもしれませんが、現在そういう網羅的な展覧会情報の発信がなされていないということは、コストの問題かもしれませんが、やはり不可能な側面が存在するのだと思います。
とすると、発想を逆転して、情報を発信する側が集めるのではなく、情報を発信する側に自動的に情報が集まって来る仕組みを作ればいいのです。展覧会情報に関するサイトを立ち上げ、その運営者が各美術館に情報提供を求めればいいわけです。セキュリティの問題があり得ますが、究極的には、サイトのページに各美術館から直接情報を入れてもらうようなシステムにすれば、運営側は、ほとんど何もしなくてもいいようになります。
かといって、誰でも運営者になれるかというと、例えば、当方個人が運営者を目指して、各美術館に情報を求めても、誰も応えてくれないでしょう。やはり、国や代表的な美術館、または大手の出版社のような、権威もあり、信頼も置けるような運営者である必要があります。
さて、こう書くと、簡単に実現できそうですが、これでもうまく行かないとしたら何が問題なのでしょうか?
まず、予算化などの問題があるでしょう。おそらく、このアイデア、2~3年はうまく行かないでしょう。とすると、年度ごとの予算、特に国や地方公共団体の予算にはなじみにくいでしょう。不可能ではないでしょうが、少なくとも、あまり乗り気になってくれるとは思えません。
もう1つすぐに考えられるのは、情報を出す側の各美術館の問題でしょう。すなわち、そんなものが必要だと考えていない、そういう発想がない、自分の美術館でウエブサイトを作成して公表しているのだから、それで十分だろうと。本気でそう考えているのだとしたら、自分で実際に探して見なさい、といってあげたいですね。「お題」として、例えば、2023年度に、「古賀春江」に関する展覧会が開催されるかどうかを、調べてください、と。どこの美術館で開催されるか、そもそも開催されるのかどうかもわからない、そんな企画を探す。完全に探そうとしたら、それがどんなに大変なことか、お分かりいただけると思います。要するに、どこまで調べても終わりがないのです。当方自身であれば、古賀春江ですから、神奈川県立近代美術館にでも質問をしてみるかな、と思いますが、いずれにしても、網羅的に検索するのは困難でしょう。さらに、それが、よりマイナーな作家であればどうするか、作家ではなく「テーマ」だとしたら、仮に特定の美術館に問い合わせをしようとしても、問い合わせ先の美術館すら見当がつかなくなるのではないでしょうか。そして究極的には、自分では思いつけないような作家であったりグループであったりテーマであったりすれば、今までも何回か書いていますように、ネット上の検索そのものになじまないわけですが、それでも、一覧になっていれば、相当に探しやすくなるでしょう。
あと、問題は「継続すること」です。ある程度以上の期間にわたる継続が必要ですが、それが保証できるのか? 50年継続できれば、過去の情報が蓄積され、自動的に「過去の展覧会情報」として活用できることになります。ようするに、長く継続できれば継続できるほど、価値は高まると思います。ただ、過去の展覧会の情報については、これからのスケジュールよりは、はるかに検索しやすく、ネット上の情報もそれなりに存在するため、要望は大きく減るかもしれません。
さて、ここまで書いてきましたが、やはり網羅的にしかも「ワンストップ」で各美術館の将来の展覧会を検索するなどということは、無理なんでしょうか? いずれにしても、どこかの組織が音頭を取っていただかないと、まったく進まないことだと思いますが、そのことが無理だということでしょうか?
なお、写真関係の展覧会だったら、かつてのアサヒカメラの情報が、比較的網羅的だったように思います。ただ、もう休刊してしまいました。また、月単位でしたので、ちょっと期間が短いですね。
それから、展覧会情報を美術館だけではなく、ギャラリーや画廊も含めて、かなり網羅的に掲載されている雑誌『ギャラリー』(ギャラリーステーション発行)があります。非常に重要な雑誌だと思います。しかし、美術館だけでも、美術展を目で調べるのは非常に大変です。また、月単位というのも、不満が残ります。
なお、展覧会のスケジュールの公表時期が遅いという問題については、No.2038で少し触れましたが(No.2040もご参照)、後日まとめてもう少し書きたいと思います。
以前からも、ネット上の美術書の検索に対する様々な批判を書いていますが、今回は1つのアイデアをご紹介します。なお、これは、美術書に限られず、どのような分野の書籍についても使用可能なアイデアです。
ここで取り上げる批判は、書籍の検索が、タイトル(またはあらかじめ設定されているキーワード)、著者、出版社などの特定の情報や語句でしか検索できない、ということ。逆に言えば、キーワードというよりは、もっとあいまいな「テーマ」のようなもの、例えば「1920年代・1930年代の日本の前衛的な写真」などで検索できるようにならないか、という批判です。
なお、Webcat Plusの「連想検索」というものがありますが、これは、あくまでも「キーワード主義」であり、当方が期待しているものとは違うようです。例えば「1920年代・1930年代の日本の前衛的な写真」」で検索を試してみると、「1920年代」・「1930年代」という言葉を拾ってくれているようですが、必ずしも、「写真」に限定されておらず、また、何よりの問題は、ヒットする件数が膨大になってしまう、という点です。いつも必ず同じ件数ではないのかもしれませんが、当方が検索した時は、250万件を超えていました。この流れで考えると、件数が多いのは仕方がないとして、その中で、重要なのは、優先度をどう付してくれるのか(どういう順番で表示されるのか)、という点です。しかし、それは、「検索文」にくどくどと記載しないと駄目なのではないかと思います。その意味では、通常の検索と大きくは変わらないのでしょう。
ちなみに、「1920年代・1930年代の日本の前衛的な写真についての2000年以降に刊行された資料」と限定するつもりで再検索すると、ヒット件数が350万件以上とかえって増加してしまいました。
この方向はさらに検討すべきだとして、今回は一旦、その批判の方向はやめて、まったく違うことを考えてみます。
当方としては、ネットよりも実際の書店に足を運んだ方が、思いがけない本を発見できます。それは、何故でしょうか?
