「1920年代・1930年代の日本の写真」というと、もうちょうど100年前になります。
昨年は、東京都写真美術館で「アヴァンガルド勃興」という非常に優れた企画がありましたが、あのような内容のことを言っているのでしょうか?
いいえ違います。
あの企画は、お気づきのとおり、東京、大阪、名古屋、福岡といった、大都市近辺の状況を紹介したものです。
それ以外の日本の各地については、情報が不足していてわからない点が多く残りますが、同様の新興写真や前衛写真が一般的であったとは、どうしても考えられません。とすれば、「日本」の中でも「それ以外の日本の各地」のほうが広いわけです。
さらに、仮に大都市圏であったとしても、新興写真や前衛写真を撮影していた人間は、先鋭的な(ごく)一部ではないか、と推測されます。新興写真や前衛写真を見て楽しんでいる人は多くいたのかもしれませんが、そのような人々が皆、そのような写真作品を制作しているとは思えません。
そう疑い出すと、「1920年代・1930年代の日本の写真」の一般的傾向が、あっという間によくわからないものになって来るのではないかと思います。
ぜひ、大都市圏以外の日本の各地域において、または大都市圏でもより幅広く、日本の1920年代・1930年代における写真がどういうものであったかについて、なお一層掘り起こしを実施していただきたいと思います。そして、ごく一般的な当時の人々が撮影していた「1920年代・1930年代の日本の写真」、より一般的な100年前の日本の写真を探り出していただきたい。そういう企画の実現を願っております。
そろそろ2023年度の展覧会の情報が出て来ていますので、20世紀前半に関わりそうな企画を2件まとめてご紹介します。
<1>
「前衛」写真の精神: なんでもないものの変容. ~瀧口修造、阿部展也、大辻清司、牛腸茂雄~
千葉市美術館:2023年4月8日(土)~5月21日(日)
富山県美術館、新潟市美術館、渋谷区立松涛美術館の3館にも巡回
ネット上では情報がまだありませんが、もしかすると、戦前については、ほとんど含まれていないかもしれません。それでも、顔ぶれはすごい、というか非常に癖のある人脈で、楽しみです。
<2>
ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開 セザンヌ、フォーヴィスム、キュビスムから現代へ
アーティゾン美術館:2023年6月3日(土)~ 8月20日(日)
https://www.artizon.museum/exhibition/detail/557
私立の美術館だからか、さすがに情報提供が早いですね。規模的にやや「小振り」という可能性はありますが(展示作品についての詳細情報はまだありません)、重要な企画となることは間違いありません。
新収蔵作品だという、フランティセック・クプカの《赤い背景のエチュード》1919年頃が掲げられていて、クプカの作品はなかなか目にすることがないので、目を引きます。
なお、この美術館については、旧ブリジストン美術館の時代から展覧会を見たことがないので(前を通ったりミュージアムショップに行ったりしたことはありますが)、これを機会に訪問してもいいかもしれません。古賀春江という観点からも、注目すべき美術館です。なお、古賀春江については、久留米市美術館(旧石橋美術館)のほうがより充実しているということかもしれませんが、よく理解できていません。
本年もよろしくお願いいたします。
恒例の「5大ニュース」です。
今回は、以下のとおり選んでみました。
<展覧会>
・アヴァンガルド勃興(1998)
これは展覧会でありますが、同時に書籍でもあります(2005)。素晴らしい内容でしたが、個人的には、すでにこの次はどういう方向での企画になるのかを考え始めています。
・写真史家・金子隆一の軌跡(2010)
行きたかったのですが、まったく行くことができませんでした。展覧会カタログも入手し損ねました。
https://mem-inc.jp/2022/05/12/kaneko_jp/
<書籍>
・帝国日本のプロパガンダ(2012)
入手したものの、まだ読むことができていません。
書籍の「次点」として、「舞台の面影」(2007)を挙げておきます。もう1回この場所で詳細な感想を書いてみたいのですが、非常にいい本ながら、20世紀前半が十分にカバーされていないので、安部豊さんに焦点を絞っていただくなどの続篇を非常に強く期待するところです。
<その他>
・大阪中之島美術館開館(1989)
今後に強く期待いたします。特に、関西の昭和戦前期の写真を集大成するような企画を。
・「個人向けデジタル化資料送信サービス」の開始(2006、なお、2000)
さらに、対象拡大を希望いたします。
なお、過去の「5大ニュース」は以下の通りです。
2020年:1916(2021年1月3日)
2018年:1779・1780・1781(2018年12月31日)
2017年:1689~1692(2018年1月7日)
2016年:1549~1552(2017年1月2日)
2015年:1420~1423(2016年1月3日)
2014年:1219・1220(2015年1月4日)
2013年:1147 (2014/2/2)
2012年:1084(2013/1/6)
2011年:1027(2012/1/10)
2010年:957(2011/1/2)
2009年:892(2010/1/10)
2008年:821(2009/2/1)
2007年:744(2008/ 1/27)
2006年:650(2007/ 1/ 3)
2005年:580(2006/ 1/ 1)
2004年:493(2005年1月2日)(「その他」の最後の部分)
次の展覧会が開催予定です。
「キュビスム・レボリューション」展
2023年10月3日~2024年1月28日:国立西洋美術館
2024年3月20日~7月7日:京都市京セラ美術館
キュビスム全体を概観する久しぶりの企画のようで、非常に面白そうです。
会期がまだ先だからなのでしょうが、国立西洋美術館のウエブサイトでも京都市京セラ美術館のウエブサイトでも、何も情報が見つかりません。やはり、年度をまたがっているからでしょうか、国立や公立の美術館の情報は非常に遅いですね。国立西洋美術館などは、この企画の前の2023年9月までの企画の会期までは掲載されているのですが(しかし、詳細情報はない)・・・。
https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/upcoming.html
すでに世の中に情報が出始めているのですから、会期や主要作品など、年度をまたがっていても、早め早めに情報を出していただきたいものです。
ところで、「京都市京セラ美術館」については、名前を見かけることが多く、何の美術館であろうかと以前から気になっていたのですが、今回この企画について調べてみて、旧京都市美術館が、2017年からこの名称に変更されていたということを初めて知りました。50年間の契約だそうです。野球場などの名称のようで、面白い試みですね。
遅ればせながら、また、戦後についての企画ではありますが、次の展覧会が開催中です。
藤野一友と岡上淑子
福岡市美術館
会期 2022年11月1日(火)〜2023年1月9日(月)
https://www.fukuoka-art-museum.jp/exhibition/fujinookanoue/
藤野一友(1928-1980)と岡上叔子(1928-)は夫婦で、ともに、シュルレアリスムという観点からは、決して忘れてはならない作家です。特に、藤野一友の名前を見たのは、いったい何十年ぶりかというところで、最初にその作品を見たときに受けた感覚がよみがえる感じです。
お近くのかたは、ぜひ足をお運びください。
戦後ですが、シュルレアリスムまたフォトモンタージュという観点から、あえてご紹介いたしました。
なお、本展担当の学芸員は、正路佐知子さんというかたのようです。