従来、書店で本を探す時に、自分がどうしていたか、また、現在もどうしているかを考えてみます。もちろん、ある特定の本を探しに行くときもあり、そのような場合には、大きな書店では、店内の「在庫検索機」で検索をして、示された書棚に向かいます。しかし、そうでない場合には、どうするでしょうか?
まず、美術や写真や建築の棚を見に行きます。それぞれの棚をざっと見ます。知っている本が並ぶ中、見慣れない本があったりしますので、それらの本を見ます。また、「平積み」の本を特に注意して見ます、新刊であったり注目されている本であったりするだうからです。
これです。これをネットで実現できないものでしょうか?
おそらく、ネット書店には、なかなかそんな発想は出てこないのではないでしょう。あたかも、アナログの書店に回帰するようなものだからです。しかし、1点1点を検索し続けねばならない従来のネット書店の検索とは異なる大きなメリットがあります。それは、あらかじめ選ばれ分類されて並べられている書籍を「ざっと」一覧することができる、そして、自分で選んでいるわけではないからこそ、「意外な」本を発見できる可能性が高い、ということです。
具体的に考えてみると、例えば、「美術」の本棚を作っていただき、それが閲覧できるようにしていただくのです。そして、どの本を選んで棚に並べるのかについては、例えば、「大型書店」「中型書店」「小規模書店」「美術書専門店」などの「書店のジャンル」を作っていただき、それぞれ何らかの基準を設定して選んでいただければいいわけです。そんな基準は実際にはなかなか難しいのかもしれませんが、しかし、現実には、世の中にたくさんある各書店では、すべて何らかの基準で本を選んでいるはずです。逆に、基準もなく、全部の本を並べるなどという発想は、ネット書店特有のものです。そして、完全に人間の手を離れることは困難かもしれませんが、AIを使えば、ある程度自動化できるはずです。「ジャンル」「発行日」「売れ行き」「専門的なのか一般向けなのか」などのデータの管理は、ネット書店が正に得意とすることで、それらに基づき、書店の棚のように並べれば、出来上がりです。
最大のネックかもしれないことは、ネット書店では「背表紙」の画像を持っていないのではないかということ。ネットで背表紙を掲載している例を、ほとんど見たことがありません。「書棚」にするためには、背表紙が必要になりますから。しかし、発想を変えて、背表紙ではなく、通常の表表紙を並べるということも可能でしょう。もちろん、サイバー上のスペースを多く使わなくてはならなくなり、本を探すこともより大変にはなるでしょうが。
これが実現すれば、利用者は書店感覚で本を選ぶことができます。いちいち検索する必要はなく、行きたい書店(規模や専門書店なのかどうかなど)を選択し、自分が見たい棚を選択すれば、書店に行った時のように、書籍の背表紙(または表表紙)をざっと見ることができます。また、「平積み」してある本は、特に注目することができます。
そして、究極的な希望としては、自分専用の書店や書棚(ジャンルを超えて、関心のあるすべての本が並ぶような)を作ってもらう、ということでしょう。美術というような非常に大きな枠ではなく、自分だったら特に関心があるという本が優先的に並ぶという書店・書棚です。もう、書棚ごと買い占めたくなるようなそんな品揃えをお願いしたい。現在、「ビッグデータ」を使っているといわれるAmazonなどでは「お薦め」の本やCDなどがネットのページに表示されたりメールで送られてきたりしていますが、その質の低さは目を覆うものがあります、先日(たまたま)調べた本をいまさらまたメールで知らせてきてどうするの、すでに持っている本を改めて知らせてもらってもなあ、などという感じです。当方が見たこともないような本を推薦してきておくれ、と心から言いたいところですが、現在のデータやAIのレベルではまだまだ無理なのでしょうか? とともに、自己批判的に書くと、もっと自分のほうから積極的に情報を提供しなければ(どんな本を希望している、どんな本を持っている)、AIにある程度以上の能力があったとしても、適切な選択や推薦は難しいのだと思います。その意味では、この「書店法式・書棚法式」でも、内容の充実を図るためには、日々情報を提供することが必要になるでしょう。そういう意味では、「検索」することは不要でも、やはり、ユーザー参加型のサービスであることは間違いありません。
なお、このような書店・書棚の美術分野では、もちろん、あらゆる国の洋美術書も含めて並べていただくことを想定しています。もちろん、今すぐは無理なのでしょうが。
さらには、現在、もう販売されていない過去の書籍も並ぶようにしていただきたい、もうこうなると書店を超えて「図書館」になるわけで、もちろん、中身の1ページ1ページも見られないと意味がないわけですが、このような本の中身を見ることもできるような、世界中のあらゆる本が所蔵されている、ネット上の自分専用の図書館ができること、それが最終的な希望ですね。これは、ジャンルを限らなければ、Googleが見ている夢と同じことになるのかもしれません。